糖尿病患者でなくても、sglt2阻害薬で心不全入院が22%減ります。
sglt2阻害薬はもともと2型糖尿病の治療薬として開発されました。腎臓の近位尿細管に存在するsglt2を阻害し、尿中へのグルコース排泄を促進することで血糖値を低下させる仕組みです。
関連)https://pharmacist.m3.com/column/byouki_kusuri/6882
ところが大規模臨床試験のDAPA-HF、EMPEROR-Reduced、DELIVER、EMPEROR-Preservedなどで驚くべき結果が得られました。糖尿病の有無にかかわらず、心不全患者の再入院や心血管死を有意に減らす効果が明らかになったのです。
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約1万人の患者データをまとめたメタ解析では、sglt2阻害薬を服用している患者はプラセボ服用者に比べ、心臓病関連の死亡や心不全悪化による入院の可能性が22%低いことが示されました。心血管死と心不全入院の複合エンドポイントは26%減少しています。つまり予後改善効果が大きいということですね。
関連)https://dm-net.co.jp/calendar/2021/036336.php
従来は左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)に効果があるとされていましたが、駆出率が保たれた心不全(HFpEF)や軽度低下した心不全(HFmrEF)にも効果があることが証明されました。すべてのタイプの心不全患者に有効であることが確認されたわけです。
関連)https://caring.co.jp/blog/37465
sglt2阻害薬が心不全に効く最も重要なメカニズムの一つが利尿作用です。近位尿細管でグルコースの再吸収が阻害されると、尿中に排泄される糖が増えます。
関連)https://therres.jp/r-open/img/open_202204_1.pdf
糖は浸透圧を高める物質ですから、尿中の糖濃度が上がると水分も一緒に引き出されます。これが浸透圧利尿です。急性心不全患者を対象とした研究では、sglt2阻害薬は「ナトリウム利尿」ではなく尿糖増加に伴う「浸透圧利尿」を誘発することが示されています。
関連)https://www.youtube.com/watch?v=Du5MXfTiKZQ
同時にナトリウムも排泄されるため、ナトリウム利尿の効果も得られます。このナトリウム利尿こそがsglt2阻害薬を臓器保護薬へと変貌させた鍵と言われています。心臓の前負荷が軽減されるからです。
関連)https://pharm.nishimoto-learning.jp/okusuri_note/drugs/dapagliflozin
体内の余分な水分と塩分が排出されることで、血圧が下げられ心臓への負担が軽減されます。間質性浮腫も改善します。心不全の正体である体液貯留が緩和されるわけです。
sglt2阻害薬が心不全に効くもう一つの重要なメカニズムが、心筋エネルギー代謝の改善です。体外への糖排出の結果、血中ケトン体濃度が上昇することが知られています。
関連)https://jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=21871
ケトン体は心筋細胞にとって効率の良いエネルギー源です。心臓がより効率良くエネルギーを利用できるようになり、心保護的に作用していると考えられています。これがケトン体仮説です。
関連)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_21871
大動物ペーシング心不全モデルでの研究では、sglt2阻害薬投与によりAMP-activated protein kinaseが不全心筋で活性化されることが明らかになりました。これにより心筋アポトーシスと心臓リモデリングが抑制され、心不全の発症・進展が抑止されます。心筋エネルギー効率化が原則です。
関連)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K08052/
ただしケトン体仮説については、sglt2阻害薬服用に伴う程度のケトン体上昇では心筋のPCr/ATP比に影響しないとする報告もあります。エネルギー代謝改善が単独で心保護効果を説明できるわけではない可能性があります。
関連)https://jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=21871
患者さんにエネルギー代謝について説明する際は、「心臓が燃料を上手に使えるようになる」とイメージしやすい表現を使うと良いでしょう。専門用語を避けて日常的な言葉で伝えることで、理解が深まります。
sglt2阻害薬には腎保護作用があることも重要なポイントです。近位尿細管でのナトリウムと糖の再吸収が抑制されると、尿細管周囲の過剰なATP消費が抑えられます。
関連)https://www.jhfs.or.jp/topics/eletter/2020_12.pdf
これにより尿細管周囲の酸化ストレスが減り、REP細胞(エリスロポエチン産生細胞)の機能が回復します。実際、sglt2阻害薬によるヘマトクリット値の増加が報告されています。貧血改善効果があるということですね。
関連)https://www.jhfs.or.jp/topics/eletter/2020_12.pdf
さらに糸球体尿細管フィードバック機構により、糸球体内圧が低下します。これが腎保護につながります。糖尿病の有無を問わず、eGFRの低下を遅延させる効果が確認されています。
関連)https://pharm.nishimoto-learning.jp/okusuri_note/drugs/dapagliflozin
腎機能が低下している心不全患者さんの場合、sglt2阻害薬の投与で長期的な腎機能悪化を防げる可能性があります。ただし急性期の腎機能変化には注意が必要で、定期的なモニタリングが欠かせません。
sglt2阻害薬には交感神経の過剰興奮を抑制する作用があります。心不全患者では交感神経が過度に活性化しており、これが心臓への負担を増やす要因になっています。
関連)https://www.jseptic.com/journal/JC211109.pdf
sglt2阻害薬が交感神経活性を抑制することで、心拍数の増加や血管収縮、ナトリウムと水分の貯留が軽減されます。これらが長期化すると心不全が悪化するため、この調節作用は重要です。
また抗炎症・抗線維化作用も報告されています。臓器の構造的変化を抑制し、心臓リモデリングを防ぐ効果が期待されます。尿細管周囲の酸化ストレスを減らす作用もこれに関連しています。
関連)https://therres.jp/r-open/img/open_202204_1.pdf
複数の機序が同時に働いているため、sglt2阻害薬の心保護効果は単一のメカニズムでは説明できません。糖代謝改善、ヘマトクリット上昇なども寄与する可能性があり、総合的な理解が求められます。
関連)https://pharmacist.m3.com/column/byouki_kusuri/6882
現在のガイドラインでは、sglt2阻害薬はHFrEF、HFmrEF、HFpEFのいずれのクラスにおいても心不全治療薬の第一選択薬として推奨されています。すべての心不全症例での投与が推奨されているということです。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.002576990620122045
主な適応薬剤としては、ジャディアンス(エンパグリフロジン)やフォシーガ(ダパグリフロジン)が心不全患者に対して使用されています。症状の改善や入院リスクの低減といった効果が確認されています。
ただし投与時にはいくつかの注意点があります。まず脱水のリスクです。sglt2阻害薬は利尿効果が大きく、心不全患者の場合は他の利尿薬を併用していることも少なくありません。必要な量の水分摂取ができているか注意が必要です。
関連)https://www.youtube.com/watch?v=Du5MXfTiKZQ
尿路感染のリスクも高まります。尿中の糖が増えることで、尿路に細菌が繁殖しやすくなるからです。女性患者では特に注意が必要とされています。
関連)https://www.youtube.com/watch?v=Du5MXfTiKZQ
ケトアシドーシスも重要な副作用です。特にシックデイ(体調不良時)には投薬の一時中止を検討する必要があります。非糖尿病性心不全患者でもシックデイ時の休薬が推奨されています。
関連)https://note.com/med_cas/n/n1a48daae3635
フレイル(虚弱)の問題もあります。高齢者や栄養状態が悪い患者では、体重減少や筋力低下に注意しながら投与する必要があります。個々の症例に応じて投与のメリット・デメリットを評価することが大切です。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.002576990620122045
日本循環器学会と日本心不全学会の「心不全患者におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関する推奨」
上記のガイドラインでは、sglt2阻害薬の心不全患者への投与に関する詳細な推奨事項が記載されています。投与前の評価項目や注意すべき副作用、モニタリング方法について具体的に示されているため、実臨床での判断に役立ちます。