「慢性腎臓病」の病名だけでエリスロポエチン検査を請求すると、全額査定されます。
エリスロポエチン(EPO)は、主に腎臓で産生される糖タンパクで、骨髄における赤血球の産生を促進するホルモンです。慢性腎不全の状態になるとEPOの産生が低下し、腎性貧血が引き起こされます。この特性から、レセプト上での取り扱いには細かいルールが設けられています。
診療報酬点数表では「D008・41 エリスロポエチン」として209点で収載されており、判断料は生化学的検査(Ⅱ)の144点が別途算定できます。検体は血清0.7mLを冷蔵保存し、基準値は4.2〜23.7 mIU/mLです。
この検査は「内分泌学的検査」の区分に属しており、算定するためには目的が明確に定められている点が特徴です。目的外の病名で請求した場合は、支払基金や国保連合会での審査で査定される可能性が高いです。
厚生労働省通知に基づき、算定が認められる目的は以下の3つに限定されます。
この3つの目的以外での算定は、原則として認められません。つまり確認が必要です。
参考:エリスロポエチン算定の根拠となる公式通知(東京都医師会)
東京都医師会「開業医のための保険診療の要点 ─ 検体検査」D008・41 エリスロポエチン(209点)の算定目的について記載あり
令和6年2月29日に社会保険診療報酬支払基金が公表した統一取扱い「第46号 エリスロポエチンの算定について」は、現場にとって非常に重要な指針です。これを読んでいない場合は、査定リスクが高まります。
この取扱いで、算定が「原則として認められない」とされた病名は次の4つです。
この4つのうち特に注意が必要なのは「慢性腎臓病(CKD)」です。CKD病名はごく一般的に使用される診断名であるため、エリスロポエチン検査との組み合わせで無意識に請求してしまうケースが多く見られます。しかし支払基金の統一取扱いでは、CKDは算定の根拠となる病名として認められていません。
「腎不全疑い」「慢性腎不全疑い」についても同様です。「疑い」の段階では確定診断に至っていないため、EPO検査の算定根拠として不十分と判断されます。また「慢性貧血」は貧血の種類が特定されておらず、原因疾患の記載が必要です。
もし「慢性腎臓病」のみを病名として請求してしまった場合、209点(約2,090円)が丸ごと査定されます。これが積み重なると、月間で数万円単位の損失につながる可能性があります。
実際に支払基金のフォローアップ検証(2024年9月〜11月審査分)では、全国3,816件を対象に調査した結果、290件(7.60%)が取扱いと異なる審査であったことが確認されています。その後の改善指導により2025年6月〜8月審査分では誤り件数が95.6%改善されましたが、未改善の都道府県も残っています。
参考:支払基金の公式統一取扱い(令和6年2月29日付)
社会保険診療報酬支払基金「【検査】46 エリスロポエチンの算定について」(PDF)
では実際に算定が認められるためには、どのような病名を立てる必要があるのでしょうか。支払基金の取扱いと厚労省通知を整理すると、以下のルールが導き出されます。
腎性貧血の診断目的で算定する場合は「慢性腎不全」の病名が必須です。
「腎性貧血」単独では不十分で、必ず「慢性腎不全(疑い含まない)」と組み合わせる必要があります。これが大原則です。
具体的な病名の組み合わせ例は次の通りです。
「慢性腎臓病(CKD)」と「慢性腎不全」は別概念である点に注意が必要です。CKDは腎機能の低下全般を指す広い概念であるのに対し、「慢性腎不全」はより進行した状態を指す病名として診療報酬上は区別して扱われています。
赤血球増加症の鑑別診断目的の場合は、「赤血球増加症(疑い)」などの病名を立てることで算定できます。赤血球増加症には真性赤血球増加症(真性多血症)と続発性赤血球増加症があり、EPO値は真性多血症では低値、続発性では高値を示す点が鑑別のポイントです。
骨髄異形成症候群(MDS)に伴う貧血の治療方針決定を目的とする場合は、「骨髄異形成症候群」の確定病名または「骨髄異形成症候群疑い」が必要です。MDSのガイドラインでもEPO検査は必須項目として位置付けられています。
エリスロポエチン「検査」と混同されやすいのが、エリスロポエチン「製剤(ESA)」の投与に関するレセプト算定です。ここは別のルールが適用されるため、しっかり区別することが重要です。
ESA製剤(エポジン、ネスプ、ミルセラ、エリスロポエチンBS等)をレセプト請求する際には、以下の点に注意が必要です。
Hb値のレセプトコメント記載については、現在の厚労省別表1にはHb値の記載が必須とされる項目はなく、現時点では不要と解釈されています。ただし地域の審査機関の運用によっては返戻を受けるケースがあるため、施設の状況に応じて対応方針を確認しておくと安心です。
ESA製剤投与中の患者に対して腎性貧血のモニタリング目的でEPO検査を同時に実施しようとするケースがありますが、これも注意が必要です。製剤投与中はEPO値が外因性に変動するため、診断目的の算定根拠が成立しにくいという観点から、審査で問われる可能性があります。
参考:ESA製剤の適応と算定に関する実務情報
ファルコバイオシステムズ「エリスロポエチン(EPO)臨床検査項目」─ 保険点数・算定目的・基準値が一覧で確認できます
病名管理の見直しは、査定減を防ぐ最も効果的な対策です。現場では多忙なために形式的な病名が流用されてしまうことが少なくありませんが、EPO検査に関しては特に注意が必要です。
まず確認すべきなのは、EPO検査をオーダーした医師が、算定の3つの目的(赤血球増加症鑑別・腎性貧血診断・MDS治療方針決定)のどれに基づいているかを明確にしているかどうかです。その目的に対応した正確な病名が電子カルテに登録されているかをセットで確認します。
以下のチェックリストを参考にしてください。
支払基金・国保連のAI審査(コンピューターチェック)は年々精度が上がっており、病名と検査の組み合わせの矛盾は自動で抽出されやすくなっています。月に1度、EPO検査の算定件数と病名の内容を確認する習慣を持つことが、安定した請求管理につながります。
算定ミスが判明した場合は、返戻・再請求の手続きを速やかに行うとともに、医師への情報共有と病名管理ルールの見直しを行うことが重要です。支払基金の「取扱い」は継続的に改訂・追加されているため、最新情報を定期的にチェックする体制を整えておくと、知らないうちに損をするリスクを大幅に減らせます。
参考:支払基金の審査事例・統一取扱いの一覧(定期的な確認が推奨されます)
社会保険診療報酬支払基金「腎性貧血等に対するエリスロポエチンの取扱い(フォローアップ検証結果)」(PDF)─ 全国の改善状況と未改善都道府県が掲載されています