リバビリンは動物実験において催奇形性が明確に報告されており、妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与は絶対禁忌となっています。前臨床試験では、ヒト治療域またはそれ以下の用量においても、齢歯類で用量依存的かつ曝露時期依存的に催奇形作用が認められました。特に骨格奇形の頻度が有意に増加することが確認されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00048359.pdf
男性患者においても、リバビリン投与中は精液中に本剤が分泌される可能性があるため、パートナーが妊娠中の場合は投与が禁忌となります。リバビリン妊娠レジストリ(Ribavirin Pregnancy Registry)による中間解析では、現時点で明確な催奇形性のシグナルは認められていないものの、サンプルサイズが不十分であり確定的な結論は得られていません。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7100215/
医療従事者は投与前に必ず妊娠検査を実施し、投与中および投与終了後6ヶ月間は確実な避妊法を指導する必要があります。避妊期間が6ヶ月と長期に設定されているのは、リバビリンの体内からの排泄に時間を要するためです。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/DrugInfoPdf/00059726.pdf
リバビリンによる溶血性貧血は、C型肝炎治療において最も頻度の高い副作用の一つであり、程度の差はあるものの、ペグインターフェロンとの併用療法では必ず出現する副作用とされています。国内臨床試験では、貧血または赤血球減少、ヘモグロビン減少が15.0~22.5%の患者で報告されています。
参考)https://www.msdconnect.jp/wp-content/uploads/sites/5/2021/02/revision_201703_rebetol.pdf
発症機序として、リバビリンがヌクレオシドトランスポーター(SLC29A1)を介して赤血球内に取り込まれ、1000μM以上の高濃度に蓄積することが指摘されています。赤血球内に蓄積したリバビリンは、リン酸化された後、イノシン一リン酸脱水素酵素(IMPDH)を阻害し、細胞内GTP濃度を急速に低下させます。この代謝異常が溶血を引き起こすメカニズムと考えられています。
参考)KAKEN href="https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-21927006" target="_blank">https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-21927006amp;mdash; Research Project…
貧血の程度には個人差があり、これはSLC29A1の遺伝子多型による発現量の違いが関与している可能性が示唆されています。特に-706G>C多型を持つ患者では、SLC29A1 mRNAの発現が低く、赤血球内リバビリン濃度やヘモグロビン低下の程度が異なる可能性があります。
発現時期は治療開始後4~8週間で貧血が最も強くなる傾向があり、高齢者や腎機能障害患者でより顕著に出現します。血液データを注意深くモニタリングし、リバビリンの投与量を適切に調整することが重要です。
参考)インターフェロン治療と副作用について
リバビリン投与時には溶血性貧血以外にも複数の重大な副作用が報告されており、医療従事者による慎重なモニタリングが必要です。
精神神経障害は1~2%の頻度で発現し、うつ病、自殺念慮、自殺企図などが含まれます。国内臨床試験では、インターフェロンとの併用でうつ病が1.62~5.2%、自殺念慮が0.03~0.30%報告されています。うつ病の既往がある患者では、インターフェロン治療自体が禁忌となる場合があります。投与中は定期的に精神状態を評価し、異常が認められた場合は速やかに精神科医との連携を検討する必要があります。
参考)https://www.pmda.go.jp/RMP/www/170050/b9108bc9-90fd-4ce9-8100-8b4b0e0ba027/170050_6250022M1021_005RMP.pdf
間質性肺炎は重篤な副作用として警告されており、息切れ、乾いた咳、微熱などの症状が出現した場合は速やかに対処が必要です。インターフェロン製剤との併用時に発現リスクが高まるため、定期的な呼吸器症状の問診と胸部画像検査によるモニタリングが推奨されます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/www1/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/245-1.pdf
甲状腺機能障害は21.0%の患者で報告されており、無痛性甲状腺炎や甲状腺機能低下症、さらにはバセドウ病の発症例も確認されています。無痛性甲状腺炎はインターフェロン投与開始後12週以内の早期に発症しやすい一方、バセドウ病の発症には時間がかかる傾向があります。投与前から甲状腺機能を評価し、治療中も定期的に甲状腺ホルモン(FT4、FT3、TSH)を測定することが重要です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/51/6/51_6_300/_pdf
その他、溶血性尿毒症症候群、高血圧、脳血管障害などの重大な副作用も報告されており、血圧測定や腎機能検査を含む包括的なモニタリングが必要です。
参考)エプクルーサ|副作用・安全性情報・RMP|G-STATION…
リバビリン投与中の貧血管理は治療継続の鍵となり、ヘモグロビン値に基づいた明確な減量・中止基準が設定されています。
ペグインターフェロン アルファ-2bとの併用時、ヘモグロビン濃度が12 g/dL以上であることが望ましく、12 g/dL未満に減少した場合はリバビリンを200 mg減量します。さらに10 g/dL未満に減少した場合は追加で200 mg減量し、8.5 g/dL未満に減少した場合は投与を中止する必要があります。
参考)https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/news/1319698340_3.pdf
加えて、ヘモグロビン濃度が1週間以内に1 g/dL以上減少し、その値が13 g/dL未満の場合には、リバビリンをさらに200 mg減量することが推奨されています。リバビリンの最低投与量は200 mg/日とされており、それ以下への減量は行いません。
治療開始前には、女性で14 g/dL未満、男性で13 g/dL未満のヘモグロビン値を有する患者では減量を考慮すべきとされています。また、投与開始前にヘモグロビン濃度が14 g/dL未満、好中球数が2,000/mm³未満、血小板数が120,000/mm³未満の患者では、投与中止または減量を要する頻度が高くなることが報告されています。
参考)http://www.jp-m.co.jp/pdf_topix/20120809_02.pdf
体重別の投与量設定も重要で、60 kg以下では600 mg/日、60 kg超80 kg以下では800 mg/日、80 kg超では1,000 mg/日が標準用量とされています。腎機能障害患者や高齢者では貧血が強く出現する傾向があるため、より慎重な投与管理が求められます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000121556.pdf
ほとんどの症例ではリバビリンを減量することで投与継続が可能であり、ヘモグロビン値が10 g/dL未満に減少して投与中止に至る症例は少数です。定期的な血液検査により早期に貧血の進行を把握し、適切なタイミングで減量を行うことが治療成功の鍵となります。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2007/P200700005/450045000_21900AMX00046_K109_2.pdf
リバビリンはヌクレオシドアナログとして、その抗ウイルス作用機序は複数の経路が関与していますが、完全には解明されていません。主な作用として、①HCV-NS5Bポリメラーゼの阻害、②エラーカタストロフへの誘導(ウイルスRNA変異の蓄積による複製能低下)、③免疫調節作用が挙げられます。
参考)302 Found
特に注目すべきは、リバビリンがRNAウイルスに変異を誘導する新規作用機序です。この変異誘導作用により、ウイルスゲノムに過剰な変異が蓄積し、最終的にウイルスの複製能が低下します。また、リバビリンがC型肝炎患者のTh2応答性を抑制し、インターフェロンαの抗ウイルス活性を増強する免疫調節作用も重要な機序の一つとされています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/c142222ee7a626d0eb22a44a2eac587695bf489f
さらに近年、リバビリンには抗HCV活性以外に脂質生合成を抑制する新たな機能があることが発見されました。リバビリンによる細胞内GTP枯渇が、AMPK関連キナーゼの一つであるMARK4を介して核内受容体RXRαの発現を低下させ、最終的に脂質生合成が抑制されるという機序です。この作用は、C型肝炎患者に合併しやすい脂肪肝や肝発がんリスクの軽減にも寄与する可能性があります。
参考)https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press29/press-170721.pdf
リバビリンの抗HCV活性は、アデノシンキナーゼ(ADK)によるリン酸化に依存しており、ADKの発現レベルが治療効果を規定することが明らかになっています。ADK遺伝子の発現にはIRES(internal ribosome entry site)という特殊な翻訳機構が関与しており、個々の患者におけるADK発現量の違いが治療反応性の個人差を生む要因の一つと考えられています。
参考)抗HCV薬リバビリンの効き目を決める分子機構を解明 - 国立…
これらの知見は、リバビリンの副作用を軽減しながら治療効果を最大化する個別化医療への道を開くものであり、将来的には遺伝子多型解析に基づく投与量設定や、脂質代謝関連因子を標的とした新規肝発がん予防薬の開発へとつながる可能性があります。
参考リンク(リバビリン催奇形性に関する国際レジストリデータ)。
The Ribavirin Pregnancy Registry: An Interim Analysis of Potential Teratogenicity at the Mid-Point of Enrollment
参考リンク(リバビリンの作用機序に関する最新レビュー)。
The Application and Mechanism of Action of Ribavirin in Therapy of Hepatitis C
参考リンク(日本肝臓学会C型肝炎治療ガイドライン関連情報)。
医療用医薬品:レベトール(レベトールカプセル200mg)