プロバイオティクス製剤と医薬品の正しい使い方

プロバイオティクス製剤は医薬品として広く処方されていますが、免疫低下患者への投与リスクや抗菌薬との使い分けなど、医療従事者が見落としがちなポイントがあります。最新エビデンスを踏まえた適正処方の判断基準とは何でしょうか?

プロバイオティクス製剤と医薬品の適正使用を考える

免疫低下患者にプロバイオティクスを処方すると、菌血症で死亡するケースがあります。


この記事の3つのポイント
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医薬品としての位置づけを理解する

日本のプロバイオティクス製剤は「整腸剤(生菌製剤)」として承認されており、適応は腸内菌叢の異常改善に限定されています。サプリメントとは法的・規制上の扱いが異なります。

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免疫低下患者への投与リスクを把握する

大阪大学の研究では、プロバイオティクス由来のC. butyricum菌血症が確認され、1名が90日以内に死亡しています。免疫抑制中の患者への不用意な処方は再考が必要です。

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菌株と状況に応じた製剤選択を行う

抗菌薬併用時には耐性乳酸菌製剤(ビオフェルミンRなど)を選ぶ必要があります。製剤間を直接比較したエビデンスは乏しく、菌株特性を理解した処方判断が重要です。


プロバイオティクス製剤とは何か:医薬品としての定義と法的位置づけ



プロバイオティクスとは、「適切な量を摂取したときに宿主に有益な健康効果をもたらす生きた微生物」と定義されています。これはWHOとFAOが2001年に示した定義であり、現在も国際的に広く用いられています。


日本において、プロバイオティクスを含む製品は「医薬品」と「食品(サプリメント)」の2種類に大きく分けられます。重要なのは、この区分が成分ではなく用途と製造承認によって決まる点です。つまり、まったく同じ菌株を含む製品でも、医療用医薬品として承認されているものと、食品として販売されているものは法的に別物として扱われます。


医療用医薬品としてのプロバイオティクス(生菌製剤)の効能・効果は、添付文書上「腸内菌叢の異常による諸症状の改善」および「抗菌薬・化学療法薬投与時の腸内菌叢の異常による諸症状の改善」の2点に限定されています。消化器疾患以外の疾患(たとえばアレルギーや精神疾患)への適応拡大は、現時点では医薬品として承認されていません。これが原則です。


一方、食品として販売されているプロバイオティクスサプリメントについては、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品として一部の効能表示が認められていますが、治療薬としての位置づけではありません。医療従事者が患者に処方・推奨する場合は、この区別を明確に意識することが求められます。


日本で使用されている主なプロバイオティクス医薬品(生菌製剤)の菌種には、乳酸菌(*Lactobacillus*属)、ビフィズス菌(*Bifidobacterium*属)、酪酸菌(*Clostridium butyricum*)、枯草菌(*Bacillus subtilis*)、腸球菌(*Enterococcus*属)などがあります。これらの菌種の組み合わせや単体処方によって、製品名が異なります。


なお、生菌製剤は疾患治療を目的として開発された医薬品であり、健康維持・増進を目的としたプロバイオティクス食品とは薬事上明確に区別されることを、院内教育などで繰り返し確認する価値があります。


参考:生菌製剤と食品の薬事上の区分について(日経バイオテク)
腸内細菌叢を標的とした医薬品開発(日経バイオテク)


プロバイオティクス製剤の主な種類と抗菌薬との使い分け

医療現場でよく処方されるプロバイオティクス医薬品は、大きく「生菌製剤」と「耐性乳酸菌製剤」の2種類に分類されます。この区別は、とくに抗菌薬を同時処方する際に非常に重要になります。


生菌製剤とは、生きた菌を有効成分として含む製剤です。代表的なものとして、ビオフェルミン錠剤(ビフィズス菌)、ラックビー微粒N(ビフィズス菌)、ミヤBM錠(酪酸菌:*Clostridium butyricum* MIYAIRI 588株)、ビオスリー配合錠(乳酸菌・酪酸菌・糖化菌の3菌配合)などが挙げられます。これらは抗菌薬に感受性を持つため、抗菌薬と同時に投与すると、服用した菌が死滅して効果が減弱する可能性があります。


耐性乳酸菌製剤は、特定の抗菌薬に対して耐性を人工的に付与した乳酸菌を含む製剤です。ビオフェルミンR錠・散、ラックビーR散、エンテロノンR散などが代表例です。これらは抗菌薬投与中でも菌が生存できるよう設計されており、抗菌薬関連下痢症の予防・治療目的で処方されるケースが多いです。抗菌薬と生菌製剤を同時処方するなら耐性製剤を選ぶのが基本です。


ただし、耐性乳酸菌製剤が対応している抗菌薬は製品によって異なります。たとえばビオフェルミンRやエンテロノンRが耐性を持たない抗菌薬(フルオロキノロン系など)に対しては、ミヤBM(酪酸菌)が有効とされる場合があります。酪酸菌は芽胞形成能を持つため、多くの抗菌薬環境下でも生存しやすいという特性があります。これは使えそうです。


整腸剤の使い分けには確立したガイドラインが存在しないのが現状です。「どの製剤を選ぶべきか」という明確な基準を示した頭対頭(head-to-head)の臨床試験は実施されておらず、菌株ごとのエビデンスも海外とは異なる点があります。したがって、処方にあたっては各製剤の菌株特性と抗菌薬耐性プロファイルを理解した上で判断することが求められます。


整腸剤の使い分けについて詳しくまとめられた資料として、以下が参考になります。


整腸剤の一覧・使い分け・抗菌薬との併用(pharmacista.jp)


プロバイオティクス製剤の腸内定着と効果のメカニズム:「通過菌」という現実

医療従事者の中にも「プロバイオティクスを継続的に摂取すれば腸内フローラが改善され、定着する」というイメージを持っている人は少なくありません。しかし、これは大きな誤解のひとつです。


国際プロバイオティクス・プレバイオティクス科学会(ISAPP)の見解によれば、通常プロバイオティクスは腸内に定着せず、腸内常在菌叢の構成に検出可能な変化をもたらさない場合もあります。つまり多くのプロバイオティクスは「通過菌」として腸を通過しながら作用し、投与を中止すると数日〜1週間程度で便中から検出されなくなります。


では、なぜ効果があるのでしょうか? それは「定着」ではなく「通過中の作用」によるものです。プロバイオティクスおよびその代謝産物は、腸を通過する際に免疫細胞・腸管上皮細胞・食物成分・腸内常在菌と相互作用し、免疫調節・病原体抑制・短鎖脂肪酸産生などの効果を発揮します。定着しなくても効果は出るということですね。


この「通過菌」という特性は、臨床での処方方針にも影響を与えます。効果を維持するためには継続的な投与が必要であり、逆に言えば投与を中止した時点で効果も薄れることが多いです。したがって、急性期の一時的な処方で腸内フローラが長期改善されると期待するのは根拠に乏しいです。長期的な腸内環境改善には、プレバイオティクス(食物繊維など)との組み合わせ——いわゆるシンバイオティクス療法——が注目されています。


腸内細菌叢への長期的な介入を検討する際は、食事指導(食物繊維・発酵食品の摂取)を組み合わせる視点も持っておくと、患者へのアドバイスの幅が広がります。


免疫低下患者へのプロバイオティクス製剤投与リスク:大阪大学の報告が示すこと

プロバイオティクスは一般的に安全性の高い薬剤と見なされてきました。しかし、特定の患者群では重篤なリスクが存在することが、近年の研究によって明らかになっています。


大阪大学医学部附属病院の研究グループは、2011年9月〜2023年2月の約12年間に発生した菌血症患者6,576例の血液培養陽性症例を後方視的に調査しました。その結果、5例(0.08%)に*Clostridium butyricum*(クロストリジウム・ブチリカム)が検出されました。全ゲノム解析により、この5株すべてがプロバイオティクス製剤由来であることが確認されています。


5例の患者は全員、がんや腎不全など別疾患での入院中に菌血症を発症しており、ほぼ全員に免疫機能の低下がみられました。5例のうち2例は適切な内服理由が特定できず、1例は菌血症発症から90日以内に死亡しています。研究結果は2024年2月に米国科学誌「Emerging Infectious Diseases」に掲載されました。


また、2008年のオランダの大規模RCT(Besselink氏ら、Lancet誌掲載)では、重症急性膵炎に対するプロバイオティクス予防投与により、死亡率がプロバイオティクス群16%に対しプラセボ群6%と、プロバイオティクス群で有意に高い結果が出ています(相対リスク2.53)。重症急性膵炎へのプロバイオティクス投与は禁忌とも言えます。


さらに2023年には、FDAが未熟児に対するプロバイオティクス投与について、重篤・致死的感染症のリスクがあるとして医療従事者に公式に警告を発しています。未熟児への投与は慎重に行うが原則です。


これらの事実が示すことは、プロバイオティクス製剤が「副作用のない安全な薬」ではないということです。とくに免疫抑制治療中の患者、重症疾患患者、未熟児・新生児に対しては、処方の必要性を個別に慎重に評価することが推奨されます。プロバイオティクスを処方するすべての医療従事者が、このリスクを認識しておくべきです。


参考:大阪大学の菌血症研究について


厚生労働省eJIMによる医療従事者向け情報。
プロバイオティクスについて知っておくべき5つのこと(厚生労働省eJIM)


プロバイオティクス製剤のエビデンスが確立している適応と今後の展望

プロバイオティクス製剤に関するエビデンスは疾患によって大きく異なります。医療従事者として、どの適応にエビデンスがあり、どの適応にはないかを正確に把握することが、適切な処方判断につながります。


現時点でエビデンスが比較的確立している適応としては、次の領域が挙げられます。抗菌薬関連下痢症(AAD)の予防については、2017年の17件のRCTメタ分析(参加者3,631例)でプロバイオティクス併用により下痢発生リスクが約半減したことが示されています。クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)の予防についても、31件・8,672例の分析で予防効果が中程度に信頼できると結論づけられています。また、成人の慢性便秘症に対して、ビフィドバクテリウム・ラクティスなどの特定菌株でいくつかの有益なエビデンスが示されています。


一方で、エビデンスが不十分またはリスクが上回る可能性がある領域もあります。重症急性膵炎への投与は前述の通り死亡率上昇が報告されており、積極的使用を避けるべきです。クローン病に対してもエビデンスが認められていません。また、高齢者に対する抗菌薬関連下痢症予防については、若年・中年に比べてエビデンスが弱く、慎重な評価が必要です。


2024年現在、腸内細菌叢を標的とした次世代の医薬品開発も進んでいます。従来の生菌製剤にとどまらず、特定の菌株を精密に設計した「Live Biotherapeutic Products(LBP)」や、腸内細菌由来の代謝産物を活用した「ポストバイオティクス」が新たな治療アプローチとして注目されています。これは使えそうです。


LBPはFDAの規制下では医薬品として臨床試験が進んでおり、日本のPMDAでも同様の審査区分を整備する動きがあります。将来的には、患者の腸内フローラプロファイルに応じた個別化医療として、プロバイオティクス製剤の使用がより精密化されると予想されます。


厚生労働省eJIMの医療従事者向け経口プロバイオティクス情報(科学的根拠の一覧あり)。
経口プロバイオティクス:医療者向け情報(厚生労働省eJIM)






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