ビフィズス菌と乳酸菌の違いは?

医療従事者として患者指導や栄養相談の場面で頻繁に尋ねられるビフィズス菌と乳酸菌の違いについて、分類学、生息環境、代謝産物、腸内での菌数の観点から詳細に解説します。両者の違いを正確に理解することで、プロバイオティクスの適切な使用指導が可能になりますが、実際の臨床応用においてどのように活用すべきでしょうか?

ビフィズス菌と乳酸菌の違い

この記事でわかること
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分類学的位置づけ

ビフィズス菌と乳酸菌は門レベルで異なる細菌で、その違いはヒトとクラゲほどの差があります

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生息環境と菌数

大腸のビフィズス菌数は乳酸菌の約1000倍、善玉菌の99.9%を占める主要な腸内細菌です

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代謝産物と健康効果

ビフィズス菌は酢酸を産生し、乳酸菌より強力な整腸作用と免疫機能向上効果を持ちます

ビフィズス菌と乳酸菌の分類学的違い

 

ビフィズス菌と乳酸菌は、医療現場で混同されがちですが、分類学的には「門」のレベルで異なる全く別の細菌群です。ビフィズス菌はActinobacteria門(放線菌門、高G+C細菌群)のBifidobacteriaceae科Bifidobacterium属に属し、一方で乳酸菌はFirmicutes門(バチロータ門、低G+C細菌群)に属しています。この分類学上の差は、人とクラゲほどの違いに相当するとも表現されます。
参考)【簡単解説】ビフィズス菌と乳酸菌の違いについて

16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく分子系統解析により、乳酸菌は6科33属に分類され、主にLactobacillus属(ラクトバチルス属)やStreptococcus属(ストレプトコッカス属)が含まれます。一方、ビフィズス菌は1科7属に分類され、Bifidobacterium属が中心となっています。興味深いことに、ビフィズス菌は形態的にY字型、棒状、球状、湾曲状など多様な形態を示す多形成桿菌であり、乳酸菌の多くが棒状や球状である点とも異なります。
参考)乳酸菌・ビフィズス菌と健康

乳酸菌という名称は、細菌の生物学的分類上の特定の菌種を指すのではなく、「糖を発酵して大量の乳酸を作る細菌の総称」という機能に基づいた呼び名です。これに対し、ビフィズス菌はBifidobacterium属という明確な分類学的位置を持つ菌群を指します。
参考)ビフィズス菌や乳酸菌の菌株ってなんですか?

ビフィズス菌と乳酸菌の生息環境と菌数の違い

ビフィズス菌と乳酸菌では、生息できる環境が大きく異なります。ビフィズス菌は偏性嫌気性菌であり、酸素が少ない環境でしか生息できないため、主に大腸に局在しています。一方、乳酸菌は通性嫌気性菌で、酸素がある環境でもない環境でも生息できるため、小腸から大腸まで広い範囲に分布し、さらに空気中、土壌、発酵食品など自然界に広く存在しています。
参考)乳酸菌とビフィズス菌の違いとは? 菌を増やす方法や上手にとれ…

大腸内における菌数の違いは医療従事者として特に重要な知見です。大腸内のビフィズス菌数は108/g~1011/g(1億個~1000億個/g)であるのに対し、小腸下部近辺に生育する乳酸菌は107/g~108/g程度にとどまり、細菌叢全体の総数の1/1000以下という非常に少ない菌数です。大腸内の善玉菌の割合を見ると、ビフィズス菌が約99.9%を占めるのに対し、乳酸菌はわずか0.1%に過ぎません。つまり、大腸におけるビフィズス菌は乳酸菌より約1000倍も多く存在し、腸内環境において圧倒的に優勢な善玉菌といえます。
参考)ビフィズス菌と乳酸菌の違いとは?|腸活ナビ|大正製薬

消化管の部位による菌数の変化も特徴的です。胃では強力な酸性環境のため菌数は減少し、空腹時には103個/g以下となりますが、大腸に達すると菌数は急激に上昇して1011個/g以上(100億個/g以上)となります。
参考)小腸と大腸に住む菌の違い

ビフィズス菌と乳酸菌の代謝産物の違い

ビフィズス菌と乳酸菌の最も重要な違いの一つが、産生する代謝産物です。乳酸菌は糖を代謝して主に「乳酸」のみを産生するのに対し、ビフィズス菌は乳酸に加えて大量の「酢酸」を産生します。この酢酸の産生能力が、ビフィズス菌の強力な整腸作用の鍵となっています。
参考)内視鏡医師の知識シリーズ - 福岡の苦しくない内視鏡専門医療…

酢酸は腸内細菌が作り出す物質の中で最も多く、複数の重要な生理機能を持ちます。第一に、酢酸は強力な殺菌作用を持ち、腸内に侵入してきた病原菌を殺菌する効果があります。第二に、腸管のバリア機能を高め、有害菌や有害物質の体内への侵入を防ぎます。第三に、大腸のぜん動運動を活発にして便秘を予防する働きがあります。
参考)腸活のポイントは「短鎖脂肪酸」!

さらに、酢酸は腸の粘膜にできた傷の修復を早める働きがあり、腸のバリア機能維持に不可欠です。近年の研究では、酢酸が免疫グロブリンA(IgA)というたんぱく質の産生を促進することも明らかになっており、感染症予防の観点からも注目されています。
参考)ビフィズス菌と腸の関係は?|腸活ナビ|大正製薬

ビフィズス菌と乳酸菌の短鎖脂肪酸産生と健康効果

ビフィズス菌が産生する酢酸は、短鎖脂肪酸(SCFA: Short-Chain Fatty Acids)の代表的な一つです。短鎖脂肪酸には主に酢酸、酪酸、プロピオン酸の3種類があり、日本人の腸内で最も多いのが酢酸です。これらは腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖を分解・発酵することで産生される代謝物質で、腸管上皮細胞のエネルギー源となり、大腸の健康維持に重要な役割を果たします。​
短鎖脂肪酸の産生プロセスは3段階で進行します。第1段階で糖化菌が食物繊維を糖に分解し、第2段階で乳酸菌やビフィズス菌がその糖を分解して乳酸や酢酸を産生します。第3段階では、酪酸菌や酢酸菌、プロピオン酸菌がこれらを分解して酪酸やプロピオン酸などの短鎖脂肪酸を作り出します。この第2段階が重要で、ビフィズス菌や乳酸菌が十分に存在しないと糖が溜まりやすく、太りやすい体質につながります。
参考)善玉菌が作り出す「短鎖脂肪酸」の働きについて胃腸のプロが徹底…

臨床的に注目されるのは、ビフィズス菌が産生する酢酸の多様な健康効果です。酢酸には基礎代謝を向上させる効果があり、消費エネルギーの量を増やすことで太りにくい体づくりにつながります。さらに、ビフィズス菌は他の腸内細菌との相互作用により、酪酸の産生も促進することが明らかになっています。Bifidobacterium属とMegasphaera indica属の間には代謝的クロスフィーディング現象が存在し、ビフィズス菌が産生する乳酸をMegasphaera indicaが利用して酪酸を産生します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10807433/

ビフィズス菌と乳酸菌の食品からの摂取可能性

ビフィズス菌と乳酸菌は、食品からの摂取可能性においても大きく異なります。乳酸菌は酸素がある環境でも生育できるため、ヨーグルト、ナチュラルチーズ、味噌、キムチ、漬物など、さまざまな発酵食品に広く含まれています。これらの食品では、乳酸菌が糖類を分解して乳酸を作ることで食品の保存性が高まり、独特の風味が生まれます。
参考)「乳酸菌が含まれている」おすすめの食品 一覧|乳酸菌の種類や…

一方、ビフィズス菌は偏性嫌気性菌のため、酸素がある環境では生存できず、存在できる場所が非常に限られています。人や動物の腸内、特に酸素の少ない大腸と、一部の特殊な発酵食品にしか存在しません。このため、ビフィズス菌を食品から摂取するには、ビフィズス菌が添加された特定のヨーグルト製品やサプリメントを選択する必要があります。
参考)ビフィズス菌とは?摂取するメリットや乳酸菌との違い、効率的な…

興味深いことに、日本人は乳製品に含まれる乳糖を分解する力が欧米人に比べて弱く、小腸で分解・吸収されなかった乳糖が大腸に届いてビフィズス菌のエサとなり、ビフィズス菌が増殖しやすい環境づくりに貢献しています。これは日本人の腸内環境の特徴の一つといえます。​
医療従事者として患者指導を行う際には、腸内環境を整えるためには「ビフィズス菌」の摂取がより重要であることを伝えることが推奨されます。大腸での圧倒的な菌数と酢酸産生による強力な整腸作用、バリア機能強化、免疫機能向上効果を考慮すると、ビフィズス菌含有製品の選択が腸内環境改善により効果的です。​

ビフィズス菌と乳酸菌のプロバイオティクスとしての臨床応用

プロバイオティクスとして、ビフィズス菌と乳酸菌はともに多様な健康効果が報告されていますが、その作用機序と臨床応用には違いがあります。ビフィズス菌は主にBifidobacterium bifidum、B. breve、B. longumなどの菌種が用いられ、腸管感染症の予防・治療、がん予防、免疫機能の維持など多岐にわたる効果が確認されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8727868/

近年特に注目されているのは、がん治療における免疫チェックポイント阻害剤との相互作用です。腸内のビフィズス菌の存在が免疫チェックポイント阻害剤の効果を左右することが明らかになり、ビフィズス菌を投与することで治療効果がより発揮されることが報告されています。この知見に基づき、様々な疾患治療時のQOL向上を目指した臨床研究が進められています。
参考)消化器内科学 医科プレ・プロバイオティクス学の研究グループの…

プレバイオティクス(オリゴ糖などの有用菌を選択的に増やす食品成分)とプロバイオティクス(ビフィズス菌や乳酸菌などの生きた菌)を組み合わせたシンバイオティクスアプローチも重要です。特に、1-ケストースとBifidobacterium longumの組み合わせは相乗的なシンバイオティクス効果を発揮し、従来のプレ・プロバイオティクスを超える可能性が示唆されています。​
乳酸菌については、プラズマ乳酸菌のように免疫の司令塔に直接働きかけて免疫機能をサポートする特殊な菌株や、Lactobacillus acidophilus、L. gasseriなどの菌種が整腸作用や免疫機能維持に用いられています。しかし、大腸での菌数が少ないことから、腸内環境改善の主役としてはビフィズス菌の方が重要性が高いと考えられます。​
医療従事者としては、患者の病態や治療目的に応じて、適切なプロバイオティクスの選択と、プレバイオティクス(食物繊維やオリゴ糖)の摂取指導を組み合わせることが重要です。ビフィズス菌などの善玉菌を増やし、そのエサとなる水溶性食物繊維を十分に摂取することで、短鎖脂肪酸の産生が促進され、腸内環境の改善につながります。
参考)短鎖脂肪酸とは?太りにくい体を作るアンサーはタンサ|江崎グリ…

ビフィズス菌の分類と菌株についての詳細(公益財団法人ビフィズス菌研究所)
ビフィズス菌の基礎知識と健康効果(森永乳業)
免疫器官としての腸のはたらきと短鎖脂肪酸(ネスレ栄養ネット)

 

 


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