ペプチドホルモンは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合で連結された水溶性ホルモンです。トリペプチドのような小型分子から、タンパク質サイズに相当する40個以上のアミノ酸を含む大型分子まで多様な構造を持ちます。代表的なペプチドホルモンには、血糖値を下げるインスリン、成長を促す成長ホルモン、副甲状腺ホルモン(PTH)などがあります。
参考)ホルモンの化学構造|内分泌 
ペプチドホルモンは親水性(hydrophilic)であるため、脂質二重層で構成される細胞膜を通過できません。このため、標的細胞の細胞膜表面に存在する受容体に結合することで情報を伝達します。細胞膜受容体には、Gタンパク質共役型受容体、イオンチャネル共役型受容体、酵素共役型受容体などの種類があり、それぞれ異なる作用機序を持ちます。
参考)【高校生物基礎】「ペプチド(タンパク質)ホルモン」 
ペプチドホルモンは遺伝子にコードされており、転写・翻訳を経て前駆体タンパク質として合成された後、プロテアーゼによる切断などのプロセシングを受けて成熟型ホルモンになります。例えば、インスリンはプロインスリンという前駆体からCペプチドが切り出されて二本のペプチド鎖がジスルフィド結合した構造となります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2731677/
ステロイドホルモンは、コレステロールを骨格(ステロイド核)に持つ脂溶性ホルモンで、シクロヘキサン環3つとシクロペンタン環1つが連結した特徴的な構造を持ちます。副腎皮質から分泌される糖質コルチコイド(コルチゾル)や電解質コルチコイド(アルドステロン)、性腺から分泌される男性ホルモン(テストステロン)や女性ホルモン(エストロゲン)が代表例です。youtube
参考)生化学 : 看護師国家試験 管理栄養士国家試験 公認心理師国…
ステロイドホルモンは脂溶性(lipophilic)であるため、細胞膜の主成分であるリン脂質層を容易に通過できます。そのため、受容体は細胞質または核内に存在します。ホルモンが細胞内に拡散によって取り込まれると、細胞質内のステロイド受容体と結合して活性化し、核内に移行してDNAのホルモン応答配列(HRE)に結合し、標的遺伝子の転写を調節します。
参考)ビデオ: ホルモンの種類
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コレステロールから多段階の酵素反応を経てステロイドホルモンが合成される過程は、主にシトクロムP450ファミリーとヒドロキシステロイド脱水素酵素によって触媒されます。ステロイドホルモンの生合成は、下垂体から分泌されるペプチドホルモン(ACTH、LH、FSHなど)がcAMP/PKA経路を活性化することで誘導されます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2854287/
両者の最も重要な違いは、受容体の局在と作用発現の仕組みです。ペプチドホルモンは細胞膜を通過できないため、細胞膜表面の受容体に結合します。受容体とホルモンが結合すると、細胞内で一連のシグナル伝達反応が開始され、既に存在する不活性タンパク質が活性化されることで生理作用が発揮されます。この過程は非常に迅速で、受容体結合とほぼ同時に細胞内で反応が起こります。youtube
一方、ステロイドホルモンは細胞膜を通過して細胞内に入り、細胞質または核内の受容体と結合します。ホルモン-受容体複合体は核内に移行し、DNA上の制御配列に結合して特定の遺伝子の転写を調節します。この転写調節により、新たなタンパク質が合成され、抗炎症作用など多様な生理作用が引き起こされます。
参考)ステロイドがどうしていろいろな疾患で用いられているのかわから…
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ステロイドホルモンの作用機序は大きく2つに分けられます。主要な作用は核内受容体を介した遺伝子発現調節を行うゲノミック作用ですが、近年では膜受容体やGタンパク質共役型受容体(GPCR)を介した遺伝子発現調節を伴わない数分以内の速い反応を示すノンゲノミック作用も確認されています。
参考)https://bsd.neuroinf.jp/w/index.php?title=%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89amp;mobileaction=toggle_view_desktop
脳科学辞典のステロイドホルモンの作用機序の詳細
ペプチドホルモンとステロイドホルモンは、分泌機構と血中半減期においても対照的な特徴を持ちます。ペプチドホルモンは、細胞内の分泌小胞(直径100nm以上)に貯蔵され、必要に応じて開口分泌により放出されます。例えばインスリンは食事刺激に応答して一過的に分泌され、視床下部のオキシトシンは細胞外に5-20nMの濃度で存在し、半減期は約20分と比較的長いことが知られています。
参考)https://bsd.neuroinf.jp/w/index.php?title=%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%83%9A%E3%83%97%E3%83%81%E3%83%89amp;mobileaction=toggle_view_desktop
ペプチドホルモンの血漿濃度は一般に10⁻¹⁰~10⁻¹²mol/Lと極めて低濃度です。ペプチドホルモンは肝臓や腎臓においてペプチダーゼによって分解され、断片化されたペプチドは腎臓から排泄されます。副甲状腺ホルモン(PTH)の場合、肝臓でアミノ末端側とカルボキシ末端側の断片に切断され、これらの断片は腎臓から排泄されますが、分解速度はカルシウム濃度や腎機能によって変化します。
参考)https://www.genken.nagasaki-u.ac.jp/genetech/genkenbunshi/pdf/H23.11.30.pdf
ステロイドホルモンは、前駆物質であるコレステロールから段階的に合成され、分泌小胞に貯蔵されることなく合成後すぐに分泌されます。ステロイドホルモンの血漿濃度の方がペプチドホルモンよりも相対的に高いとされます。合成ステロイドホルモンの血中半減期は一般に200~300分ですが、生物学的作用としての半減期は種類によって異なります。プレドニゾロンは血中半減期2.5~3.3時間、生物学的半減期12~36時間、デキサメタゾンは血中半減期3.5~5.0時間、生物学的半減期36~72時間とされ、作用持続時間に大きな差があります。
参考)Journal of Japanese Biochemica…
副腎皮質ホルモンの半減期と特性の比較表
医療従事者にとって、ペプチドホルモンとステロイドホルモンの違いを理解することは、薬物治療や病態生理の把握において極めて重要です。ペプチドホルモンであるインスリンは、経口投与では消化管でペプチダーゼによって分解されてしまうため、タンパク質分解酵素の影響を受けない注射投与が必須となります。一方、ステロイドホルモンは脂溶性であるため経口投与が可能で、細胞膜を通過して全身に作用を及ぼします。
参考)成長ホルモンの分類であるペプチドホルモンとは? 
ステロイドホルモンは、糖代謝、脂質代謝、タンパク質代謝、水・電解質代謝、骨・カルシウム代謝に加え、強力な免疫抑制作用と抗炎症作用を持つため、多様な疾患の治療に用いられます。しかし、作用が多岐にわたるゆえに、長期投与では食欲亢進、満月様顔貌、体重増加、副腎萎縮などの副作用リスクがあります。特にデキサメタゾンのような長時間型ステロイドは下垂体副腎機能抑制が強く、投与中止時の離脱症状に注意が必要です。
参考)https://pha.medicalonline.jp/img/cat_desc/MFd_table1.html
💡 興味深いことに、従来はペプチドホルモンとステロイドホルモンの作用機序は完全に異なると考えられていましたが、近年の研究では、ステロイドホルモンも膜受容体を介した迅速な反応を示すことが明らかになり、両者の境界が曖昧になってきています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1317563/
ペプチドホルモンの前駆体であるプロホルモンにも生物活性があることが判明しており、例えばガストリンやガストリン放出ペプチドのプロホルモンは成熟ホルモンとは異なる受容体を介して作用することが報告されています。これらの発見は、ホルモンの作用機序がこれまで考えられていたよりも複雑で多様であることを示しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2652633/
看護roo!のホルモンの化学構造と受容体の解説
| 比較項目 | ペプチドホルモン | ステロイドホルモン | 
|---|---|---|
| 化学構造 | アミノ酸が結合した分子 | コレステロール由来の脂質 | 
| 溶解性 | 水溶性(親水性) | 脂溶性(親油性) | 
| 受容体の位置 | 細胞膜表面 | 細胞質・核内 | 
| 細胞膜透過性 | 通過できない | 通過可能youtube | 
| 作用発現速度 | 迅速(分単位) | 緩徐(時間単位、遺伝子転写を介する) | 
| 作用機序 | 細胞内タンパク質の活性化 | 遺伝子転写の調節 | 
| 血中半減期 | 比較的短い(数十分) | 比較的長い(数時間~数日) | 
| 血漿濃度 | 10⁻¹⁰~10⁻¹²mol/L | 相対的に高い | 
| 代表例 | インスリン、成長ホルモン、PTH | コルチゾル、テストステロン、エストロゲン | 
| 投与経路 | 注射(経口不可) | 経口・注射 | 
生合成経路においても、ペプチドホルモンとステロイドホルモンは根本的に異なります。ペプチドホルモンは遺伝子にコードされた情報から、転写・翻訳によって大型の前駆体タンパク質(プレプロホルモンまたはプロホルモン)として合成されます。この前駆体は、小胞体やゴルジ体を経由して輸送される過程で、特異的なプロテアーゼによって段階的に切断され、成熟型のホルモンになります。
例えば、下垂体ホルモンであるACTH、β-エンドルフィン、α-MSHは、共通の前駆体であるプロオピオメラノコルチン(POMC)から、カテプシンLなどのプロテアーゼによるプロセシングを経て産生されます。カテプシンL欠損マウスでは、これらのペプチドホルモンが野生型の7~23%まで減少することが示されており、プロセシング酵素の重要性が確認されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2602888/
一方、ステロイドホルモンはコレステロールを出発物質として、シトクロムP450ファミリーの酵素群とヒドロキシステロイド脱水素酵素による多段階の酵素反応を経て合成されます。この生合成過程は、下垂体から分泌されるトロピックペプチドホルモン(ACTH、LH、FSH)が、cAMP/PKA依存性経路を活性化することで誘導されます。つまり、ステロイドホルモンの産生調節自体がペプチドホルモンによって制御されているという興味深い関係があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4104360/
最近の研究では、昆虫のステロイドホルモンであるエクジソンの分泌において、ミトコンドリアで合成されたホルモンがトランスポーターAtetによって分泌小胞に取り込まれ、開口分泌を通じて細胞外に分泌される新たな分子機構が明らかになりました。

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