抗甲状腺薬の種類とバセドウ病治療の選択肢

抗甲状腺薬には主にメルカゾールとプロパジールの2種類があります。それぞれの特性や副作用、使い分けについて解説します。あなたはどの治療法が最適か考えたことがありますか?

抗甲状腺薬の種類と特徴

抗甲状腺薬の基本情報
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主要な種類

メルカゾール(チアマゾール)とプロパジール/チウラジール(プロピルチオウラシル)の2種類が基本

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作用機序

甲状腺ペルオキシダーゼを阻害し、甲状腺ホルモンの合成を抑制

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選択基準

妊娠初期を除き、メルカゾールが第一選択薬として推奨される

抗甲状腺薬の主な種類と作用機序

バセドウ病などの甲状腺機能亢進症の治療に用いられる抗甲状腺薬は、主に2種類しかありません。チアマゾール(商品名:メルカゾール)とプロピルチオウラシル(商品名:プロパジールまたはチウラジール)です。プロパジールとチウラジールは製薬会社が異なるだけで同じ成分です。

 

これらの薬剤は甲状腺のペルオキシダーゼを阻害することで甲状腺ホルモンの合成を抑制します。比較研究によると、メルカゾールはチウラジールより約10倍強い抗甲状腺効果を持ち、より高い有効性と低い副作用発現率が示されています。

 

メルカゾールの特徴。

  • 甲状腺外でも免疫抑制作用を示す
  • 抗甲状腺効果が強い(チウラジールの約10倍)
  • 半減期が長いため1日1回の服用が可能

チウラジールの特徴。

  • メルカゾールより母乳中への移行が少ない
  • 分割投与が推奨される
  • 妊娠初期(器官形成期:妊娠4週~15週6日)には優先的に使用される

近年の研究では、甲状腺機能亢進症の新規治療創出に向けた取り組みも進んでいます。科学研究費助成事業(KAKENHI)の報告によれば、TSH過剰発現マウスを用いた網羅的解析により、チアマゾールの作用点の同定が進められています。この研究からは、従来から知られている甲状腺ペルオキシダーゼ活性の抑制が主な作用であることが示唆されています。

 

抗甲状腺薬の投与量と投与方法の選択

抗甲状腺薬の投与量と方法は患者の症状や甲状腺機能の状態によって調整されます。日本甲状腺学会のガイドラインによると、以下のような投与方法が推奨されています。

 

投与方法の基本。

  • メルカゾール:単回または分割投与が可能
  • チウラジール:分割投与が望ましい

初期投与量の選択。

  • 治療前のFT4値に応じて適切に選択することが重要
  • メルカゾールの場合、通常15mg/日から開始し、重症例に30mg/日を使用
  • 研究によれば、15mg/日と30mg/日の間に甲状腺ホルモンを正常化する速さに差はなく、副作用発現頻度は15mg/日の方が明らかに少ない

減量方法。

  • 投与開始後は重症度に応じて2~6週間隔で甲状腺機能を確認
  • 甲状腺機能が正常範囲に入ったら、4~6週間隔でチェックを行い、抗甲状腺薬を漸減
  • メルカゾールの場合、5mg/日・隔日あるいはチウラジール50mg/日・隔日まで減量後は維持量として継続

効果発現までの期間は、すでに合成された甲状腺ホルモンが約4週間分備蓄されているため、通常4~6週間を要します。そして、甲状腺機能が正常化しても、再発予防のために通常1年間の維持療法が必要とされています。

 

抗甲状腺薬の副作用と対応策

抗甲状腺薬の副作用は、服用開始後3か月以内に発生することが多く、この期間は2~4週間に一度の定期的な診察で副作用の有無を確認することが重要です。副作用には軽度のものから生命に関わる重篤なものまで様々あります。

 

頻度の高い副作用。

  • かゆみ・麻疹などの皮疹(約10%の患者に発生)
  • 軽度の肝機能障害

重大な副作用。

  • 無顆粒球症(好中球減少症)
  • 多形性関節炎
  • 重度の肝障害
  • 血管炎(特にチウラジールで発生しやすい)

副作用への対応。

  1. かゆみやじんましんの場合:抗アレルギー剤を服用して様子を見るか、薬を変更する
  2. 発熱や咽頭痛などの症状が出た場合:無顆粒球症の可能性があるため直ちに医療機関を受診する
  3. 重度の皮疹や肝機能障害:内服の中止が必要となる場合がある

最近の報告では、チウラジールによる重症肝障害や腎障害(ANCA血管炎症候群)のリスクが認識されており、このため現在では妊娠初期を除き、メルカゾールが第一選択薬として推奨されています。血管炎は投薬期間に関係なく発症する可能性があり、特に1年を超えてから発症するケースもあることが知られています。

 

抗甲状腺薬と妊娠・授乳期の注意点

妊娠中および授乳中の甲状腺機能亢進症の管理は特に注意が必要です。適切な甲状腺ホルモン値の調整は、母体のリスク(妊娠高血圧、早産、流産等)や胎児のリスク(低体重、発達遅延等)を減らすために重要です。

 

妊娠中の抗甲状腺薬選択。

  • 妊娠初期(器官形成期:妊娠4週~15週6日):チウラジール(プロパジール)が推奨される
  • 妊娠中期以降:メルカゾールに切り替えることが一般的
  • 妊娠中は甲状腺ホルモンの需要が増加するため、休薬していた場合も再開が必要なことがある

授乳中の抗甲状腺薬選択。

  • チウラジールはメルカゾールより母乳中への移行が少ないため、授乳中は優先的に選択される
  • 投与量を調整し、授乳直後に服用することで、乳児への影響をさらに減らすことができる

妊娠中・授乳中の投与量管理。

  • 必要最小限の投与量に調整する(甲状腺機能を軽度亢進の状態に維持することも許容される)
  • より頻繁な甲状腺機能のモニタリングが必要

妊娠中の甲状腺機能亢進症の管理が適切でない場合、母体と胎児の両方に深刻な影響を及ぼす可能性があります。そのため、妊娠を計画している場合や妊娠が判明した場合は、すぐに専門医に相談し、適切な治療計画を立てることが重要です。

 

抗甲状腺薬の併用療法と代替治療法

抗甲状腺薬による標準治療が効果不十分な場合や、副作用で使用できない場合に考慮される治療法について説明します。

 

ブロック補充療法。
甲状腺機能亢進症の中で特に不安定な患者に対して、メルカゾールなどの抗甲状腺薬と甲状腺ホルモン製剤(チラーヂン)を併用する治療法です。メルカゾールの減量だけでは甲状腺機能が安定しない場合に、チラーヂンを必要量だけ併用することで安定化を図ります。デメリットとしては、単独治療では期待できる寛解の可能性がなくなり、生涯にわたって薬を継続する必要がある点が挙げられます。

 

ヨウ化カリウム療法。
抗甲状腺薬が使用できない場合の選択肢として、ヨウ化カリウム(KI)があります。短期間であれば甲状腺機能を強力に抑制しますが、長期使用でエスケープ現象(効果の減弱)が起こるため、単独療法としては限界があります。副作用として以下が報告されています。

  • 慢性腎不全患者での高カリウム血症
  • 薬剤熱
  • 薬物性肝障害
  • 無痛性甲状腺炎・破壊性甲状腺炎を引き起こす可能性
  • ヨード(ヨウ素)アレルギーがある場合は使用不可

放射性ヨウ素療法(アイソトープ治療)。
ヨウ化ナトリウム(131I)を用いた治療法で、甲状腺に取り込まれた放射性ヨウ素が甲状腺細胞を破壊します。注意点。

  • 131Iの実効半減期は約7.3日
  • 服用後は母乳授乳不可
  • 服用1~2週間前からヨウ素含有うがい液の使用は避ける
  • 服用後1週間は子供との長時間の接触は避ける
  • 用量調整が難しく、過剰な破壊で甲状腺機能低下症を引き起こす危険性あり

外科的治療(甲状腺摘出術)。
薬物治療で効果不十分な場合や、巨大甲状腺腫悪性腫瘍の疑いがある場合に検討されます。近年の技術進歩により、手術の安全性は向上しています。

 

症状に応じた補助療法。

  • 頻脈がひどい場合:β遮断薬を併用(甲状腺機能亢進症の様々な症状を改善)
  • 症状が重度の場合:ステロイドの内服を併用

甲状腺機能亢進症治療の現状と課題。
バセドウ病に代表される甲状腺機能亢進症は頻度の高い疾患ですが、治療は抗甲状腺薬を中心とした薬物療法が長年にわたり大きく変化していません。抗甲状腺薬の無顆粒球症などの重篤な副作用や治療抵抗性は依然として課題となっています。これらの課題解決のために、新たな治療法の開発が進められており、今後の治療選択肢の拡大が期待されています。

 

甲状腺機能亢進症の治療法選択は患者の年齢、症状の重症度、妊娠の有無、既往歴など様々な要因を考慮して個別に行われるべきであり、専門医との十分な相談が重要です。

 

バセドウ病に関する詳細情報 - 日本甲状腺学会