急性骨髄性白血病(AML)の初期症状は風邪の症状に類似することが多く、発熱や疲労感、頭痛や関節痛などが典型的です。94例のAML症例の初発症状を検討した報告によると、最も多い症状は倦怠感で36%、次いで発熱が34%を占めていました。これらの非特異的な症状により、患者が風邪と誤認して受診した際に血液検査の異常から診断されることが少なくありません。
参考)急性骨髄性白血病の初期症状に気づいたきっかけで一番多いケース…
AMLの診断時には貧血、発熱、出血(鼻出血、歯肉出血、血尿、血痰、点状出血、紫斑など)が主要な症状として認められます。特に貧血症状としては動悸、息切れ、立ちくらみが最も頻度が高く、初発症状として貧血症状が最も多いとされています。
参考)急性骨髄性白血病とは|血液がんサポートネット|‐アッヴィ‐
病態の進行が速いため、多くの場合、急に症状が現れることが特徴です。普段とは違う倦怠感を自覚し、貧血や発熱、出血を同時に認めた場合には、特に急性白血病の可能性を考慮し、早めに内科を受診することが医療従事者として患者に推奨すべき重要なポイントとなります。
参考)急性骨髄性白血病には初期症状はありますか? |急性骨髄性白血…
AMLを発症すると骨髄で正常な血液細胞がつくられなくなり、血液中の赤血球、白血球、血小板の数が減少します。この造血障害により、三大症状が出現することが特徴的です。
参考)白血病の看護|症状と看護過程における問題、看護計画とケアにつ…
赤血球減少では貧血、動悸、息切れ、立ちくらみといった症状が生じます。白血球減少では肺炎などの感染症、発熱、全身倦怠感がみられ、患者の抵抗力が著しく低下します。血小板減少では出血傾向として鼻血、歯肉出血、皮下出血が頻発し、駆血帯や血圧計のマンシェットの圧迫でも出血班が形成されることがあります。
参考)【血液専門医が解説】急性骨髄性白血病の症状・診断・治療
特に急性前骨髄球性白血病では出血傾向が顕著であり、出血や血液凝固の異常が目立つことが知られています。医療従事者は血小板減少による出血の早期発見と対処が重要な看護計画の目標となり、日常生活における出血の危険性について患者への説明・指導が必要です。
参考)やさしくわかる病気事典:急性骨髄性白血病きゅうせいこつずいせ…
白血病細胞が血流に乗って全身に広がり、様々な臓器に侵入(浸潤)すると、多彩な症状が生じます。中枢神経症状としては精神症状、頭痛、嘔吐、麻痺などが出現し、目、耳、またはバランスの異常、顔の筋肉の異常も認められることがあります。
リンパ節腫脹、歯肉腫脹、肝脾腫による圧迫症状や機能異常が発生し、腹痛やお腹が張るといった症状をきたします。歯肉腫脹はAMLの一部病型で特徴的な所見とされています。また、白血病細胞が皮膚、歯ぐき、目の中や下に小さなしこりを作ることもあります。
骨髄以外に進展した場合の症状としては、頭痛、関節痛、骨の叩打痛、肝脾腫、リンパ節腫脹が典型的です。全身のだるさ(倦怠感)や発熱、関節痛なども臓器浸潤に関連する症状として重要であり、医療従事者は全身症状の包括的な評価が求められます。
参考)急性骨髄性白血病の検査と診断|血液がんサポートネット|‐アッ…
AMLの診断は問診・触診から始まり、血液検査、骨髄検査へと段階的に進められます。問診では発熱や倦怠感、出血傾向の出現時期を確認し、触診では顔色、歯ぐき・鼻・皮下の出血、リンパ節や腹部の腫れを評価します。
血液検査では赤血球、白血球、血小板の数、白血球の種類別割合、血液細胞の形態や異常な白血病細胞の有無を確認します。AMLでは白血球数が異常に多いまたは少なく、赤血球や血小板は通常減少しています。芽球と呼ばれる未熟な細胞の存在が特徴的です。
参考)急性骨髄性白血病(AML)の検査|おしえて 白血病のコト【中…
骨髄検査は診断確定に必須で、骨髄穿刺または骨髄生検により骨髄液や骨髄組織を採取します。WHOの定義では骨髄検査で白血病細胞が20%以上あると急性白血病と診断されます。採取した骨髄を用いて染色体核型や遺伝子異常の検査を行い、WHO分類やFAB分類による病型診断、治療方針決定、予後予測を行います。
参考)急性骨髄性白血病とは?症状・治療・余命までを解説 - フコイ…
必要に応じて画像検査(CT、MRI、超音波)で臓器の腫れや異常を評価し、全身状態を把握します。
AMLの治療は化学療法が中心となり、寛解導入療法と寛解後療法(地固め療法)の2段階で構成されます。寛解導入療法では数種類の抗がん剤を組み合わせて骨髄の白血病細胞を徹底的に減らし、検査で白血病細胞が見つからない「寛解」状態を目指します。この治療は強い副作用を伴うため入院が必要です。
参考)治療 href="https://cancer.qlife.jp/blood/leukemia/aml/article13330.html" target="_blank">https://cancer.qlife.jp/blood/leukemia/aml/article13330.htmlamp;#8211; がんプラス
寛解後療法では目に見えない残存白血病細胞による再発を防ぐため、さらに数回の化学療法を実施します。通常の寛解導入療法による寛解導入率は50~85%程度で、完全寛解が得られた患者のうち約40%が5年後まで無再発とされています。患者全体では30%以上が治癒していると判断できます。
参考)白血病の治る確率は?治療の進歩と生存率の実情について解説 -…
分子標的薬はがん細胞の増殖に関わるタンパク質やがんを攻撃する免疫に関わるタンパク質を標的にする治療薬で、若年患者で選択されることがあります。造血幹細胞移植(同種移植)は高リスク患者や再発例で検討され、骨髄からの造血幹細胞移植を受けた患者の一定確率で長期生存・治癒が得られています。
参考)急性骨髄性白血病の治療法|血液がんサポートネット|‐アッヴィ…
治療に使う薬剤の種類や強さは患者の年齢、全身状態、白血病細胞の遺伝子特徴などを考慮して個別に決定されます。
AMLの詳細な発症メカニズムは完全には解明されていませんが、特定の遺伝子要因やリスク因子が発症の危険性を高めることが知られています。主なリスク因子として、高齢、男性、喫煙、放射線被曝、化学物質への曝露、血液疾患の既往、遺伝子疾患が挙げられます。
参考)急性骨髄性白血病になりやすい人の特徴はありますか? |急性骨…
高齢では年齢とともに発症リスクが高まり、治癒率も下がります。遺伝的要因としてはダウン症など特定の遺伝子異常でリスクが高くなります。化学物質への曝露ではベンゼンなどの有機溶剤への曝露がリスクを増加させ、職業柄ベンゼンやトルエンに接する機会がある際には適切な防護策が重要です。
参考)白血病になりやすい人の特徴や原因リスクについて
放射線では高線量への曝露がリスクを増加させます。化学療法や放射線療法の既往では他のがん治療で強力な治療を受けた場合、二次性のAMLのリスクが高くなります。骨髄異形成症候群と診断された患者は早期に急性白血病を発症する群があり、定期的な病院受診が必要です。
参考)https://www.med.jrc.or.jp/visit/cancer/leukemia/tabid/776/Default.aspx
ただし、リスク因子を持っていても必ず発症するわけではなく、リスクがなくても発症しないわけではありません。多くのケースでは特定の原因を見極めることは難しく、予防策を講じることは困難です。
参考)急性骨髄性白血病の原因は何がありますか? |急性骨髄性白血病…
AMLを治療しなかった場合の余命は診断後数週間から数ヶ月ですが、治療した場合の5年生存率は20~40%程度です。特に若い患者では40~50%程度が5年以上生存できます。再発は通常5年以内に起こるため、5年を過ぎても再発がみられない場合は治癒したとみなされることが多いです。
参考)急性骨髄性白血病の場合、治療した時と治療しなかった時の予後は…
小児や若年者のAMLでは2006~2011年に治療が行われた小児と若年成人で5年生存率がそれぞれ77.0%、66.5%と比較的良好な成績が報告されています。一方、第一寛解期のAMLに対する化学療法や造血幹細胞移植を実施した報告では5年無病生存率は30~55%で、高い再発率が示されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjscn/34/0/34_34_173_abe/_pdf/-char/ja
急性前骨髄球性白血病はかつて最も予後が悪いとされていましたが、全トランス型レチノイン酸(ATRA)を用いた治療の奏効率が非常に高いため、現在では70%以上が治る比較的予後の良い疾患となっています。早期発見して適切な治療を行えば予後は改善できるため、早めの病院受診が推奨されます。
最近では白血病も早期に診断される傾向にあり、早期発見すれば症状も軽度で治療効果もより高くなります。
参考)5.急性白血病
AMLにおける三大症状(造血障害による貧血、感染症、出血傾向)を理解し看護計画を立案することが医療従事者の重要な役割です。感染予防では感染しないよう環境整備を行い、感染徴候を観察し、疾患の治療状況や全身状態を検査値データから把握します。
参考)白血病の患者さんに関する看護計画
出血予防では駆血帯や血圧計のマンシェットの圧迫を最小限にし、採血や注射後はしっかり圧迫止血します。転倒などによる打撲を避けるためベッドサイドの環境整備を行い、皮膚への摩擦を避け、柔らかい歯ブラシを使用して力を強くかけないよう指導します。出血兆候の早期発見のための具体的な症状や方法を患者に説明・指導することが必要です。
治療とその副作用による苦痛の軽減では、悪心・嘔吐時に制吐剤を使用し、患者が食べられそうなものを検討して少量ずつでも摂取できるよう援助します。水分摂取不足や嘔吐頻回時には医師に報告し輸液による水分補給を行います。治療や闘病生活での精神的ストレスに配慮し、気分転換が図れるようコミュニケーションをとることも重要です。
退院後は白血病再発や化学療法による合併症の有無確認のための定期通院、感染症予防のための生活管理が必要です。
参考)急性骨髄性白血病の退院後の過ごし方について教えてください。 …
AMLは病状の進行が速いため、早期の診断と速やかな治療開始が重要です。一般的には貧血、出血傾向、感染症の症状が出現して病院を受診して診断されますが、年1回の健康診断で血液検査異常を指摘されて診断される場合もあります。自覚症状がない段階で診断されることもあるため、年1回は健康診断で血液検査を受けることが推奨されます。
参考)急性白血病
医療従事者として、発熱が続く、少しの運動で以前より疲れやすくなった、顔色が悪い、骨が痛むなどの初発症状に注意を払う必要があります。その他にも鼻血が止まりにくい、歯磨きで出血しやすい、ぶつけた覚えがないのにアザがよく出来るなども重要な徴候です。
血液疾患の診療は疾患の種類の多さ、病態の複雑さ、診断・治療に必要な専門的検査や高度な医薬品の使用など、極めて高い専門性を要する領域です。慢性骨髄性白血病のような疾患では分子レベルでの治療反応性の確認が必要とされるため、寛解後も専門医による継続的なフォローアップが求められます。
参考)https://hgpi.org/wp-content/uploads/HGPI_DiscussionPoints_20250723_FY2024BloodDisorderProject_JPN.pdf
人材の配置・育成・支援など、血液疾患ケアに内在する構造的な課題を多面的に捉え、今後の持続可能な医療提供体制の構築に向けた取り組みが必要です。