骨髄異形成症候群では、初期には症状がないか非常に軽いことが多く、健康診断などの血液検査で偶然発見されることも少なくありません。病気が進行するにつれて、血液細胞の減少に伴う様々な症状が現れるようになります。
参考)骨髄異形成症候群:[国立がん研究センター がん情報サービス …
赤血球の減少による貧血症状として、動悸、息切れ、めまい、倦怠感、冷感、顔色が青白くなるといった症状が出現します。これらは日常生活における労作時に特に顕著となり、患者の生活の質を大きく低下させます。白血球、特に好中球の数が減少すると、体の免疫力が低下し、頻繁に感染症になったり治りにくくなったりします。肺炎や胃腸炎などの感染症を繰り返すことがあり、発熱を伴うことも多くなります。
参考)骨髄異形成症候群 (MDS)には初期症状はありますか? |骨…
血小板の数が減ると血液が固まりにくくなり、出血傾向が生じます。鼻血、歯肉からの出血、皮膚に点状出血やあざ、血が止まらないなどの症状が特徴的です。骨髄異形成症候群では一人ひとりみられる症状が異なり、症状がみられない場合もあるため、定期的な血液検査が重要です。
参考)血液内科|骨髄異形成症候群|順天堂大学医学部附属順天堂医院
骨髄異形成症候群の中心的な病態は「無効造血」と呼ばれる現象です。造血幹細胞に異常が生じることで、骨髄では造血細胞が十分生産されているにもかかわらず、成熟の途中で血液細胞が壊れてしまい、末梢血液中では赤血球・白血球・血小板が減少している状態となります。
参考)9.骨髄異形成症候群 (myelodysplastic sy…
骨髄異形成症候群では、造血幹細胞のうち骨髄系幹細胞に生じた異常が原因と考えられており、単一の病気ではなく複数の疾患からなる病気の集合体です。異常な造血幹細胞から作られる血液細胞は、形態が異常になり(異形成)、機能が不完全となります。骨髄中の血液細胞は形態学的に異形成、すなわち出来損ないのような形をしていることから「骨髄異形成症候群」という名前が付けられています。
参考)https://www.bmshealthcare.jp/content/dam/buildeasy/apac-commercial/bms-healthcare-jp/ja/documents/patient/revlimid/rev_mds_about.pdf
この疾患の本態は幹細胞レベルでのがん化によるものと考えられており、患者の約半数以上に染色体異常があることと、白血病のように一個の細胞から増えているというクローン性が証明されています。また、DNA部分には異常はないものの、DNAにメチル基が付くことによって遺伝子が役目を果たせなくなる現象(DNAのメチル化)とヒストン蛋白の脱アセチル化が、骨髄異形成症候群の病因ないしは進行に関連していることが明らかになっています。
参考)https://med.sawai.co.jp/request/mate_attachement.php?attachment_file=02dfef5e-9b0d-452b-9fd9-be66eb21619c00000000071D1E8D.pdf
骨髄異形成症候群の診断は、血液検査で末梢血に血球の減少と形態異常がみられること、骨髄検査で血球の異形成が認められることで確定されます。診断のためには複数の検査を組み合わせて総合的に判断することが必要です。
参考)骨髄異形成症候群
血液検査では、白血球、赤血球、血小板の数、血液細胞の形態異常の有無、未熟な血液細胞である芽球の有無を調べます。肝臓、腎臓などの機能の確認も併せて行われます。顕微鏡検査で血球の形や芽球について詳しく観察することが重要です。
参考)骨髄異形成症候群(MDS)の検査、診断
骨髄検査は病型を決定するために必ず行う検査です。骨髄穿刺では骨の中の骨髄血を採取し、骨髄生検では骨髄組織を採取します。採取した骨髄血・組織を顕微鏡で観察し、細胞の数や種類、形態異常の有無、芽球の割合などを調べます。局所麻酔後、専用の穿刺針を刺して腰の骨(腸骨)の突起部から骨髄液を採取することが多く、穿刺に要する時間は10~15分程度です。
染色体検査や遺伝子検査も診断と治療方針決定に不可欠です。骨髄異形成症候群の患者の約半数に染色体の一部分が欠けている、染色体が1本少ないといった異常があることがわかっています。また、最近では染色体異常として見つけることのできない、骨髄異形成症候群に特徴的な遺伝子異常も検出できるようになり、診断に用いられています。細胞表面マーカー検査も行われ、これらの結果を総合して病型や治療方針が決定されます。
骨髄異形成症候群の重要な特徴の一つは、急性骨髄性白血病に移行する可能性があることです。このため「前白血病状態」とも説明されます。遺伝子に傷がついたことで血液細胞が腫瘍化し、白血病に進展するリスクを伴います。
参考)骨髄異形成症候群-佐賀大学医学部附属病院 血液・呼吸器・腫瘍…
骨髄異形成症候群は「無効造血」と「前白血病状態」の二つの性格が混在した病気であり、それぞれの性格がどういう割合で混在しているかは患者によって異なります。実際、この病気の状態や進行具合には大きな幅があります。「無効造血」の性格が強ければ血球減少が重度で定期的な輸血を要する場合があり、一方「前白血病状態」の性格が強ければ短期間に白血病に進展してしまうこともあります。
血液や骨髄中の芽球の割合が20%を超えると、急性白血病と診断されます。骨髄異形成症候群から急性骨髄性白血病へと形質転換する比率は高く、この移行リスクの評価が治療方針決定に重要な要素となります。患者の予後を予測するために、芽球の割合や染色体異常などの予後因子を点数化し、リスク分類することが行われています。
参考)骨髄異形成症候群由来エクソソームによる骨髄微小環境を介した造…
骨髄異形成症候群の治療は、リスク分類に基づいて選択されます。低リスクの場合、無症状であれば積極的な治療は行わず経過観察を続けます。血球減少に伴う症状がある場合には、輸血を基本とした治療により症状の改善を目指します。
参考)骨髄異形成症候群(MDS)の治療
高リスクの場合、自然経過では予後が悪いため、より積極的な治療が必要です。年齢や患者背景、ドナーなどの条件がそろった場合には、治癒を目指すことのできる同種造血幹細胞移植の適応となります。移植が難しい場合には、薬物療法により治療を進めていきます。
DNAのメチル化や脱アセチル化に対する薬が開発されており、アザシチジンやデシタビンによる治療は症状の緩和を助け、急性白血病が発生する可能性を低下させる効果があります。これらの薬剤は近年認可され、広く使用されるようになりました。骨髄異形成症候群の予後に大きな影響を与える因子を点数化し、その合計点数によってリスク分類することで予後を予測し、現在の病状を知り、今後の治療計画を立てることができます。
参考)骨髄異形成症候群の予後と予後予測について
骨髄異形成症候群は年齢とともに発症率が増加し、高齢者にも多くみられる病気であり、高齢化社会で患者数が増加しています。また、放射線治療や抗がん剤治療を受けた方では発症率が高いことが知られています。定期的な受診や社会的生活への支援など、一般的な支持療法も重要な治療の一部です。
国立がん研究センター「がん情報サービス」
骨髄異形成症候群の症状、診断、治療に関する詳しい情報が掲載されています。
日本成人白血病研究グループ(JALSG)骨髄異形成症候群の解説
骨髄異形成症候群の病態、診断、治療に関する医療従事者向けの詳細な情報が提供されています。