クラックルとウィーズは、呼吸器疾患の診断において重要な聴診所見です 。これらの副雑音は発生機序と音の特徴が根本的に異なり、正確な鑑別により疾患の早期発見と適切な治療方針の決定に大きく寄与します  。
参考)副雑音とは - MERA 泉工医科工業株式会社 ―医療と共に…
クラックルは断続性ラ音と呼ばれ、気管支や肺胞の病変により虚脱した気道が吸気時に急激に再開放される際に発生する断続的な音が特徴的です  。一方、ウィーズは連続性ラ音として分類され、気道狭窄により空気流が乱流となることで生じる持続的な楽音様の高調音です  。これらの鑑別は、疾患の病態生理学的理解と適切な治療介入のために不可欠な知識です。
参考)—肺の聴診②—断続性雑音と胸膜摩擦音 (呼吸器ジャーナル 6…
クラックルは音の性質により「ファインクラックル(捻髪音)」と「コースクラックル(水泡音)」に分類されます  。ファインクラックルは吸気終末に聴取される高調で細かい断続音で、髪を耳元で捻るような「パリパリ、チリチリ」という音が特徴的です  。
参考)湿性ラ音【ナース専科】
これに対してコースクラックルは吸気初期から中期にかけて聴取される低調で粗い断続音で、ストローで水をブクブクさせるような「ゴロゴロ、ブクブク」という音が特徴です  。サウンドスペクトログラムでは、ファインクラックルは1kHz付近にピークを持つ逆S字形のパワー分布を示し、コースクラックルは高音域に向かって徐々にパワーが減衰する逆J型のパワー分布を示します  。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kokyurinsho/3/8/3_e00053/_pdf
音の発生部位も異なり、ファインクラックルは末梢の細い気管支や肺胞レベルで発生し、コースクラックルは中枢の太い気管支で発生する傾向があります 。この音響的特徴の違いは、病変の局在と重症度の評価に重要な情報を提供します。
ウィーズは高調性連続性ラ音として分類され、気道狭窄の程度と範囲により「モノフォニック・ウィーズ」と「ポリフォニック・ウィーズ」に分類されます  。モノフォニック・ウィーズは単一周波数の持続音で、局所的な気道狭窄(腫瘍、異物、血栓など)により発生します 。
参考)気管支喘息/COPDを考える(皿谷健) 
ポリフォニック・ウィーズは複数の周波数成分を持つ複雑な音で、びまん性の気道狭窄(喘息、COPD など)により発生し、「ゼーゼー、ヒューヒュー」という楽音様の連続音が特徴的です  。画像パターン認識技術により、これらの音響的特徴は客観的に解析可能で、喘息発作の重症度評価にも応用されています 。
参考)肺疾患患者の評価 - 05. 肺疾患 - MSDマニュアル …
ウィーズの周波数は変動するため数値化は困難ですが、気道狭窄の部位と程度を反映しており、固定性気道狭窄による音と可逆性狭窄による音の鑑別も可能です 。末梢気道狭窄では高調なウィーズが、中枢気道狭窄では相対的に低調なウィーズが聴取される傾向があります。
ファインクラックルの代表的原因疾患は間質性肺炎・肺線維症です  。これらの疾患では肺胞隔壁の線維化により肺のコンプライアンスが低下し、吸気時に虚脱していた肺胞が急激に開放されることでファインクラックルが発生します  。特発性間質性肺炎、過敏性肺臓炎、膠原病肺、石綿肺、ARDS、肺水腫初期など、肺胞レベルの病変を特徴とする疾患で聴取されます  。
参考)https://www.homecareclinic.or.jp/physical-examination/lung-auscultation3.html
興味深いことに、サルコイドーシス、粟粒結核、癌性リンパ管症、LIP、カリニ肺炎などの肉芽腫性疾患や小葉間隔壁への細胞浸潤を特徴とする疾患では、びまん性肺疾患であってもクラックルは聴取されないことが知られています 。これは病変形成の部位と機序がクラックル発生に直接関与するためです。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnms1923/63/5/63_5_404/_pdf
一方、コースクラックルは太い気管支に分泌物が貯留する疾患で聴取され、細菌性肺炎、気管支拡張症、慢性気管支炎、進行した心不全、肺水腫などが代表的な原因疾患です 。気管支壁の分泌物により形成された膜が呼吸運動により破られることで発生する音で、液体中にストローで息を吹いたときの音に類似しています 。
ウィーズの最も一般的な原因疾患は気管支喘息とCOPDです  。気管支喘息では気道の慢性炎症により気管支平滑筋の収縮と気道浮腫が生じ、特に夜間から早朝にかけて「ゼーゼー、ヒューヒュー」という呼気性喘鳴が特徴的です  。喘息とCOPDの両方の特徴を併せ持つ喘息・COPD オーバーラップ(ACO)では、より複雑な音響パターンを示します 。
参考)喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)のオーバーラップ
心不全によるウィーズは「心臓喘息」と呼ばれ、肺血管系のうっ血により細い気道が圧迫されることで発生します  。また、重度のアレルギー反応(アナフィラキシー)、有害物質の吸入、気道異物、腫瘍による局所狭窄なども重要な原因となります 。
参考)呼気性喘鳴(wheezing) - 07. 肺と気道の病気 …
小児では細気管支炎やRSウイルス感染症、気道異物の誤嚥がウィーズの重要な原因となり、特にRSウイルス感染症では初感染時に重症化するケースが多く、注意が必要です  。これらの疾患では年齢や基礎疾患、発症様式により鑑別診断を進めることが重要です。
参考)喘鳴の原因となる疾患や種類ごとの音の違い・アセスメント方法を…
聴診におけるクラックルとウィーズの評価では、音の性質だけでなく聴取部位、呼吸位相、体位変換や咳嗽による変化の観察が重要です  。クラックルは主に吸気時に聴取され、胸部X線陰影と相関することが多く、病状の変化を客観的に捉える優れた身体所見です  。
参考)呼吸音の聴診 5つのポイント 
一方、ウィーズは呼気時優位に聴取され、しばしば胸部X線では異常を認めないため、機能的な気道狭窄の評価に有用です  。吸気時に聴取される副雑音は中枢気道病変を、呼気時に聴取される副雑音は末梢気道病変を示唆し、病変の局在診断に活用できます 。
参考)Qhref="https://www.rishou.org/for-memberships/qa/qa-vol-421" target="_blank">https://www.rishou.org/for-memberships/qa/qa-vol-421amp;A Vol.421 【吸気と呼気で何が違うの?】聴診に関…
現代の肺音解析技術では、サウンドスペクトログラムによる客観的評価により、従来の聴診では困難だった微細な音の変化や治療効果の定量的評価が可能となっています  。クラックル音のパワーの推移は病状改善・悪化の指標となり、ウィーズの画像パターン認識は発作重症度や固定性狭窄の判定に有用です 。これらの技術革新により、聴診所見の客観化と診断精度の向上が実現されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/30/1/30_24/_pdf