骨盤腹膜炎とクラミジアの関係性と診断治療

骨盤腹膜炎の主要原因菌であるクラミジアについて、感染経路から診断方法、最新の治療法まで徹底解説。不妊症のリスクを含む合併症についても詳しく説明します。あなたの症状は大丈夫でしょうか?

骨盤腹膜炎とクラミジア感染症

骨盤腹膜炎とクラミジアの概要
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主要な原因菌

クラミジアは骨盤腹膜炎の最も重要な原因菌で、症状が軽微なため見逃しやすい

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感染の進行

子宮頸管炎から始まり、子宮内膜炎、卵管炎を経て骨盤腹膜炎へと上行性に進展

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重篤な合併症

不妊症や異所性妊娠のリスクが数倍に増加し、フィッツ・ヒュー・カーティス症候群を併発することも

骨盤腹膜炎は、骨盤内の腹膜に炎症が生じる疾患で、女性の生殖器感染症の重篤な形態の一つです 。近年、性行為感染症(STD)の増加に伴い、クラミジア・トラコマティスによる骨盤腹膜炎の症例が著しく増加しています 。
参考)骨盤腹膜炎の症状・原因・治療方法を徹底解説!死亡リスクや後遺…

 

クラミジア感染症は、日本で最も頻度の高い性感染症であり、特に若年女性において骨盤腹膜炎の主要な原因となっています 。クラミジアによる感染は、症状が軽微で自覚しにくいという特徴があり、多くの患者で診断や治療が遅れる傾向があります 。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E9%AA%A8%E7%9B%A4%E8%85%B9%E8%86%9C%E7%82%8E

 

感染は通常、性行為により膣内に侵入したクラミジアが、子宮頸管炎から始まり、子宮内膜炎、卵管炎を経て骨盤腹膜炎へと上行性に進展します 。この病態は骨盤内炎症性疾患(PID:Pelvic Inflammatory Disease)の重要な構成要素として位置づけられています 。
参考)骨盤腹膜炎 - まつなが産科婦人科 福山市

 

骨盤腹膜炎におけるクラミジア感染の病態生理

クラミジア・トラコマティスは細胞内寄生細菌で、女性生殖器に侵入すると段階的な上行性感染を引き起こします 。初期段階では子宮頸管の円柱上皮細胞に感染し、子宮頸管炎を発症します。この時点では、帯下の増加や軽度の不正出血程度の症状しか現れず、約半数の患者は無症状です 。
参考)Fits-Hugh-Curtis症候群 href="https://heart-clinic.jp/fits-hugh-curtis%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4" target="_blank">https://heart-clinic.jp/fits-hugh-curtis%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4amp;#8211; We…

 

感染が進行すると、子宮内膜や卵管上皮に炎症が波及し、卵管炎や子宮内膜炎を併発します 。この段階で下腹部痛や発熱などの症状が出現しますが、クラミジアの場合は症状が軽微なため、患者が医療機関を受診せずに重篤化する例が多く見られます 。
参考)クラミジア感染症について

 

最終的に炎症が骨盤腹膜まで波及すると、骨盤腹膜炎が完成されます 。この段階では、激しい下腹部痛、高熱、腹膜刺激症状を呈し、しばしば救急外来での治療が必要となります 。
クラミジア感染による特徴的な点として、Fitz-Hugh-Curtis症候群の合併があります 。これは骨盤内感染が上腹部まで波及し、肝周囲炎を引き起こす病態で、右季肋部痛という特徴的な症状を呈します 。若年女性の急性腹症の重要な鑑別診断として注目されています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/11/104_2388/_pdf

 

骨盤腹膜炎の臨床症状と診断基準

骨盤腹膜炎の症状は、急性期と慢性期で大きく異なります 。急性期には、下腹部全体に及ぶ持続性の痛みと、悪寒・震えを伴う39℃以上の発熱が特徴的です 。腹膜刺激による悪心・嘔吐も認められ、内診では子宮頸部移動痛(cervical motion tenderness)が陽性となります 。
参考)骨盤内炎症性疾患 (PID) - 18. 婦人科および産科 …

 

診断基準として、日本産科婦人科学会では以下の項目を設定しています :
参考)(3)骨盤内感染症(PID)の総論 href="https://www.jaog.or.jp/note/%EF%BC%883%EF%BC%89%E9%AA%A8%E7%9B%A4%E5%86%85%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87%EF%BC%88pid%EF%BC%89%E3%81%AE%E7%B7%8F%E8%AB%96/" target="_blank">https://www.jaog.or.jp/note/%EF%BC%883%EF%BC%89%E9%AA%A8%E7%9B%A4%E5%86%85%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87%EF%BC%88pid%EF%BC%89%E3%81%AE%E7%B7%8F%E8%AB%96/amp;#8211; 日本産婦…

 

必須診断基準:

  • 下腹痛・下腹部圧痛
  • 子宮・付属器および周辺の圧痛

付加診断基準:

  • 38℃以上の発熱
  • 白血球増加
  • CRPの上昇

特異的診断基準:

血液検査では、白血球数増多(通常10,000/μL以上)、CRP陽性などの急性炎症所見が認められます 。特にクラミジア感染が疑われる場合は、血清IgA抗体価の測定や、子宮頸管分泌物のPCR検査が診断に有用です 。
参考)腹膜炎とは?症状や診断方法について解説

 

画像診断では、経腟超音波検査やCT、MRIにより、ダグラス窩の滲出液や膿瘍形成の確認が可能です 。腹腔鏡検査は確定診断に最も有用ですが、侵襲的検査であるため、臨床症状と他の検査所見を総合して診断することが多いです 。

クラミジア性骨盤腹膜炎の治療戦略

クラミジア性骨盤腹膜炎の治療は、迅速な抗菌薬療法が基本となります 。治療の遅れは重篤な合併症につながるため、診断が確定する前でも疑いが強い場合は直ちに治療を開始します 。
参考)骨盤内炎症性疾患(PID) - 22. 女性の健康上の問題 …

 

第一選択薬として、以下の組み合わせが推奨されています :
参考)不妊の原因となる骨盤内炎症疾患(PID)について -日本では…

 

抗菌薬 対象菌 投与方法
セフトリアキソン 淋菌 筋肉注射または静脈注射
ドキシサイクリン クラミジア 経口投与(100mg×2回/日)
メトロニダゾール 嫌気性菌 経口または静脈投与

治療期間は通常2週間程度を要しますが、症状の重症度や治療反応により調整されます 。軽症例では外来での経口抗菌薬治療が可能ですが、以下の場合は入院治療が必要です :
参考)骨盤内炎症性疾患(PID) href="https://kobe-kishida-clinic.com/infectious/infectious-disease/pidpelvic-inflammatory-disease/" target="_blank">https://kobe-kishida-clinic.com/infectious/infectious-disease/pidpelvic-inflammatory-disease/amp;#8211; 感染症 - 神戸…

 

  • 72時間以内に症状改善が見られない場合
  • 重度の症状や高熱を認める場合
  • 膿瘍形成が疑われる場合
  • 嘔吐により経口薬の投与が困難な場合

治療効果の判定は、症状の改善、炎症マーカーの正常化、画像所見の改善により行います 。治療開始後3-5日で症状改善が見られない場合は、薬剤耐性や他の原因菌の関与を考慮し、抗菌薬の変更を検討します 。

骨盤腹膜炎による不妊症への影響

クラミジア性骨盤腹膜炎の最も重要な長期合併症は、不妊症です 。PIDの既往がある女性は、既往のない女性と比較して不妊症のリスクが数倍高くなることが知られています 。
参考)不妊症 - 公益社団法人 日本産科婦人科学会

 

不妊症の発症メカニズムには、以下の要因が関与します :
参考)もしやその症状?骨盤内炎症性疾患(PID)の原因・症状・不妊…

 

卵管因子による不妊:

  • 卵管内腔の完全閉塞
  • 卵管采周囲癒着によるピックアップ障害
  • 卵管留水腫・留膿腫の形成
  • 卵管の狭窄や蠕動運動障害

その他の因子:

  • 骨盤内癒着による卵巣の位置異常
  • 子宮内膜の慢性炎症
  • ホルモン分泌異常

統計的には、軽症のPID既往で約10-15%、中等症で約20-25%、重症例では約40-50%の女性が不妊症を発症するとされています 。特にクラミジア感染は卵管通過障害や癒着を生じる主要因となるため、確実な診断と治療が重要です 。
参考)http://jsog.umin.ac.jp/65/handout/018_tsuda.pdf

 

PIDの重症度 不妊症発症率 主な原因
軽症 10-15% 軽度卵管癒着
中等症 20-25% 卵管狭窄・癒着
重症 40-50% 卵管閉塞・膿瘍形成

異所性妊娠も重要な合併症で、PID既往者では正常妊娠に比べて6-10倍のリスク増加が報告されています 。これは卵管内膜の損傷により、受精卵の正常な移送が阻害されることが原因です 。

骨盤腹膜炎の予防と早期発見

クラミジア性骨盤腹膜炎の予防には、感染源対策と早期発見が重要です 。性行為感染症としてのクラミジア感染を防ぐため、以下の対策が効果的です:
参考)骨盤腹膜炎とは

 

一次予防(感染防止):

  • 適切なコンドーム使用
  • パートナーの同時検査・治療
  • 複数パートナーとの性行為の回避
  • 定期的な性感染症スクリーニング

二次予防(早期発見・治療):

  • 年1回の婦人科検診受診
  • 症状がある場合の迅速な医療機関受診
  • パートナーの感染が判明した際の検査

特に無症状感染が多いクラミジアの特性を考慮し、性的活動期の女性には定期的なスクリーニング検査が推奨されます 。子宮頸管分泌物のPCR検査や尿検査により、無症状でも感染の早期発見が可能です 。
参考)クラミジア子宮頸管炎の原因・症状・診断・治療

 

また、子宮内避妊器具(IUD)の長期留置も骨盤腹膜炎のリスク因子となるため、定期的な交換が必要です 。IUD装着者では、異常な症状がある場合の早期受診が特に重要となります 。
参考)不妊相談Q&A

 

妊娠を希望する女性では、妊娠前のクラミジア検査と治療が推奨されます。感染が確認された場合は、完治確認後の妊活開始により、妊娠中の感染や胎児への影響を予防できます 。
参考)クラミジア感染症と不妊(妊娠・自然妊娠できる?)