初回投与後に動脈管が閉鎖していても、2回目・3回目を続けると患児が重篤な腎障害に陥るリスクがあります。

イブリーフ静注20mgは、イブプロフェン L-リシンを有効成分とする未熟児動脈管開存症(PDA)治療剤です。2018年1月に承認を取得し、同年6月から販売が開始されました。
未熟児動脈管開存症とは、胎児期に大動脈と肺動脈をつなぐ「動脈管」が出生後も閉鎖しない状態です。早産児では自然閉鎖が起こりにくく、放置すると心不全・肺うっ血・壊死性腸炎・頭蓋内出血など重大な合併症につながります。動脈管が開いたまま大きな穴があいているイメージで、心臓に余分な負担がかかり続ける状態です。
イブリーフ以前、日本でPDA治療に使えるプロスタグランジン(PG)合成阻害薬は、1994年承認のインドメタシンナトリウム静注製剤(インダシン)のみでした。一方、海外ではイブプロフェン製剤が既に広く使用されており、日本新生児成育医学会の要望を受けて開発が進められた経緯があります。
本剤の有効成分はイブプロフェン L-リシンで、活性成分はイブプロフェンです。COX(シクロオキシゲナーゼ)を非選択的に阻害することにより、動脈管の収縮・閉鎖に関わるプロスタグランジンの合成を抑制します。つまりNSAIDsの作用機序を活用した薬剤です。
製造販売元は2025年1月よりレコルダティ・レア・ディジーズ・ジャパン株式会社へ承継されています。薬価は1瓶13,235円(2mL1バイアル)、3バイアル1セットで提供されます。処方箋医薬品であり、新生児医療および未熟児PDA患者の管理に習熟した医師が使用するか、その監督下で使用することが求められています。
医療用医薬品情報 イブリーフ(KEGG)|添付文書全文・禁忌・副作用の一覧確認に
添付文書に定められた用法・用量は以下のとおりです。
| 回数 | 用量(イブプロフェンとして) | 間隔 |
|------|--------------------------|------|
| 初回 | 10mg/kg | — |
| 2回目 | 5mg/kg | 初回から24時間後 |
| 3回目 | 5mg/kg | 2回目から24時間後 |
投与は15分以上かけて行い、上限は1時間を目安とすることが定められています。つまり最短15分・最長60分の範囲で静脈内投与するということですね。
これが臨床上重要な理由のひとつは、急速投与による血管への負担軽減です。また、1バイアル2mLという小容量なので、希釈して投与する場合は日本薬局方ブドウ糖注射液(5%または10%)か日本薬局方生理食塩液を使用しなければなりません。これ以外の溶媒は添付文書上認められていない点に注意が必要です。
もう一点、見落としやすい重要な記載が「中心静脈栄養(TPN)との同一ラインでの投与」についてです。同じ静脈ラインを使う際は、TPNを中断し、ブドウ糖注射液または生理食塩液を本剤の投与前後15分間ずつフラッシュしてから投与することが義務づけられています。
この手順を省略してTPNと直接混合した場合、配合変化によって白濁・沈殿が生じる可能性があります。NICUでは複数のラインを同時に管理することが多い状況です。しかし、イブリーフに関してはラインの「前後15分フラッシュ」が必須です。
希釈後の薬液は用時調製が原則であり、使用しなかった薬液は廃棄しなければなりません。つまり「後で使おう」という保存はできません。この点も調剤担当薬剤師・看護師が把握しておくべき実務上のポイントです。
イブリーフ静注20mg 添付文書PDF(JAPIC)|用法・用量・調製方法の原文確認に
イブリーフの禁忌は計8項目あります。これだけ多い禁忌を持つ薬剤は新生児領域では珍しいほうです。1つずつ確認しておくことが大切です。
| 禁忌項目 | 理由 |
|---------|------|
| 動脈管依存性先天性心疾患(肺動脈閉鎖、ファロー四徴症、大動脈縮窄症等) | 動脈管の開存が肺・全身血流確保に必要であり、閉鎖させると症状悪化 |
| 重篤な腎機能障害 | PG合成阻害により腎血流が低下し、腎障害がさらに悪化 |
| 高度の黄疸 | イブプロフェンがアルブミン結合部位からビリルビンを置換し、血中濃度が上昇 |
| 消化管出血 | PG合成阻害による胃粘膜防御能低下で出血が悪化 |
| 壊死性腸炎またはその疑い | 壊死性腸炎が悪化するおそれ |
| 頭蓋内出血 | 頭蓋内出血が悪化するおそれ |
| 血小板減少症 | 血小板凝集能を抑制するため悪化するおそれ |
| 血液凝固障害 | 血小板凝集能抑制により凝固障害が悪化するおそれ |
特に注意が必要なのは「高度の黄疸」の禁忌です。イブプロフェンはアルブミンのビリルビン結合部位を競合的に置換するため、遊離ビリルビンが増加し、核黄疸(ビリルビン脳症)のリスクが高まります。高ビリルビン血症を合併する未熟児は多く、投与前のビリルビン値確認が必須です。
また、禁忌には至らないものの「総ビリルビンの上昇がみられる患者」では「慎重投与」が求められています。高度の黄疸でなくても注意が必要ということですね。
動脈管依存性先天性心疾患の禁忌は一見わかりやすそうですが、PDA治療を開始する際、同時に先天性心疾患の精査が完了していないケースも起こりえます。エコー評価で動脈管依存性の血行動態を確認してから投与判断することが重要です。
イブリーフ静注20mgの添付文書(QLifePro)|禁忌・慎重投与の詳細確認に
イブリーフの重大な副作用として添付文書に記載されている頻度データを整理します。
| 重大な副作用 | 頻度 |
|------------|------|
| 頭蓋内出血 | 15.9% |
| 壊死性腸炎 | 5.7% |
| 血小板減少症 | 4.5% |
| 消化管穿孔 | 2.3% |
| イレウス | 2.3% |
| 出血 | 2.3% |
| 胃腸出血 | 1.1% |
| 急性腎障害 | 1.1% |
| 肺高血圧症・肺出血・無尿 | 頻度不明 |
「頭蓋内出血15.9%」という数字を見て、驚く医療者もいるかもしれません。ただし重要な文脈があります。海外第III相試験の対象は出生時体重500g以上1,000g以下・在胎30週以下という超低出生体重・超早産児であり、もともと頭蓋内出血のリスクが非常に高い患者集団です。プラセボ群でも同程度の頻度が見られていることから、本剤特有の副作用と断定できないデータもあります。
しかし添付文書では頭蓋内出血を重大な副作用として明記しており、「頭部超音波検査を行うなど観察を十分に行うこと(8.4)」が義務づけられています。これは既存リスクを踏まえても、定期的な観察が欠かせないということです。
腎障害についても重要です。国内第III相試験(20例)では、尿量減少・乏尿が40.0%、腎機能障害が25.0%に認められました。これは本剤投与20例中の話ですから、決して珍しい事象ではありません。
添付文書の「用法及び用量に関連する注意」には、「無尿または著しい乏尿(尿量:0.6mL/h/kg未満)が明らかな場合は2回目または3回目の投与を行わないこと」と明記されています。つまり投与を継続するかどうかの判断に、尿量のリアルタイムモニタリングが不可欠です。腎機能が条件です。
🔍 その他の副作用(5%以上の頻度)
- 腎臓系:腎機能障害、血中クレアチニン増加、血中尿素増加、尿量減少
- 呼吸器系:無呼吸
- 感染症:敗血症
- 代謝系:低血糖、代謝性アシドーシス
これらは元来、超低出生体重児に起こりやすい合併症と重複する部分もありますが、投与後の観察を怠れば見逃すリスクがあります。厳密なモニタリングが重要です。
イブリーフ適正使用ガイド(レコルダティ・レア・ディジーズ・ジャパン)|副作用管理の具体的な注意喚起内容
イブリーフは主として肝代謝酵素CYP2C9によって代謝されます。添付文書に列挙されている併用注意薬剤は以下の6種類です。
| 併用注意薬剤 | 生じるリスク | 機序 |
|------------|------------|------|
| 利尿剤(フロセミド等) | 利尿作用の減弱 | PG合成阻害により水・Na貯留 |
| 副腎皮質ステロイド剤(プレドニゾロン等) | 消化管出血リスク上昇 | PG合成阻害作用の増強 |
| ジギタリス | ジギタリス作用の増強 | 腎血流低下によるジギタリス腎排泄の低下 |
| 抗凝血剤(ワルファリン等)・抗血小板剤 | 出血リスクの増大 | 血小板凝集抑制による相乗効果 |
| アミノグリコシド系抗生物質(ゲンタマイシン等) | アミノグリコシドの毒性増強 | 腎血流低下による腎排泄の低下 |
| 一酸化窒素 | 出血リスクの増大 | 血小板凝集抑制による相乗効果 |
NICUでは、PDA患者にフロセミドを水分制限・利尿目的で使用しているケースが多いです。これは使えそうです。しかしイブリーフとフロセミドを同時に投与すると、イブリーフのPG合成阻害作用によって水・ナトリウムの体内貯留が促進され、フロセミドの利尿効果が減弱するおそれがあります。
アミノグリコシド系抗生物質(ゲンタマイシン等)も注意が必要です。NICUでは敗血症予防・治療にゲンタマイシンを使う機会は多いですが、イブリーフ投与中は腎血流量が低下するため、アミノグリコシドの腎排泄が減少し、血中濃度が上昇します。TDM(薬物血中濃度モニタリング)を通常より注意深く行う必要があります。これが大原則です。
一酸化窒素(NO)は肺高血圧症の管理で使用されることがありますが、NOとの併用では出血リスクが相乗的に高まるとされています。イブリーフのRMP(医薬品リスク管理計画)においても「出血・血小板減少」は重要な特定リスクとして挙げられており、出血傾向のある患者では特に慎重な対応が求められます。
また「他のプロスタグランジン合成阻害剤と同時に投与しないこと(8.5)」という重要な基本的注意もあります。インドメタシン(インダシン)との同時使用は禁忌に準じた対応が必要です。
添付文書には「初回または2回目の投与後、動脈管の閉鎖が得られた場合は、再開通の可能性と副作用のリスクを慎重に検討した上で投与継続の要否を検討すること(7.3)」と記載されています。これは、イブリーフに特有の判断の難しさを示す記述です。
動脈管閉鎖が確認できた段階で次回投与を行うかどうか、すぐに答えは出ません。閉鎖後の再開通率は文献によりさまざまですが、特に超早産児(在胎28週未満)では再開通が起きやすいとされています。一方で投与を続ければ腎障害・出血系副作用のリスクは積み重なります。
国内第III相試験では、投与開始後14日目における動脈管閉鎖率は70.0%(14/20例)でした。しかし20例中3例(15.0%)は本剤から他の治療法への切り替えが必要でした。つまり全例に有効というわけではありません。
最新のガイドラインでは、PDAの管理に対する姿勢がやや変化してきています。無症候性のPDAに対しては積極的な薬物治療を行わず経過観察するアプローチが増えており、薬物治療は「症候性PDA」に絞って検討することが推奨されています。イブリーフ添付文書にも「保存療法(水分制限、利尿剤投与等)が無効の場合」という条件が明記されており、安易な早期投与は推奨されていません。
在胎28週未満・出生時体重500g未満の患者については、国内外臨床試験での使用経験が限られているとRMPに明記されています。このような患者に使用する際は、観察をより慎重に行う必要があります。独自の視点として指摘すると、承認時の国内試験が20例という小規模なため、日本人超低出生体重児での安全プロファイルを「確立されたもの」と見なすには慎重さが求められます。一般使用成績調査が継続中であることも踏まえ、添付文書改訂情報を定期的に確認する習慣が重要です。
添付文書のバージョン確認も欠かせません。2025年6月が現時点での第4版改訂であり、PMDAの電子添文検索ページで常に最新版を確認することが推奨されています。
イブリーフ静注20mg 審査報告書(PMDA)|国内外臨床試験の詳細データ確認に