トロポミオシンは筋肉収縮に関与する線維状のアクチン結合タンパク質で、アクチンの働きを調節する重要な役割を果たしています 。このタンパク質は2本のαヘリックスからなるコイルドコイルの構造をとり、特に筋収縮を行う上で重要な働きをしています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%9D%E3%83%9F%E3%82%AA%E3%82%B7%E3%83%B3
甲殻類アレルギーの主要なアレルゲンはこのトロポミオシンであり、エビアレルギー患者において最も高頻度にIgEに結合することが確認されています 。興味深いことに、トロポミオシンは種ごとの違いが大きい(種ごとに高度に保存されている)タンパク質であるため、アレルゲンとなりやすい特性を持っています 。
参考)https://www.fsc.go.jp/foodsafetyinfo_map/allergen.data/factsheets_Allergy__Shrimp_and_Crab.pdf
エビまたはカニのどちらかにアレルギーがある場合、もう片方にもアレルギー症状が出現することが多く、これはトロポミオシンというタンパク質の構造が互いに非常に似ていることが原因です 。臨床的には、エビアレルギーの人の約65%がカニを摂取してもアレルギー症状を起こすことが報告されています 。
参考)https://www.yamatoclinic.site/blog/2023/02/%E3%80%80%E3%82%AB%E3%83%8B%E3%80%81%E3%82%A8%E3%83%93%E3%80%80%E3%81%AA%E3%81%A9%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%EF%BC%88%E7%94%B2%E6%AE%BB%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%AE/
🔬 アレルギー反応の特徴:
トロポミオシンアレルギーの症状は軽症から重症まで幅広く、皮膚症状、呼吸器症状、消化器症状、そして全身性のアナフィラキシーまで様々な形で現れます 。
参考)https://www.foodallergy.jp/faq-shinryo/shindan-chiryo/
皮膚症状では発赤、蕁麻疹、掻痒感などが出現し、部分的な蕁麻疹や自制内の軽い搔痒は軽症(グレード1)、範囲が広がり全身性になった場合は中等症以上と判定されます 。甲殻類アレルギーの特徴として、じんましんなどの皮膚症状や喘鳴、腹痛などの症状が現れやすく、食物アレルギーの中でも症状が強く出やすいとされています 。
参考)https://www.musashikoyama-hifu.com/news/%E3%82%A8%E3%83%93%E3%82%AB%E3%83%8B%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC/
重症例における注意点:
魚介類を摂取後に口腔内の違和感や、蕁麻疹、アナフィラキシーなどの症状が出現するのが典型的なパターンです 。重症化するとアナフィラキシーショックを起こし、命に関わる危険性もあるため、医療従事者は迅速な対応が求められます 。
参考)https://www.med.nagasaki-u.ac.jp/dermtlgy/patients/seafoodallergy.html
トロポミオシンアレルギーの診断には複数のアプローチが必要で、血液検査と皮膚テストの組み合わせが重要です。特異的IgE検査では、エビ、カニ、ダニ、ガ、ゴキブリ、ユスリカなどでクラス2-3の陽性を示すことが多く、プリックテストでもエビ、カニ、ダニ、ゴキブリで陽性を示す傾向があります 。
参考)https://jlc.jst.go.jp/DN/JALC/00251877116?from=CiNii
最近では精製アレルゲンを利用したアレルゲン特異的IgE検査が実用化されており、その優れた特異性と感度により、アレルギー患者の特定に非常に有用とされています 。トロポミオシン特異的IgE検査は、日本における甲殻類アレルギーの診断において高い診断精度を示しています 。
参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdfdirect/10.1002/cia2.12019
診断における注意点:
🩺 診断のポイント:
トロポミオシンの最も注目すべき特徴は、広範囲な生物種間での交差反応性です。トロポミオシンは無脊椎動物に共通のアレルゲンであり、お互いに抗原交差性を示すことがわかっています 。これは甲殻類間におけるトロポミオシンのアミノ酸配列の相同性が高いためです 。
参考)https://www.seizando.co.jp/column/20220216/
エビアレルギーの人の多くはカニにも反応しますが、それだけでなく、ハウスダストの中のダニの死骸やゴキブリの糞に反応する人は、エビ・カニアレルギーになる可能性が高いとされています 。また、甲殻類だけでなく軟体類のイカやタコも同様にトロポミオシンを含有しており、甲殻類アレルギー患者の一部で反応を示します 。
近年注目される昆虫食との関連:
昆虫食に含まれるタンパク質の交差反応性について研究が進んでおり、公定検査法として定めている甲殻類アレルゲンの定量検査法(ELISA法)を用いた検討では、昆虫の種類や加工度が異なる12検体すべてにおいて甲殻類トロポミオシン特異的抗体が認識するタンパク質が含まれていることが確認されています 。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202323029A-buntan3_1.pdf
🔬 交差反応を示す主な生物:
現在のところ、トロポミオシンアレルギーの根本的な治療法は確立されておらず、反応性が高い魚介類については抗原の回避が治療の基本となります 。甲殻類アレルギーは自然に改善することをあまり期待できないため、長期的な管理が必要です 。
症状出現時の薬物療法では、皮膚症状・口腔内症状に対してはヒスタミンH1受容体拮抗薬の内服を、呼吸器症状に対しては気管支拡張薬(β2刺激薬)吸入・酸素投与を、消化器症状に対しては補液を検討します 。追加治療が必要な場合は、副腎皮質ステロイドの内服・静脈注射を考慮し、中等症でも治療に反応しない例や重症例はアドレナリン投与の適応となります 。
アドレナリン投与の基準:
💊 治療薬の使い分け:
興味深いことに、高温処理でアレルゲン性が低下すると考えられており、かっぱえびせんなどのスナック菓子には反応しないことも多く報告されています 。また、ゆで汁や煮汁にも湧出するため、2度ゆで、3度ゆで後にはアレルゲン性が低下することも知られています 。
参考)https://kishidakodomo.com/knowledge/%E2%91%A3-%E2%91%A2-%E2%91%AA%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%B2%E3%83%B3%E5%88%A5%E9%99%A4%E5%8E%BB%E9%A3%9F%E7%99%82%E6%B3%95%E3%80%80%E7%94%B2%E6%AE%BB%E9%A1%9E%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%AE/
患者教育においては、エビやカニは料理だけでなく調味料や菓子にも使用される食品であること、しらすやちりめんじゃこには小さなエビやカニが混入していることがあることを説明し、アレルギー表示を必ず確認するよう指導することが重要です 。