リン吸着薬は慢性腎疾患患者の高リン血症治療において重要な薬剤群です。現在臨床で使用されているリン吸着薬は大きく3つのカテゴリーに分類され、それぞれ異なる特徴と適応を持っています。
リン吸着薬の存在意義は、約60%とされる腸管リン吸収率を抑制することにあります。実際の維持透析では、週3回のHDで2,388~3,006mg/週、CAPD療法では残腎機能を含めたトータルリン除去量は2,300±113mg/週であり、除去量としては不十分なため、リン吸着薬による腸管での吸収阻害が不可欠です。
カルシウム含有リン吸着薬は1970年代より使用されている従来型の薬剤群です。代表的な薬剤として以下があります。
沈降炭酸カルシウム(カルタン®)
酢酸カルシウム・乳酸カルシウム
カルシウム含有製剤の最大の懸念点は、投与量が多いと吸収されたカルシウムが血液中でリンと結合し、血管石灰化を促進させる可能性があることです。このため近年では炭酸ランタンやセベラマーなどの非カルシウム系薬剤への移行が進んでいます。
非カルシウム非アルミニウム系リン吸着薬は、異所性石灰化予防に役立つ新世代の薬剤群です。
塩酸セベラマー(フォスブロック®・レナジェル®)
炭酸ランタン(ホスレノール®)
ビキサロマー(キックリン®)
非カルシウム系薬剤の利点は、血管石灰化のリスクが低いことですが、価格が高いという経済的な課題があります。
2014年以降、鉄含有のリン吸着薬が登場し、リン吸着効果とともに貧血の改善効果も期待されています。
クエン酸第二鉄水和物(リオナ®)
スクロオキシ水酸化鉄(ピートル®)
鉄含有製剤の特徴は、リン吸着作用に加えて鉄欠乏性貧血の改善効果が期待できることです。透析患者では貧血が高頻度で認められるため、一石二鳥の効果が期待されています。
リン吸着薬の治療効果を最大化するためには、服薬アドヒアランスの管理が重要な課題となっています。
処方錠数と服薬負担の関係
リン吸着薬の月間処方錠数の中央値は210錠/月であり、単剤処方者は50%にとどまっています。処方錠数が多い群では年齢が若く、透析歴が長く、血清リンが高値である傾向が認められました。
アドヒアランス不良の実態
アドヒアランス不良者は30~40%に上り、以下の特徴が認められています。
処方錠数増加により、「残薬がある」「量が多い・とても多い」と回答した患者が増加し、アドヒアランス不良者は「量が多い・とても多い」と感じる割合が多いことが判明しています。
服薬指導のポイント
各薬剤の特性に応じた服薬指導が重要です。
リン吸着薬の選択においては、従来の効果・副作用・価格に加えて、患者個別の病態と生活の質を考慮した多角的なアプローチが求められています。
個別化医療の観点
透析患者の高リン血症治療では、以下の独自視点が重要です。
薬剤経済学的考察
リン吸着薬の月間処方錠数210錠という現実を踏まえると、薬剤費の差は患者の経済的負担に大きく影響します。カルタン(17~38円/日)と高価格帯のランタン(582~1,437円/日)では年間で20万円以上の差額が生じる可能性があります。
服薬負担軽減戦略
アドヒアランス向上のための独自アプローチとして。
透析患者における高リン血症治療は長期にわたるため、効果・安全性・経済性・利便性のバランスを取った総合的な治療戦略が患者の予後改善に直結すると考えられます。今後は患者個々の病態と価値観を尊重した個別化医療の実現が期待されています。