ナルデメジンとオピオイド誘発性便秘の作用機序と適正使用

ナルデメジンは従来の下剤と異なり、末梢μオピオイド受容体に作用してオピオイド誘発性便秘を改善する新規治療薬です。血液脳関門を通過せず鎮痛効果に影響しない特徴を持ちますが、その詳細な使用法や従来薬との違いをご存知でしょうか?

ナルデメジンの作用機序と特徴

ナルデメジンの基本特性
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末梢性μオピオイド受容体選択性

血液脳関門を通過せず、消化管の末梢受容体のみに作用し鎮痛効果を妨げない

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直接的便秘改善機序

オピオイドによる腸管運動抑制を根本的に阻害する新規作用機序

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予防的使用の可能性

オピオイド開始と同時に投与することでOIC予防効果を発揮

ナルデメジンの分子構造と血液脳関門透過性

ナルデメジンは、塩野義製薬が創製した末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(PAMORA)で、ナロキソン類似構造に巨大な側鎖を付加した分子設計により血液脳関門を通過しない特徴を持ちます 。この独特な分子構造により、中枢神経系のオピオイド受容体には作用せず、鎮痛・鎮咳作用を阻害することなく、消化管の末梢μオピオイド受容体でオピオイド鎮痛薬と強力に拮抗します 。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2017/P20170308001/340018000_22900AMX00513_F100_1.pdf

 

血液脳関門を通過しないため、モルヒネやオキシコドン、フェンタニルなどの中枢作用による鎮痛効果には影響を与えず、消化管での末梢作用のみを選択的に阻害する設計となっています 。この特性により、オピオイド誘発性便秘(OIC)の改善と鎮痛効果の維持を両立させることが可能になりました。
参考)https://nsmc.hosp.go.jp/Journal/2018-8/SMCJ2018-8_original01.pdf

 

ナルデメジンと従来下剤の作用機序の違い

従来の便秘治療薬である浸透圧性下剤(酸化マグネシウムなど)や大腸刺激性下剤(センナなど)は、腸管への水分貯留や腸管蠕動運動の促進により排便を促進しますが、オピオイドによる便秘の根本原因には直接作用しません 。一方、ナルデメジンは末梢μオピオイド受容体でオピオイドと競合的に拮抗することで、オピオイドによる腸管運動抑制を直接的に解除します。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphcs/46/11/46_672/_pdf

 

この機序の違いにより、ナルデメジンは腹痛や下痢などの副作用が比較的少なく、他の下剤と全く異なる作用機序のため併用も可能です 。また、1規格(0.2mg)で末梢の受容体をほぼ完全にカバーするため用量調節の必要がなく、「下剤」ではなく「便秘予防薬」として定時内服する薬剤として位置づけられています 。
参考)http://kumagaya-ph.or.jp/renkei/column/220228_different_use_of_new_laxatives.pdf

 

ナルデメジンの薬物動態と投与量設定根拠

ナルデメジンの推奨用量は成人に対して1回0.2mgを1日1回経口投与です 。この用量設定は、複数の第3相試験において、がん患者と非がん性慢性疼痛患者の両方で有効性が確認された結果に基づいています 。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00066855

 

薬物動態学的には、空腹時投与と比較して食後投与でCmaxは35%減少しますが、AUCはほぼ同様の値を示し、食事摂取による吸収の遅延は認められるものの、吸収量への影響は軽微です 。半減期は約11時間で、1日1回の投与により安定した血中濃度を維持できます 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00066855.pdf

 

CYP3A4の基質であるため、強力なCYP3A誘導剤であるリファンピシンとの併用により血中濃度が大幅に低下することが報告されており、薬物相互作用に注意が必要です 。

ナルデメジンの予防投与における独自視点

近年の臨床研究では、オピオイド投与開始と同時にナルデメジンを予防的に投与することで、従来の「便秘が発症してから治療する」アプローチから、「便秘を予防する」アプローチへのパラダイムシフトが起こっています 。
参考)https://www.tsukuba.ac.jp/journal/pdf/p20240911140000.pdf

 

日本発の2つのランダム化比較試験では、ナルデメジンの予防投与が酸化マグネシウムやプラセボと比較して有意に便秘予防効果を示し、さらにオピオイド導入時の嘔気も改善することが示されました 。14日目に便秘になっていない患者の割合は、ナルデメジン群で64.6%、プラセボ群で17.0%と大きな差が認められました 。
参考)https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=24823

 

この予防的使用により、従来必要とされた制吐剤や複数の便秘薬の定期投与が不要になる可能性があり、終末期医療における投薬負担軽減に大きな意義があります 。

ナルデメジンの臨床効果と安全性プロファイル

国内外の臨床試験では、ナルデメジン投与により自発的排便(SBM)回数が有意に増加し、投与開始後12時間以内に多くの患者で効果が認められています 。特に、いきみや残便感を伴わない質の高い排便が得られることが特徴です 。
参考)https://www.carenet.com/news/general/carenet/48332

 

安全性面では、52週間の長期投与試験において、副作用発現率はナルデメジン群68.4%、プラセボ群72.1%と同等で、最も多い副作用は下痢(11.0%)でした 。オピオイド離脱症状や疼痛強度の変化に有意差はなく、長期使用においても安全性が確認されています 。
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/newsletter/nl79all.pdf

 

日常的な下剤服用の他に頓用下剤を使用した患者の割合は、ナルデメジン群で8.0%、対照群で14.0%と有意に少なく、便秘症状とQOLにおいて有意な改善が認められました 。