ツベルクリン反応が陰性でも、エンブレル投与後に活動性結核を発症し死亡した例が報告されています。

エンブレル(一般名:エタネルセプト)は、TNFα(腫瘍壊死因子)およびLTα(リンフォトキシンα)に結合し、その生物活性を阻害する完全ヒト型可溶性TNFα/LTαレセプター製剤です。関節リウマチ(RA)に対して既存治療が効果不十分な場合に使用される生物学的製剤であり、臨床的な有効性の高さで知られています。
PMDAが公開している再審査報告書(2017年)によると、市販後の使用成績調査では13,983例が安全性解析の対象とされました。そのうち、副作用発現率は26.6%(3,721例)、重篤な副作用発現率は4.6%(639例・812件)に達しています。転帰が死亡に至った件数は79件と報告されており、医療従事者としてこの数字の意味を正確に把握しておくことが重要です。
ここが基本です。エンブレルは「重篤な副作用により致命的な経過をたどることがある」と添付文書の警告欄に明記されています。つまり、死亡リスクは理論上の話ではなく、実際の市販後データで確認済みの事実です。
重要なのは、死亡に至った副作用の内訳です。PMDAの報告によれば、肺炎(死亡12例)、間質性肺疾患(死亡6例)、敗血症(死亡5例)、悪性腫瘍(死亡10例)などが主な転帰死亡原因として挙げられています。また、ニューモシスチス肺炎やサイトメガロウイルス感染でも死亡例が確認されています。
一方で、同じ再審査報告では、エタネルセプト投与患者の死亡率は一般人の1.3倍であったことも示されています。対照的に、治療を受けていないRAそのものの死亡率は一般人の1.5〜2.0倍とされており、「エンブレル投与によってむしろリスクが下がっている」という解釈も成立する複雑な状況です。意外ですね。ただし、この比較は交絡因子も多く、そのままベネフィットの証明とは言い切れません。
| 副作用カテゴリ | 発現率(重篤) | 転帰死亡件数 |
|---|---|---|
| 肺炎(全種) | 1.3%(180例) | 12例 |
| 間質性肺疾患 | 0.6%(87例) | 10例 |
| 悪性腫瘍 | 0.3%(38例) | 1例 |
| 敗血症 | 0.2%(26例) | 5例 |
| ニューモシスチス肺炎 | 0.2%(25例) | 6例 |
| 結核 | 0.1%(12例) | 0例(使用成績調査内) |
参考:PMDAによるエンブレル再審査報告書(2017年)。重篤な副作用発現例と転帰死亡の詳細データが記載されています。
PMDA エンブレル皮下注用25mg 再審査報告書(PDF)
エンブレルを含むTNF阻害薬は、TNFαという免疫の「番人」とも言える物質の働きを抑えます。TNFαは肉芽腫形成に中心的な役割を果たしており、この抑制によって潜在性結核の再活性化や、各種日和見感染症のリスクが上昇します。つまり感染症の問題が核心です。
最も多い重篤副作用は肺炎全般(鼻咽頭炎、気管支炎から重症肺炎まで)で、市販後調査では鼻咽頭炎8.6%(1,209例)、気管支炎1.7%(243例)、肺炎1.1%(151例)という発現状況が確認されています。日和見感染症としては、ニューモシスチス肺炎(PCP)の多発も国内で問題視されており、インフリキシマブ使用患者での累積発生率を示した研究(Harigai et al., NEJM 2007)でも、高齢・ステロイド併用・既存肺疾患のある患者での発症リスクが顕著であることが示されています。
特に注意が必要なのは、IL-6阻害薬(トシリズマブなど)とは異なり、エタネルセプトはCRPに直接作用するわけではありません。しかし、感染症の前駆症状がマスクされる可能性は全ての生物学的製剤に共通する課題です。これは必須の視点です。
では、具体的に何を観察すべきか。日本リウマチ学会の「TNF阻害薬使用の手引き(2024年7月改訂版)」では、以下のリスク因子がある患者では肺炎発症リスクが明確に高まるとしています。
投与中に発熱、咳嗽、呼吸困難が現れた場合は、細菌性肺炎・結核・ニューモシスチス肺炎・薬剤性肺障害の鑑別を速やかに行う必要があります。これらは同時に複数が関与することもあり、安易に「風邪」と判断しないことが重要です。
参考:日本リウマチ学会 TNF阻害薬使用の手引き(2024年改訂版)。感染症リスク因子の部分集団解析と対応策が詳述されています。
日本リウマチ学会 TNF阻害薬使用の手引き(2024年7月改訂版・PDF)
結核に関しては、エンブレルを含むTNF阻害薬の副作用のなかで特に慎重な扱いが求められます。TNFαは肉芽腫の形成・維持に不可欠であり、これを阻害することで結核菌が封じ込められていた肉芽腫が崩壊し、潜在性結核が一気に活動性へと転化するリスクがあります。
インフリキシマブが国内で導入された2003年当初、結核の多発が社会問題となりました。その後、スクリーニングの義務化と適切な予防投与が普及してからは、結核発症件数は劇的に減少しています。ただし、注意しなければならない重大な落とし穴があります。
「ツベルクリン反応やIGRA(クオンティフェロン/T-SPOT)が陰性であっても、投与後に活動性結核を発症した例が報告されている」という事実です。これは添付文書(2024年7月改訂第4版)にも明記されており、「スクリーニング済みだから安心」とはいかない現実を示しています。陰性だから安全、とはなりません。
また、TNF阻害薬による結核は「肺外結核」の割合が高いことも特徴です。胸膜・リンパ節・腹部などに発症する非典型的な結核は、通常の胸部X線では発見が困難なことがあります。日本リウマチ学会の手引きでは、播種性結核(粟粒結核)や肺外結核を想定した観察の継続を推奨しています。
スクリーニングの基本手順を整理すると、次のとおりです。
潜在性結核の可能性が高い患者には、TNF阻害薬開始の3週間前よりイソニアジド(INH)300mg/日を6〜9ヵ月間投与することが推奨されています。INH予防投与がなされた患者でも発症例があることから、投与中の経過観察を怠らないことが原則です。
持続する咳、発熱、体重減少などが続く場合は、胸部X線だけでなくCT・喀痰検査・QuantiFERON再検査などを積極的に行う姿勢が求められます。結核発症の疑いがある場合、TNF阻害薬の投与を一時中断し、呼吸器専門医または結核専門医へのコンサルトが必要です。
参考:添付文書(エンブレル2024年7月改訂)における結核スクリーニング要件の詳細。KEGGデータベース経由で最新の添付文書情報を参照できます。
感染症以外にも、エンブレルには複数の重大な副作用が添付文書に明記されています。なかでも間質性肺炎は、死亡リスクと直結する重要な副作用の一つです。
PMDAの再審査報告によると、市販後使用成績調査(13,983例)において間質性肺疾患は0.6%(87例)に発現し、転帰死亡が10例確認されています。これはトップクラスに死亡件数の多い副作用カテゴリです。間質性肺炎の既往歴のある患者は添付文書上「要注意患者」として分類されており、増悪・再発のリスクが指摘されています。
投与中に乾性咳嗽・労作時息切れ・SpO₂の低下などが現れた場合は、速やかに胸部CT・KL-6・SP-D・LDHなどのバイオマーカー測定を行い、薬剤性肺障害と感染性肺炎の鑑別を進める必要があります。重症な間質性肺炎が疑われる場合はエンブレルを中止し、ステロイドパルス療法を含む治療介入を検討します。これが条件です。
脱髄疾患については、多発性硬化症(MS)などの脱髄疾患の既往歴がある患者への投与は禁忌(添付文書2.5項)とされています。また、脱髄を疑う症状(視力障害・四肢の脱力・感覚障害など)を有する患者や家族歴のある患者への投与も慎重を要します。画像診断(MRI)による確認が推奨されています。
悪性腫瘍については、臨床試験および長期試験において悪性リンパ腫等の発現が報告されています。添付文書の「重要な基本的注意」欄には、「慢性炎症性疾患のある患者に免疫抑制剤を長期間投与した場合、悪性リンパ腫の発現危険性が高まる」と明記されています。また、TNF阻害薬を使用した小児・若年成人においても悪性腫瘍が報告されており、小児患者への投与には特別な注意が必要です。
市販後調査では悪性腫瘍は0.3%(38例)に発現し、転帰死亡が1例確認されています。エタネルセプトに起因するものか否かの確定は難しいとされていますが、長期投与患者においては定期的な腫瘍マーカー検査や画像検査による悪性腫瘍スクリーニングを検討することが望ましいです。
| 重大な副作用(添付文書11.1項) | 頻度目安 | 主な観察ポイント |
|---|---|---|
| 重篤な感染症(敗血症・日和見感染) | 敗血症0.2%、肺炎1.5% | 発熱・倦怠感・咳嗽の持続 |
| 結核 | 0.1%未満 | 持続する咳・発熱・体重減少 |
| 重篤なアレルギー反応 | 0.5% | 血管浮腫・アナフィラキシー |
| 重篤な血液障害 | まれ | 発熱の持続・挫傷・蒼白 |
| 脱髄疾患 | まれ | 視力障害・四肢脱力 |
| 間質性肺炎 | 0.6% | 乾性咳嗽・労作時息切れ |
参考:エタネルセプトの感染症プロファイルについて、生物学的製剤・JAK阻害薬との比較が詳述されています。
1ページで読む『生物学的製剤およびJAK阻害薬と感染症』(The Idaten Journal)
ここまでの内容を踏まえた上で、臨床現場で医療従事者が実践すべき具体的な対策を整理します。重要なのは、「副作用が起きてから対応する」ではなく、「副作用を未然に防ぎ、起きた際に早期発見する」という姿勢です。
投与前スクリーニングの段階では、結核・HBV・HCV・HIV・β-Dグルカン(真菌感染指標)のチェックが基本です。血中白血球数4,000/mm³以上・リンパ球数1,000/mm³以上・血中β-Dグルカン陰性を満たしていることが、日和見感染症に対する安全性の観点から望ましいとされています(日本リウマチ学会「TNF阻害薬使用の手引き2024」)。
ワクチン接種についても注意が必要です。エンブレル投与中は生ワクチン(BCG・水痘・麻疹・風疹・おたふくかぜなど)の接種は禁忌です。一方で、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチン(特に65歳以上)は積極的に接種を勧めるべきです。理想は、投与開始前に必要なワクチン接種を済ませておくことです。
投与中の定期的モニタリングとして、以下の項目が推奨されます。
患者への指導も欠かせません。エンブレルの自己注射を行う患者には、「発熱・倦怠感が現れたら速やかに主治医に連絡する」よう徹底的に説明する義務があります。自己注射を継続していた患者が感染症の初期症状を見過ごし、重篤化するケースも報告されています。これは防げる死亡につながりうるリスクです。
周術期管理として、整形外科手術を予定している患者については、エンブレルの術前休薬が日本リウマチ学会の「関節リウマチ診療ガイドライン2024」でも推奨されています(推奨の強さ:弱い)。術後の感染リスクと手術部位感染(SSI)を考慮し、投与間隔に応じた適切な休薬期間を設定します。エタネルセプトの場合は週1回または週2回投与の投与間隔を基準に休薬期間を検討し、術後は経過が良好であることを確認したうえで再開します。
つまり「投与前・投与中・手術時」の3つのフェーズで死亡リスクを下げる取り組みが必要、ということです。
参考:RA患者のリスクプロファイルとエタネルセプト使用時の感染症リスクについての詳細な解説があります。
抗リウマチ薬エンブレル(エタネルセプト)の報道に関する情報(浜松医科大学)

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