デラプリル塩酸塩は、アンジオテンシンI変換酵素(ACE)を選択的に阻害するプロドラッグとして開発された降圧薬である 。経口投与後、肝臓で加水分解により活性代謝物であるM-I(デラプリルジアシド体)およびM-III(5-ヒドロキシデラプリルジアシド体)に変換される 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00006167.pdf
主要活性代謝物M-Iは投与後1.6時間でピーク濃度(731ng/mL)に達し、半減期は1.1時間を示す 。この活性代謝物が血中および組織中のACE活性を阻害することで、アンジオテンシンIIの生成を抑制し血管拡張をもたらす 。
レニン・アンジオテンシン系の抑制により、交感神経終末からのノルアドレナリン遊離抑制およびアルドステロン分泌抑制も実現される 。さらに、ブラジキニンの不活化抑制作用も有しており、プロスタグランジンE2やプロスタサイクリンの産生促進による血管拡張効果も期待できる 。
本態性高血圧症患者を対象とした臨床試験では、1回経口投与により投与1時間後に降圧効果が発現し、12時間後まで有意な降圧効果が持続することが確認されている 。864例を対象とした集計では、本態性高血圧症で72.7%、腎性高血圧症で85.0%、腎血管性高血圧症で80.0%の有効率を示した 。
通常の用法用量は、成人に対してデラプリル塩酸塩として1日30〜60mgを朝夕の2回に分割経口投与する 。投与開始時は1日15mg(分2)から開始し、最大投与量は1日120mg(分2)とする 。安定した降圧効果が得られた場合には、1日量またはその半量の朝1回投与への変更も可能である 。
血中濃度には7.5〜60mgの範囲内で用量依存性が認められており、適切な用量調節により個々の患者に最適な降圧効果を得ることができる 。腎機能正常患者では蓄積性は認められないが、腎機能障害者では半減期の延長と最高血中濃度の増大が認められるため注意が必要である 。
デラプリル塩酸塩の重大な副作用として、血管浮腫、急性腎障害、高カリウム血症が挙げられる 。血管浮腫は呼吸困難を伴う顔面、舌、声門、喉頭の腫脹を症状とし、発現時は直ちに投与を中止してアドレナリン注射、気道確保などの適切な処置が必要である 。
参考)https://www.qlife.jp/meds/rx43307.html
急性腎障害のリスクは特に両側性腎動脈狭窄患者や片腎で腎動脈狭窄のある患者で高く、腎血流量の減少や糸球体ろ過圧の低下により急速に腎機能を悪化させる可能性がある 。血清クレアチニン値が3mg/dL以上の患者では投与量を減らすか投与間隔を延長する必要がある 。
高カリウム血症は0.1%未満の頻度で発現するが、カリウム保持性利尿剤やカリウム補給剤との併用時にはリスクが増加する 。腎機能障害やコントロール不良の糖尿病患者では血清カリウム値が高くなりやすいため、定期的な血清カリウム値の監視が重要である 。
デラプリル塩酸塩には複数の併用禁忌薬剤が設定されている 。デキストラン硫酸固定化セルロースなどを用いた吸着器によるアフェレーシスや、アクリロニトリルメタリルスルホン酸ナトリウム膜(AN69)を用いた血液透析施行中の患者では、ブラジキニンの蓄積によりショックやアナフィラキシーを起こすリスクがある 。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000266452.pdf
アリスキレンフマル酸塩との併用は糖尿病患者で禁忌とされており、非致死性脳卒中、腎機能障害、高カリウム血症および低血圧のリスク増加が報告されている 。サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物との併用では血管浮腫のリスクが増加するため、36時間以上の休薬期間が必要である 。
併用注意薬剤として、カリウム保持性利尿剤やカリウム補給剤は高カリウム血症のリスクを増加させる 。利尿降圧剤で治療中の患者では降圧作用が増強される可能性があるため、少量から開始し慎重に投与する必要がある 。NSAIDsとの併用では降圧作用の減弱や腎機能悪化のリスクがあるため注意を要する 。
デラプリル塩酸塩を含むACE阻害薬は、単なる降圧効果を超えた臓器保護作用を有している 。特に腎保護作用については、糸球体内圧の低下により糸球体硬化の進行を抑制し、慢性腎疾患(CKD)の進展阻止に寄与する 。
参考)https://kanri.nkdesk.com/drags/arb.php
ACE阻害薬投与時に血清クレアチニン値が上昇することがあるが、前値から30%未満の上昇であれば継続投与が推奨されている 。これは一時的な腎機能指標の悪化であり、長期的な腎保護効果を期待して継続される場合が多い 。
参考)https://jsn.or.jp/jsn_new/news/CKD-kouketsuatsu.pdf
心保護作用も重要な特徴の一つであり、心筋リモデリングの抑制や心不全の進行予防に効果を発揮する 。特に左室肥大を有する高血圧患者では、血圧低下とともに心肥大の改善も期待できる 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/34a2efb50a614cf9f01fd29c1b25045fe5198bda
妊娠可能な女性患者への投与時は特に注意が必要であり、妊娠初期から中期にかけての投与により胎児奇形や羊水過少症のリスクが報告されている 。投与前の妊娠確認および定期的なフォローアップが必須である 。