第一三共のアヘンチンキ販売中止は、2024年に複数の医療機関で報告され、諸般の事情により実施されました。武田薬品工業も2023年12月14日にアヘンチンキを含むあへん系麻薬製剤4成分5品目の販売中止を発表しています。
参考)https://pnb.jiho.jp/article/233648
販売中止となった背景には、主に以下の要因が挙げられます。
第一三共のアヘンチンキ「第一三共」(包装:25mL×1瓶、薬価:193.2円/mL)は、劇薬・麻薬・処方箋医薬品として管理されていましたが、現在は医療用医薬品供給状況データベース(DSJP)で販売中止が確認されています。
参考)https://drugshortage.jp/itemdata.php?itemid=4987123151962
アヘンチンキは、ケシ(Papaver somniferum Linne)から得られるアヘンを10%含有するアルコール製剤です。主成分であるモルヒネをはじめとするアルカロイドにより、以下の薬理作用を示します:
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00058363
主要な薬理学的特性: 📊
従来の臨床適応:
アヘンチンキの特徴は、エタノールを含有しているため、ジスルフィラム(ノックビン)やナルメフェン塩酸塩水和物(セリンクロ)との併用禁忌があることです。また、中枢神経抑制剤との相互作用により、呼吸抑制や昏睡のリスクが高まる可能性があります。
第一三共のアヘンチンキ販売中止は、複数の医療機関で薬事委員会での削除決定薬剤として報告されています。富山県立中央病院では2025年1月の薬事委員会で「アヘンチンキ『第一三共』販売中止」として記録され、御前崎総合病院でも2024年8月の薬事委員会で削除決定薬剤として扱われています。
参考)https://omaezaki-hospital.jp/-/wp-content/uploads/2018/03/ee3bb193ffb3d6cf3c7ee08ae2a73a46.pdf
医療機関での実際の対応: 🏥
横浜旭中央総合病院の事例では、2025年1月期限の在庫終了次第で採用中止となることが報告されており、計画的な移行が実施されています。医療機関では、アヘンチンキの使用頻度が比較的低いことから、代替薬への移行は比較的スムーズに進んでいる状況です。
参考)https://imsgroup.jp/yokohama-asahi/wp-content/uploads/2024/07/pharmacy_yakuzai_202407.pdf
ただし、長期間アヘンチンキを使用していた患者においては、代替薬への切り替えに際して薬効や副作用プロファイルの違いを慎重に検討する必要があります。
アヘンチンキの販売中止に伴い、医療従事者は適切な代替薬の選択を迫られています。代替薬選択においては、患者の病態、使用目的、薬物相互作用を総合的に評価することが重要です。
下痢症状管理における代替選択肢: 💊
疼痛管理における代替選択肢:
代替薬選択では、アヘンチンキのエタノール含有という特性が失われるため、アルコール感受性のある患者では問題となりませんが、一方でエタノールによる溶解性や吸収特性の違いを考慮する必要があります。
また、アヘンチンキが麻薬指定薬品であることから、代替薬の中には麻薬指定されていない薬剤もあり、管理体制の見直しも必要となります。
アヘンチンキの販売中止は、日本の医療用麻薬供給体制における構造的な課題を浮き彫りにしています。この事例は単独の薬剤の問題にとどまらず、医療用麻薬全体の安定供給に関わる重要な示唆を含んでいます。
供給体制の構造的課題: ⚡
医療用麻薬の製造は、麻薬及び向精神薬取締法により厳格に規制されており、製造免許を持つメーカーが限られています。第一三共と武田薬品という2つの主要メーカーが同時期にアヘンチンキの販売中止を決定したことは、この供給体制の脆弱性を示しています。
さらに、アヘンチンキのような伝統的な麻薬製剤は、現代の医療においては使用頻度が減少傾向にあります。がん疼痛管理においては、より使いやすく副作用プロファイルが改善された新しいオピオイド製剤が普及しているため、アヘンチンキの臨床的位置づけは限定的になっています。
今後の医療現場への提言: 🎯
医療機関においては、このような販売中止事例を受けて、重要薬剤のリスク管理体制を強化し、複数の代替選択肢を常に準備しておくことが求められます。また、薬事委員会の機能を強化し、供給不安定薬剤の早期発見と対応策の検討を継続的に行うことが重要です。