アヘンチンキ販売中止と第一三共における代替薬対応

第一三共のアヘンチンキ販売中止の経緯と医療現場への影響を詳しく解説。武田薬品も同様に販売中止した理由、代替薬選択の基準、医療従事者が知るべき対応策について医療実務の観点から考察します。この販売中止により医療現場にどのような変化が起きているのでしょうか?

アヘンチンキ販売中止と第一三共対応

アヘンチンキ販売中止の全体像
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販売中止の実態

第一三共と武田薬品の両社がアヘンチンキの販売中止を決定し、医療現場に大きな影響を与えている

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代替薬選択

代替薬の選択基準と医療従事者が検討すべき治療選択肢について詳細に検討

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医療現場への対応

販売中止に伴う医療機関での薬事委員会の対応と実務上の課題

アヘンチンキの販売中止決定の背景

第一三共のアヘンチンキ販売中止は、2024年に複数の医療機関で報告され、諸般の事情により実施されました。武田薬品工業も2023年12月14日にアヘンチンキを含むあへん系麻薬製剤4成分5品目の販売中止を発表しています。
参考)https://pnb.jiho.jp/article/233648

 

販売中止となった背景には、主に以下の要因が挙げられます。

  • 製造技術の問題や品質管理の困難さ
  • 原材料調達上のトラブル
  • 需要の減少と採算性の悪化
  • 規制当局による品質基準の変更

第一三共のアヘンチンキ「第一三共」(包装:25mL×1瓶、薬価:193.2円/mL)は、劇薬・麻薬・処方箋医薬品として管理されていましたが、現在は医療用医薬品供給状況データベース(DSJP)で販売中止が確認されています。
参考)https://drugshortage.jp/itemdata.php?itemid=4987123151962

 

アヘンチンキ薬理学的特性と臨床応用

アヘンチンキは、ケシ(Papaver somniferum Linne)から得られるアヘンを10%含有するアルコール製剤です。主成分であるモルヒネをはじめとするアルカロイドにより、以下の薬理作用を示します:
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00058363

 

主要な薬理学的特性: 📊

  • 強力な鎮痛作用(μオピオイド受容体への結合)
  • 消化管運動抑制作用(腸管蠕動の抑制)
  • 咳嗽中枢抑制作用
  • 呼吸抑制作用(副作用として注意が必要)

従来の臨床適応:

  • 重度の下痢症状の改善
  • がん性疼痛における疼痛管理の補助
  • 消化管手術後の腸管運動調整

アヘンチンキの特徴は、エタノールを含有しているため、ジスルフィラム(ノックビン)やナルメフェン塩酸塩水和物(セリンクロ)との併用禁忌があることです。また、中枢神経抑制剤との相互作用により、呼吸抑制や昏睡のリスクが高まる可能性があります。

第一三共における販売中止の実際の影響

第一三共のアヘンチンキ販売中止は、複数の医療機関で薬事委員会での削除決定薬剤として報告されています。富山県立中央病院では2025年1月の薬事委員会で「アヘンチンキ『第一三共』販売中止」として記録され、御前崎総合病院でも2024年8月の薬事委員会で削除決定薬剤として扱われています。
参考)https://omaezaki-hospital.jp/-/wp-content/uploads/2018/03/ee3bb193ffb3d6cf3c7ee08ae2a73a46.pdf

 

医療機関での実際の対応: 🏥

  • 薬事委員会での削除決定の実施
  • 在庫の適切な消尽管理
  • 代替薬への切り替え検討
  • 医師への情報提供と処方変更の依頼

横浜旭中央総合病院の事例では、2025年1月期限の在庫終了次第で採用中止となることが報告されており、計画的な移行が実施されています。医療機関では、アヘンチンキの使用頻度が比較的低いことから、代替薬への移行は比較的スムーズに進んでいる状況です。
参考)https://imsgroup.jp/yokohama-asahi/wp-content/uploads/2024/07/pharmacy_yakuzai_202407.pdf

 

ただし、長期間アヘンチンキを使用していた患者においては、代替薬への切り替えに際して薬効や副作用プロファイルの違いを慎重に検討する必要があります。

 

アヘンチンキ代替薬選択における実務的考慮点

アヘンチンキの販売中止に伴い、医療従事者は適切な代替薬の選択を迫られています。代替薬選択においては、患者の病態、使用目的、薬物相互作用を総合的に評価することが重要です。

 

下痢症状管理における代替選択肢: 💊

  • ロペラミド塩酸塩(イモディウム):末梢性オピオイド受容体作動薬
  • タンニン酸アルブミン(タンナルビン):収斂作用による止瀉効果
  • ビスマス系製剤:抗菌作用と保護作用

疼痛管理における代替選択肢:

  • 他のオピオイド系鎮痛薬(モルヒネ硫酸塩、オキシコドン)
  • トラマドール塩酸塩:軽度から中等度疼痛
  • 非オピオイド系鎮痛薬との併用療法

代替薬選択では、アヘンチンキのエタノール含有という特性が失われるため、アルコール感受性のある患者では問題となりませんが、一方でエタノールによる溶解性や吸収特性の違いを考慮する必要があります。

 

また、アヘンチンキが麻薬指定薬品であることから、代替薬の中には麻薬指定されていない薬剤もあり、管理体制の見直しも必要となります。

 

アヘンチンキ販売中止が示唆する医療用麻薬供給体制の課題

アヘンチンキの販売中止は、日本の医療用麻薬供給体制における構造的な課題を浮き彫りにしています。この事例は単独の薬剤の問題にとどまらず、医療用麻薬全体の安定供給に関わる重要な示唆を含んでいます。

 

供給体制の構造的課題:

  • 製造メーカーの限定性(寡占状態)
  • 麻薬製造免許の特殊性による参入障壁
  • 原材料(アヘン)の国際的供給不安定性
  • 需要予測の困難さと在庫管理の複雑性

医療用麻薬の製造は、麻薬及び向精神薬取締法により厳格に規制されており、製造免許を持つメーカーが限られています。第一三共と武田薬品という2つの主要メーカーが同時期にアヘンチンキの販売中止を決定したことは、この供給体制の脆弱性を示しています。

 

さらに、アヘンチンキのような伝統的な麻薬製剤は、現代の医療においては使用頻度が減少傾向にあります。がん疼痛管理においては、より使いやすく副作用プロファイルが改善された新しいオピオイド製剤が普及しているため、アヘンチンキの臨床的位置づけは限定的になっています。

 

今後の医療現場への提言: 🎯

  • 代替薬の事前準備と在庫確保
  • 医療従事者への継続的な教育・研修
  • 患者・家族への適切な情報提供
  • 麻薬管理体制の見直しと最適化

医療機関においては、このような販売中止事例を受けて、重要薬剤のリスク管理体制を強化し、複数の代替選択肢を常に準備しておくことが求められます。また、薬事委員会の機能を強化し、供給不安定薬剤の早期発見と対応策の検討を継続的に行うことが重要です。