タンニン酸アルブミンは、タンニン酸とアルブミン(乳性カゼイン)を結合させ、加熱硬化処理を施した特殊な製剤です。この製剤設計により、口腔や胃では分解されず、腸管に到達してから初めて膵液によって徐々に分解し、タンニン酸を遊離します。
この独特な放出機構により、全腸管にわたって緩和な収斂作用を発揮し、以下の多面的な効果を示します。
粘膜保護作用:腸粘膜表面に保護膜を形成し、炎症を起こしている粘膜を物理的に保護します。これにより外部刺激(腸内容物、病原体など)から粘膜を守り、炎症による下痢症状の緩和につながります。
腸蠕動運動の抑制:形成された凝固膜が腸粘膜を覆うことで、過剰な腸蠕動運動を抑制します。これにより便の腸内通過時間が延長され、水分吸収が促進されて便が固形化されます。
腸液分泌の抑制:炎症や刺激によって過剰になった腸液分泌を抑制し、便の水分量を減少させます。
軽度の防腐作用:タンニン酸の抗菌作用により、腸内容物の異常発酵を抑制し、腸内環境の改善に寄与します。
膵液による分解後、タンニン酸は更に加水分解を受けて没食子酸とブドウ糖になり吸収されるため、全身への影響は限定的です。
タンニン酸アルブミンの主要な適応症は下痢症ですが、その効果は下痢の原因によって異なります。
急性下痢症:食中毒、消化不良、冷え、ストレスなど様々な原因による急性下痢に対して効果を発揮します。特に腸粘膜の炎症や過敏性が原因の下痢に対して、収斂・保護作用が有効です。
慢性下痢症:過敏性腸症候群などで見られる慢性的な下痢症状に対しても使用されますが、主に下痢症状の緩和に重点が置かれます。
消化不良による下痢:食べ過ぎ、飲み過ぎ、消化の悪い食品摂取後の下痢に対して、腸の負担軽減と正常な消化吸収機能の回復を助けます。
軽度の食あたり:細菌やウイルスによる軽度な食あたりによる下痢にも適用されますが、重度の場合や原因菌が明確な場合は抗菌薬など他の治療が優先されます。
ただし、タンニン酸アルブミンは対症療法薬であり、下痢の根本原因を治療するものではありません。そのため、症状が持続する場合や重篤な症状を伴う場合は、原因の特定と適切な治療が必要です。
用法・用量は、タンニン酸アルブミンとして通常成人1日3~4gを3~4回に分割経口投与し、年齢・症状により適宜増減します。
タンニン酸アルブミンは比較的安全性の高い薬剤とされていますが、いくつかの副作用が報告されています。
頻度の高い副作用。
皮膚症状。
重大な副作用。
これらの副作用は通常、服用中止や用量調整により改善しますが、重篤な症状が現れた場合は直ちに医療機関での対応が必要です。
特に牛乳アレルギーのある患者では、本剤の成分である乳性カゼインによりショックやアナフィラキシーを起こす可能性があるため禁忌とされています。
タンニン酸アルブミンには重要な禁忌事項と注意すべき相互作用があります。
禁忌事項。
併用禁忌。
経口鉄剤(フェロミア、フェロ・グラデュメット、インクレミンシロップ、フェルムカプセル)との併用は避けるべきです。タンニン酸が鉄と結合してタンニン酸鉄を形成し、タンニン酸の収斂作用が減弱するためです。
併用注意。
ロペラミド塩酸塩との併用時は投与間隔をあけることが推奨されます。タンニン酸アルブミンがロペラミド塩酸塩を吸着し、効果を減弱させる可能性があるためです。
特定患者への注意。
調剤時の注意として、抱水クロラールやヨウ化物との混合により湿潤するため避ける必要があります。
医療従事者がタンニン酸アルブミンを適正に使用するためには、以下の実践的ポイントを理解することが重要です。
下痢の鑑別診断の重要性。
タンニン酸アルブミンの投与前に、下痢の原因を適切に評価することが不可欠です。「経験したことがないような激しい下痢」「血便」「発熱・嘔吐を伴う」「排便後も腹痛が続く」「同じ食品を摂取した他者も下痢」「症状の改善なし・悪化」「脱水症状」などの場合は、薬物治療よりも原因究明と根本治療を優先すべきです。
長期使用の回避。
症状改善後は速やかに投与を中止することが原則です。漫然とした長期投与は、原因不明の下痢を見逃すリスクや重度便秘のリスクを高めます。また、理論的にはミネラル吸収への軽微な影響も考えられるため、必要最小限の使用期間に留めるべきです。
患者教育の重要性。
患者に対して「下痢を薬で止めてはいけない」という誤った情報に惑わされないよう、適切な教育を行うことが重要です。感染性下痢など特定の状況を除き、下痢による体力消耗や脱水を防ぐため、適切な薬物治療は必要であることを説明すべきです。
モニタリングポイント。
投与開始後は便秘の発現に注意し、特に高齢者や便秘傾向のある患者では慎重な観察が必要です。長期投与が必要な場合は、定期的な肝機能検査の実施を検討すべきです。
保存・取扱い上の注意。
開封後は遮光保存し、室温で3年間の安定性が確保されています。調剤時は他の薬剤との配合変化に注意が必要です。
医療従事者は、タンニン酸アルブミンが対症療法薬であることを常に念頭に置き、根本的な原因治療と併用することで、患者の安全で効果的な治療を実現できます。
日本消化器病学会による下痢症診療ガイドラインの詳細情報
https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/diarrhea.html
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)による添付文書情報
https://www.pmda.go.jp/