アモバルビタール販売中止の経緯と医療現場への影響を解説

アモバルビタール(イソミタール原末)が2024年3月で販売中止となった経緯や代替療法について医療従事者向けに詳しく解説します。バルビツール系薬剤の現状をご存知ですか?

アモバルビタール販売中止

アモバルビタール販売中止の概要
⚠️
2024年3月31日完全販売終了

イソミタール原末として長年使用されてきたアモバルビタールが経過措置期間満了により完全販売中止

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医療現場への大きな影響

1950年から74年間使用されてきた中間型バルビツール系催眠鎮静剤が入手不可能に

💊
代替薬への切り替え必要

ペントバルビタールやベンゾジアゼピン系薬剤への治療方針変更が急務

アモバルビタールの歴史と販売中止に至る経緯

アモバルビタール(商品名:イソミタール原末)は1923年にShonleらによって合成され、アメリカのLilly社よりAmytalとして発売された。日本では1950年2月より発売開始され、74年間という長期にわたり医療現場で使用されてきた中間型バルビツール系催眠鎮静剤である。
参考)https://www.shirasagi-hp.or.jp/goda/fmly/pdf/files/694.pdf

 

販売中止の経緯について詳しく見ると、2022年10月に供給停止が発表され、在庫がなくなり次第販売中止となることが通知された。経過措置期間満了日は2024年3月31日と設定され、この日をもって完全に販売終了となった。
参考)https://www.ygken.com/2023/03/blog-post_7.html

 

販売中止の主な理由:

  • 安全性への懸念の高まり 💊
  • 依存性リスクの問題
  • より安全な代替薬の普及
  • バルビツール系薬剤全般への医療界からの懸念

アモバルビタールは服用後約30分で入眠し、4〜6時間の熟眠が得られる特徴を持つ。しかし、バルビツール酸誘導体であることから、長期使用により耐性や依存性の形成リスクがあるため、頓服的な使用が推奨されていた。

アモバルビタール薬理学的特性と医療用途

アモバルビタールは中間型バルビツール系薬剤として分類され、短時間型のペントバルビタール(ラボナ)との構造的な違いはメチル基の位置のみである。臨床力価にはほぼ差がないとされているが、中間型であるため短時間型よりは耐性がつきにくいとされていた。
薬理学的特性:

  • 催眠鎮静作用を有するバルビツール酸誘導体
  • 中枢神経系のGABA受容体に作用
  • REM睡眠を減少させ、自然睡眠とは異なる睡眠パターンを誘発
  • ハイドロキシアモバルビタールに代謝される
  • 尿中未変化体排泄率が低い特徴

適応症と用法用量:

  • 不眠症:100〜300mg(就寝前)
  • 不安緊張状態:100〜200mg(1日2回分割投与)

透析患者や保存期慢性腎臓病患者に対しては、治療上やむを得ない場合のみの使用とされており、尿中未変化体排泄率が低いため減量の必要がないとされていた。

アモバルビタール依存性リスクと安全性上の問題点

アモバルビタールを含むバルビツール系薬剤は、現在の医療において最も懸念される問題の一つが依存性である。同様にベゲタミンが2016年12月に販売中止となった背景にも、バルビツール系薬剤(フェノバルビタール)の強い依存性が関与している。
参考)https://www.shinagawa-mental.com/othercolumn/62253/

 

依存性の特徴:

  • 身体的依存:薬物がない状態で離脱症状が出現 ⚠️
  • 精神的依存:薬物への強い渇望
  • 耐性形成:同じ効果を得るために増量が必要
  • 交差耐性:他のバルビツール系薬剤にも耐性形成

致死性の問題:
アモバルビタールは比較的少ない量でも致死量に達する可能性があり、特にアルコールや他の中枢神経抑制薬との併用時にリスクが増大する。この特性により、自殺企図に用いられる懸念もあった。
離脱症状:

  • 不眠、不安
  • 震え、発汗
  • 痙攣発作(重篤な場合)
  • 意識障害

これらの安全性上の問題から、日本精神神経学会などの専門団体からも、バルビツール系薬剤の使用に対する慎重な対応が求められていた。

アモバルビタール代替療法選択肢と切り替え指針

アモバルビタール販売中止に伴い、医療現場では代替療法への切り替えが必要となっている。選択肢として以下の薬剤群が考慮される。

 

第一選択薬剤:

  • ベンゾジアゼピン系薬剤 💊
  • ロラゼパム(ワイパックス)
  • ブロチゾラム(レンドルミン)
  • トリアゾラム(ハルシオン)

第二選択薬剤:

  • 非ベンゾジアゼピン系薬剤
  • ゾルピデム(マイスリー)
  • ゾピクロン(アモバン
  • エスゾピクロン(ルネスタ)

特殊な状況での選択肢:

  • ペントバルビタール(ラボナ錠50mg)
  • 短時間型バルビツール
  • アモバルビタールに最も近い薬理作用
  • 同様の依存性リスクあり

切り替え時の注意点:

  1. 段階的減量 - 急激な中止は離脱症状のリスク ⚠️
  2. 交差耐性の考慮 - バルビツール系からベンゾジアゼピン系への切り替え時
  3. 個別化医療 - 患者の症状や病態に応じた選択
  4. 定期的なモニタリング - 効果と副作用の評価

アモバルビタール販売中止が実験動物医学分野に与える特殊影響

アモバルビタール販売中止の影響は、臨床医療のみならず実験動物医学分野にも及んでいる。この分野では、バルビツール系薬剤が実験動物の安楽死処置に使用されてきた歴史がある。
参考)https://www.nichidokyo.or.jp/pdf/labio21/barubi.pdf

 

実験動物医学への影響:

  • ペントバルビタール(PB)製剤の相次ぐ販売終了
  • 2007年:ネンブタール販売終了
  • 2019年:ソムノペンチル(動物用医薬品)販売終了
  • 2023年:セコバルビタール注射液(アイオナール)販売中止

    参考)https://airimaq.kyushu-u.ac.jp/animal/anesthetic/

     

  • 医薬品グレードPBの入手困難 🔬

    現在、国内で医薬品グレードのペントバルビタールを入手することが困難となっており、実験動物の安楽死処置に代替手法の検討が必要となっている。

薬機法による管理の厳格化:
バルビツール酸誘導体の医薬品は全て薬機法で習慣性医薬品として管理され、向精神薬に分類される薬剤もあるため、適切な管理体制が求められている。
代替手法の検討:

  • 他の薬理学的手法
  • 物理的手法との組み合わせ
  • 新しい安楽死薬の開発

この状況は、動物実験を行う研究機関にとって重要な課題となっており、実験動物の福祉と研究の継続性の両立が求められている。

 

アモバルビタール販売中止は、単なる一薬剤の市場撤退にとどまらず、バルビツール系薬剤全体の医療現場からの退場を象徴する出来事といえる。医療従事者は、より安全で効果的な代替療法への移行を進めながら、患者の症状管理を継続していく必要がある。依存性や安全性の観点から、現代医療においてはベンゾジアゼピン系薬剤や非ベンゾジアゼピン系薬剤が主流となっており、これらの適切な使用法の習得が重要である。

 

イソミタール原末の詳細な薬剤情報と代謝経路について
アモバルビタール販売中止の経緯と代替薬選択の実践的指針