アモバルビタール(商品名:イソミタール原末)は1923年にShonleらによって合成され、アメリカのLilly社よりAmytalとして発売された。日本では1950年2月より発売開始され、74年間という長期にわたり医療現場で使用されてきた中間型バルビツール系催眠鎮静剤である。
参考)https://www.shirasagi-hp.or.jp/goda/fmly/pdf/files/694.pdf
販売中止の経緯について詳しく見ると、2022年10月に供給停止が発表され、在庫がなくなり次第販売中止となることが通知された。経過措置期間満了日は2024年3月31日と設定され、この日をもって完全に販売終了となった。
参考)https://www.ygken.com/2023/03/blog-post_7.html
販売中止の主な理由:
アモバルビタールは服用後約30分で入眠し、4〜6時間の熟眠が得られる特徴を持つ。しかし、バルビツール酸誘導体であることから、長期使用により耐性や依存性の形成リスクがあるため、頓服的な使用が推奨されていた。
アモバルビタールは中間型バルビツール系薬剤として分類され、短時間型のペントバルビタール(ラボナ)との構造的な違いはメチル基の位置のみである。臨床力価にはほぼ差がないとされているが、中間型であるため短時間型よりは耐性がつきにくいとされていた。
薬理学的特性:
適応症と用法用量:
透析患者や保存期慢性腎臓病患者に対しては、治療上やむを得ない場合のみの使用とされており、尿中未変化体排泄率が低いため減量の必要がないとされていた。
アモバルビタールを含むバルビツール系薬剤は、現在の医療において最も懸念される問題の一つが依存性である。同様にベゲタミンが2016年12月に販売中止となった背景にも、バルビツール系薬剤(フェノバルビタール)の強い依存性が関与している。
参考)https://www.shinagawa-mental.com/othercolumn/62253/
依存性の特徴:
致死性の問題:
アモバルビタールは比較的少ない量でも致死量に達する可能性があり、特にアルコールや他の中枢神経抑制薬との併用時にリスクが増大する。この特性により、自殺企図に用いられる懸念もあった。
離脱症状:
これらの安全性上の問題から、日本精神神経学会などの専門団体からも、バルビツール系薬剤の使用に対する慎重な対応が求められていた。
アモバルビタール販売中止に伴い、医療現場では代替療法への切り替えが必要となっている。選択肢として以下の薬剤群が考慮される。
第一選択薬剤:
第二選択薬剤:
特殊な状況での選択肢:
切り替え時の注意点:
アモバルビタール販売中止の影響は、臨床医療のみならず実験動物医学分野にも及んでいる。この分野では、バルビツール系薬剤が実験動物の安楽死処置に使用されてきた歴史がある。
参考)https://www.nichidokyo.or.jp/pdf/labio21/barubi.pdf
実験動物医学への影響:
参考)https://airimaq.kyushu-u.ac.jp/animal/anesthetic/
現在、国内で医薬品グレードのペントバルビタールを入手することが困難となっており、実験動物の安楽死処置に代替手法の検討が必要となっている。
薬機法による管理の厳格化:
バルビツール酸誘導体の医薬品は全て薬機法で習慣性医薬品として管理され、向精神薬に分類される薬剤もあるため、適切な管理体制が求められている。
代替手法の検討:
この状況は、動物実験を行う研究機関にとって重要な課題となっており、実験動物の福祉と研究の継続性の両立が求められている。
アモバルビタール販売中止は、単なる一薬剤の市場撤退にとどまらず、バルビツール系薬剤全体の医療現場からの退場を象徴する出来事といえる。医療従事者は、より安全で効果的な代替療法への移行を進めながら、患者の症状管理を継続していく必要がある。依存性や安全性の観点から、現代医療においてはベンゾジアゼピン系薬剤や非ベンゾジアゼピン系薬剤が主流となっており、これらの適切な使用法の習得が重要である。