RSウイルスワクチン いつから接種開始で予防効果が得られるか

RSウイルスワクチンは、高齢者向け、妊婦向け、乳幼児向けと種類があり、それぞれ接種開始時期が異なります。各ワクチンの特徴と接種時期、有効性について詳しく解説します。あなたやご家族はいつ接種するべきでしょうか?

RSウイルスワクチン いつからの接種が可能か

RSウイルスワクチンの種類と接種時期
💉
高齢者向け「アレックスビー」

2024年1月15日から接種開始。60歳以上が対象

🤰
妊婦向け「アブリスボ」

2024年6月1日から接種開始。妊娠24〜36週が対象

👶
乳幼児向け「シナジス」

2024年4月3日から接種開始。特定条件の乳幼児が対象

RSウイルスワクチン「アレックスビー」は2024年1月から高齢者接種開始

RSウイルス感染症を予防するワクチン「アレックスビー筋注用」は、2024年1月15日に日本で発売が開始されました。このワクチンは、60歳以上の成人を対象とするRSウイルス感染症予防ワクチンとして2023年9月25日に日本で初めて製造販売承認を取得しています。

 

アレックスビーは、アジュバント添加RSウイルスワクチンであり、膜融合前型で安定化された遺伝子組換えRSウイルスF糖タンパク質(RSVPreF3)抗原を含有しています。この抗原には、GSK独自のAS01Eアジュバントを組み合わせており、有効性を高めています。

 

接種方法は、60歳以上に1回、0.5mLを筋肉内接種します。価格は医療機関によって異なりますが、約26,000円〜27,000円(税込)となっています。

 

臨床試験の結果では、60歳以上の方に対するRSウイルス下気道疾患に対する有効性は82.6%と報告されています。特に、慢性閉塞性肺疾患・気管支喘息などの呼吸器疾患、糖尿病、慢性心不全、肝臓や腎臓の慢性疾患などの基礎疾患のある60歳以上の方では有効性が94.6%と非常に高い効果が確認されています。

 

RSウイルス感染症は高齢者にとって重大な脅威となっており、日本では毎年60歳以上の成人で約63,000人の入院と約4,500人の院内死亡が推定されています。特に基礎疾患がある場合、重症化するリスクが高まります。

 

また、実際の診療現場でのデータ(リアルワールドデータ)においても、2023-24年シーズンでのRSウイルス関連の入院に対するワクチンの有効性は80%(95% CI 71-85)であり、臨床試験と同様の高い有効性が確認されています。免疫抑制状態にある患者でも73%(48-85)の有効性が報告されています。

 

RSウイルスワクチン「アブリスボ」は2024年6月から妊婦接種開始

RSウイルスワクチン「アブリスボ筋注用」は、2024年5月31日に発売され、6月1日から妊婦への接種が開始されました。このワクチンは、妊婦への接種によって生まれてくる赤ちゃんをRSウイルス感染症から守ることを目的としています。

 

接種対象は妊娠24週から36週の妊婦さんですが、妊娠28週から36週の間の接種が特に推奨されています。これは、ワクチン接種後約2週間で十分な免疫が形成され、その免疫が胎盤を通じて赤ちゃんに移行するためです。したがって、早すぎる接種や出産直前の接種では十分な効果が得られない可能性があります。

 

ファイザー社が開発したこのワクチンは、「妊婦への能動免疫による新生児及び乳児におけるRSウイルスを原因とする下気道疾患の予防」の適応を2024年1月18日に承認取得しました。

 

臨床試験では、妊婦さんがワクチンを接種することで、生後3か月の赤ちゃんにおける重症のRSウイルス下気道感染の予防効果が約80%、生後6か月で約70%という高い効果が確認されています。また、医療機関を受診する必要がある感染の予防効果は、生後3か月で約57%、生後6か月で約51%でした。

 

接種費用は医療機関によって異なりますが、約33,000円〜35,000円(税込)となっています。接種は1回のみで、0.5mLを筋肉内に注射します。

 

副反応としては、注射部位の痛み・頭痛筋肉痛・および吐き気などが報告されています。これらの副反応は一般的に軽度から中等度であり、通常は数日以内に回復します。

 

なお、このワクチンは、お母さん自身のRSウイルス感染症の予防ではなく、胎盤を通じて赤ちゃんに抗体を移行させ、生まれた後の赤ちゃんをRSウイルス感染症から守ることを目的としています。そのため、妊娠中の適切な時期に接種することが重要です。

 

RSウイルスワクチン「シナジス」は2024年4月から特定乳幼児へ接種開始

RSウイルス感染症の予防注射薬「シナジス」の接種は、令和6年(2024年)4月3日から開始されました。シナジスはRSウイルスに対する抗体で、RSウイルス流行期に1ヶ月に1回を筋肉内注射することによって感染を予防したり重症化を防いだりします。

 

「シナジス」の接種対象となるのは、RSウイルス感染症に罹患した場合に重症化するリスクの高い以下の条件に該当する乳幼児です。

  1. 早産児
    • お母さんのお腹にいた期間が28週以下で、RSウイルス流行開始時に12ヶ月齢以下の赤ちゃん
    • お母さんのお腹にいた期間が29~35週以下で、RSウイルス流行開始時に6ヶ月齢以下の赤ちゃん
  2. 慢性肺疾患を持つ子ども
    • 過去6ヶ月以内に気管支肺異形成症などの呼吸器疾患の治療を受けたことがあり、RSウイルス流行開始時に24ヶ月齢以下の子ども
  3. 先天性心疾患を持つ子ども
    • RSウイルス流行開始時に24ヶ月齢以下の先天性心疾患児で、血行動態(心臓や血流)に異常がある子ども
  4. 免疫不全を伴う子ども
    • RSウイルス流行開始時に24ヶ月齢以下の免疫不全を伴う子ども
  5. ダウン症候群の子ども
    • RSウイルス流行開始時に24ヶ月齢以下のダウン症候群の子ども

シナジスの接種は、毎週水曜日の午後に行われ、全8回接種が必要です。なお、シナジスは全ての乳幼児が対象ではなく、上記の条件に該当する乳幼児のみが接種対象となります。

 

RSウイルスは乳幼児に呼吸器感染症を引き起こす重要な原因ウイルスです。早産の赤ちゃん、心疾患や呼吸器疾患を持った赤ちゃん、免疫不全の赤ちゃん、ダウン症の赤ちゃんがかかると重症化することがあります。これには有効な治療薬がないため、かからないように予防することが重要です。

 

シナジスの接種を希望する場合は、小児科外来に相談することが推奨されています。シナジスの接種には特定の条件があり、全ての乳幼児が対象ではないことに注意が必要です。

 

RSウイルスワクチンの種類別有効性と対象者の比較

現在、日本で使用可能なRSウイルス関連のワクチンは3種類あり、それぞれ対象者や有効性、接種方法が異なります。以下に、それらの比較をまとめました。

 

ワクチン名 発売開始日 対象者 接種方法 有効性 価格(税込)
アレックスビー 2024年1月15日 60歳以上の成人 1回、0.5mLを筋肉内接種 60歳以上:82.6%基礎疾患ありの60歳以上:94.6% 約26,000〜27,000円
アブリスボ 2024年6月1日 妊娠24〜36週の妊婦(28〜36週推奨) 1回、0.5mLを筋肉内接種 生後3ヶ月の重症感染予防:約80%生後6ヶ月の重症感染予防:約70% 約33,000〜35,000円
シナジス 2024年4月3日 特定条件の乳幼児 RSウイルス流行期に1ヶ月に1回、全8回 データなし データなし

RSウイルスワクチンとインフルエンザワクチンの比較も重要です。以下にそれらの違いをまとめました。

項目 RSウイルスワクチン(アレックスビー) インフルエンザワクチン
接種回数 1回 1回または2回
持続効果 現時点でデータなし 1シーズン
注射方法 筋肉注射 皮下注射
対象年齢 60歳以上 全年齢(生後6か月以上)
接種時の痛み 10%以上 頻度不明であるがあり
副反応 頭痛、筋肉痛、関節痛(10%以上)、発熱(1~10%未満) 特に問題となるものはなし
有効性 60歳以上では82.58%、基礎疾患のある患者では94.61% 高齢者(65歳以上)では発病阻止効果が34~55%、死亡阻止効果が82%
価格 約27,000円(税込) 約3,500円(税込)

特筆すべきは、「アブリスボ」は妊婦自身を守るためだけでなく、生まれてくる赤ちゃんをRSウイルス感染症から守るための「母子免疫ワクチン」である点です。妊婦が接種することで作られた抗体が胎盤を通して赤ちゃんに移行し、生後数ヶ月間保護します。

 

また、「アレックスビー」は、特に基礎疾患を持つ高齢者において非常に高い有効性が示されており、重症化リスクが高い方々にとって重要な予防手段となります。インフルエンザワクチンと比較しても高い有効性が確認されています。

 

RSウイルスワクチン接種のタイミングが免疫形成に与える影響

RSウイルスワクチンの効果を最大限に発揮するためには、適切なタイミングでの接種が極めて重要です。特に妊婦向けの「アブリスボ」と高齢者向けの「アレックスビー」では、接種タイミングが免疫形成に大きな影響を与えることがわかっています。

 

妊婦向けRSウイルスワクチン「アブリスボ」の場合、妊娠24週から36週までの接種が可能ですが、研究データによると、妊娠28週以上32週未満および32週以上36週以下の接種では、24週以上28週未満に接種した場合と比較して、より高い有効性が示されています。これは、ワクチン接種後に母体内で形成された抗体が胎盤を通じて胎児に十分に移行するためには、一定の時間(約2週間以上)が必要であるためです。

 

具体的には、ワクチン接種から抗体形成までに約2週間かかるため、出産予定日から逆算して、少なくとも出産の2週間以上前に接種することが推奨されています。また、早すぎる接種(妊娠24週頃)では、出産時までに抗体価が低下する可能性があるため、妊娠28週〜32週での接種が最も効果的とされています。

 

高齢者向けRSウイルスワクチン「アレックスビー」については、RSウイルスの流行シーズン前の接種が理想的です。日本では近年、RSウイルスの流行時期が変化しており、従来の冬季だけでなく夏季にも流行が見られるようになっています。このため、年間を通じて接種が可能となっていますが、接種から免疫獲得までに約2週間かかることを考慮し、流行期の少なくとも2週間前までに接種することが望ましいでしょう。

 

また、高齢者の場合、免疫応答が若年者と比較して弱まっている可能性がありますが、「アレックスビー」にはGSK独自のAS01Eアジュバントが含まれており、高齢者においても十分な免疫応答を引き出せるよう設計されています。

 

2023-24年シーズンの実際のデータによると、60歳以上の成人におけるRSV関連の入院に対するワクチンの有効性は80%(95% CI 71-85)と高く、免疫抑制状態にある方でも73%(48-85)の有効性が確認されています。これらのデータは、適切なタイミングでのワクチン接種によって高い予防効果が得られることを示しています。

 

インフルエンザワクチンとの違いも重要なポイントです。インフルエンザワクチンは毎年接種が必要ですが、RSウイルスワクチン「アレックスビー」については、複数シーズンにわたる予防効果・免疫原性の評価が継続中であり、現時点では1回の接種による持続効果のデータはまだ明確になっていません。今後の研究結果を注視する必要があります。

 

RSウイルスワクチン『アブリスボ®筋注用』発売に関する詳細情報
RSウイルスワクチンの接種タイミングについては、個人の健康状態や特定のリスク要因によっても異なる場合があります。最適な接種時期については、必ず医療専門家に相談することをお勧めします。特に基礎疾患がある方や免疫不全状態にある方は、個別の状況に応じたアドバイスが必要です。

 

以上の内容をまとめると、RSウイルスワクチンは種類ごとに最適な接種タイミングがあり、それを守ることで免疫形成を最大化し、RSウイルス感染症から効果的に身を守ることができます。妊婦の場合は妊娠28週〜32週、高齢者の場合はRSウイルス流行期の少なくとも2週間前の接種が推奨されます。