アジュバント副作用の種類と発現機序

アジュバントは抗原性補強剤としてワクチンの効果を高める物質ですが、局所反応や免疫関連の副作用も報告されています。医療従事者が知っておくべきアジュバント副作用の実態とその管理方法とは何でしょうか。

アジュバントの副作用

アジュバント副作用の主要ポイント
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局所反応

注射部位の腫脹、硬結、疼痛などが数日間持続することがあり、免疫活性化の一環として発現します

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免疫関連副作用

アレルギー反応や自己免疫疾患様症状の誘発リスクが動物実験で確認されています

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安全性評価

アジュバントの種類と作用機序に応じた適切な安全性管理システムの構築が必要です

アジュバント(Adjuvant)は、ラテン語の「助ける」を意味する'adjuvare'を語源とし、ワクチンと一緒に投与して免疫原性を増強する物質の総称です。アジュバントは80年以上の使用歴を持ち、1920年代にRamonやGlennyが水酸化アルミニウムを用いてジフテリアや破傷風トキソイドの免疫原性を改善したことで重要性が認識されました。現在では、アルミニウム塩アジュバント、スクアレンアジュバント(MF59)、AS04、AS03など多様なアジュバントが臨床応用されています。アジュバントはパターン認識受容体(PRR)を介して自然免疫を活性化し、樹状細胞を中心とした抗原提示細胞の成熟を促進することで、T細胞やB細胞の抗原特異的な活性化を増強します。
参考)https://www.radionikkei.jp/kansenshotoday/__a__/kansenshotoday_pdf/kansenshotoday-140326.pdf

アジュバントによる局所反応の頻度と特徴

 

アジュバントによる副作用として最も頻繁に観察されるのは局所反応です。注射部位における腫脹、硬結、疼痛といった症状が典型的であり、これらは免疫反応を活性化するための作用の一部として発現します。アルミニウム塩アジュバントを使用したワクチンでは、注射局所に肉芽腫が形成されることがあり、オイルアジュバント成分の刺激による炎症性反応の結果として時間とともに消退します。局所反応の多くは通常2~3日程度の短期のもので、重大な有害事象ではありませんが、高齢者においては副反応の症状が全般に減少する傾向があることが報告されています。
参考)https://www.vet.meiji.com/la/poultry/adi/pdf/KADI-No10.pdf

HPVワクチンに関する調査では、アジュバント含有ワクチンの副反応発生率がインフルエンザワクチンと比較して異常に高い発生頻度を示すことが明らかになっています。サーバリックスとガーダシルの副反応発生率は、インフルエンザワクチンを1とした場合、顕著に高い数値を示しており、これはアジュバントの影響が大きいと考えられています。
参考)http://pha.jp/shin-yakugaku/doc/44_1_1-9.pdf

アジュバント誘発性アレルギー反応のメカニズム

アジュバントは強力な免疫惹起効果を保持すると同時に副作用もそれなりに強力なものである可能性があり、実際にヒト接種後での副作用についての報告も出ています。アラムアジュバントは長い間多くのワクチンに用いられてきましたが、IgE抗体を誘導してしまうという副作用がありました。主作用である抗体反応(IgG)と副作用であるアレルギー反応(IgE抗体)はTh2タイプの免疫反応で絶えずパラレルに動くと考えられていたため、IgE誘導とIgG誘導を分けることが困難とされていました。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/131/12/131_12_1721/_pdf/-char/en

大阪大学免疫学フロンティア研究センターの研究では、アラムアジュバント効果に宿主細胞のDNAによる自然免疫が関与することが明らかになり、アレルギー反応(IgE)と主作用である抗体反応(IgG)を区別する免疫シグナルが発見されました。この知見は新たなアジュバント開発に繋がるのみならず、アジュバント副作用軽減への光明となっています。
参考)https://www.ifrec.osaka-u.ac.jp/jpn/research/upload_img/Ken%20Ishii_Nat%20Medicine%20%E8%A7%A3%E8%AA%AC.pdf

近年、TLRアゴニスト(CpGオリゴDNAなど)をアジュバントに用いる臨床試験での副作用が報告されており、これらはターゲットであるTLRの活性化に基づく副作用である可能性があります。
参考)https://www.jsmo.or.jp/news/jsmo/doc/20170222_02.pdf

アジュバント関連自己免疫疾患のリスク

アジュバントはワクチンの毒性、特に免疫毒性の原因や遠因になりえることが知られています。実際の臨床現場でアジュバントが自己免疫を起こすという直接のエビデンスはないとされていますが、動物モデルでは自己抗原とアジュバントを投与することで実験的に自己免疫疾患を誘導することが知られています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000343663.pdf

2011年にイスラエルの免疫学者シェーンフェルド氏が、「湾岸戦争症候群」「マクロファージ筋膜炎」「シリコン樹脂による自己免疫疾患」などをまとめて「アジュバント誘発自己免疫疾患(ASIA)」として提唱しました。日本では2014年6月に難病治療研究振興財団が、HPVワクチン接種後に起こる免疫異常に対して「HPVワクチン関連神経免疫異常(HANS)」を提唱しています。​
HPVワクチンによる重篤な副反応では、アジュバント以外にHPVの抗原そのものに問題があることが推察されており、ガーダシルとB型肝炎ワクチンの副反応発生率の比較研究でもこの可能性が示唆されています。​

アジュバント種類別の副作用プロファイル

アルミニウム塩アジュバントは1932年にジフテリアワクチンに用いられてから、百日咳、破傷風、HPV、肺炎球菌、B型肝炎など多くのワクチンに使用されています。製造方法が確立しており安価で保存性にも優れていることから、現在でも世界中で最も普及しているアジュバントです。DTPワクチンのほぼすべてに含まれており、Hep-A、HPV、炭疽病ワクチンにも含まれています。
参考)https://vaccine-science.ims.u-tokyo.ac.jp/adjuvant/

スクアレンアジュバントのMF59は1997年に欧州でインフルエンザワクチンのアジュバントとして用いられるようになり、日本でも2009年にパンデミックインフルエンザに対するワクチンとして緊急輸入され、特例承認されました。AS04はアルミニウム塩アジュバントの改良型として2価HPVワクチンに含まれており、AS03はスクアレンアジュバントの改良型としてパンデミックインフルエンザに対するワクチンとして特例承認されています。​
混合ワクチンでは、アジュバントは1種類以上の関連抗原に対する反応を改善しますが、ワクチン中の他の抗原に対する免疫応答に臨床的に重大な有害作用をもたらすことがあります。一部の副作用については、がん患者を治療する場合には容認できますが、インフルエンザワクチンを幼児に接種する場合には容認できない場合があり、対象集団に応じた評価が必要です。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2010/104041/201034051A/201034051A0002.pdf

アジュバント副作用の臨床管理と安全性評価

アジュバント安全性評価の最も重要な課題は、科学的根拠に基づいた「高い安全性」を示すことです。次世代のアジュバント開発におけるもっとも重要な点は「安全性」の指標の確立であり、新たなアジュバントの評価方法、指標(バイオマーカー)の構築が日本だけでなく世界中で切望されています。​
2012年4月から厚生労働省科学研究費補助金のサポートの下、医薬基盤研究所を中心として「アジュバントデータベースプロジェクト」が開始されました。このプロジェクトでは各種アジュバントによるヒト細胞や生体レベルでの生物学的反応を総合的に解析したデータベースを構築し、特異性の高い有効性と漏れのない安全性を確保することを目指しています。​
アジュバント作用の実例として、組換え帯状疱疹ワクチンの開発では、水痘帯状疱疹ウイルスに特異的な免疫応答の低下がウイルスの再活性化と帯状疱疹の発現の原因であることから、T細胞応答を増強させることが目標とされました。防御が出来るレベルまで免疫応答を回復させ、細胞性免疫を適切に誘導することで、安全性と有効性のバランスが取れた製剤開発が可能となっています。
参考)https://efpia.jp/link/5_180129_AD_Lecture.pdf

アジュバント含有インフルエンザワクチンは何千万人もの人々に使われ安全であることが示されており、適切な安全性管理の下での使用が重要です。​
医薬基盤研究所によるアジュバント開発とワクチンの安全性に関する詳細解説(PDF)
厚生労働省 医薬基盤・健康・栄養研究所によるワクチン・アジュバント研究センターの意見書(PDF)
東京大学医科学研究所によるアジュバントの基礎知識と臨床応用

 

 


アジュバン(ADJUVANT) Re:シャンプー 300ml