大腸がんの症状と治療方法の最新知見

大腸がんの主な症状と最新の治療法について医療従事者向けに詳しく解説しています。ステージ別の症状の特徴や、手術、放射線治療、薬物療法などの治療選択肢を網羅。あなたは患者さんにどのように説明していますか?

大腸がんの症状と治療方法

大腸がんの基本情報
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発生場所

結腸、直腸、肛門部の粘膜に発生する悪性腫瘍

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罹患率

日本人が最もかかりやすいがんの一つ(女性死亡1位、男性2位)

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早期発見の重要性

早期発見で治癒率が高く、定期的な検診が推奨される

大腸がんの初期症状と進行に伴う変化

大腸がんは初期段階では無症状であることが多く、定期検診の重要性が強調されます。しかしながら、ある程度の大きさに成長すると、いくつかの特徴的な症状が現れ始めます。これらの症状は、がんの発生部位や進行度によって異なります。

 

大腸がんの代表的な症状には以下のものがあります。

  • 血便・肛門出血:最も一般的な症状であり、特に直腸やS状結腸に近い部位のがんで顕著です
  • 便通異常:便秘と下痢を繰り返す状態が見られます
  • 便の狭小化:がんによる腸管の狭窄により、便が細くなります
  • 残便感:排便後も不快感が残る感覚です
  • 腹部腫瘤:進行すると、腹部にしこりとして触知できることがあります
  • 腹痛・腹部膨満感腸閉塞が進むと痛みや膨満感が生じます
  • 貧血・全身倦怠感:慢性的な出血により鉄欠乏性貧血を引き起こすことがあります

発生部位による症状の違いも重要です。直腸やS状結腸に発生するがんは血便や便の狭小化などの症状が早期に現れやすいのに対し、盲腸や上行結腸などの右側結腸がんでは便が液状であること、内径が太いことから症状が現れにくく、発見が遅れる傾向があります。このため、右側結腸がんでは貧血や全身倦怠感などの全身症状から発見されることも少なくありません。

 

進行度合いによる症状の変化も特徴的です。ステージ0では多くの場合無症状であり、ステージ1でも明確な症状がないケースが多いです。しかし、ステージ2・3に進行すると徐々に腸管が悪性腫瘍に侵され、腹痛や便秘、下痢、血便、食欲低下、便通の悪化などの消化機能や排泄に関する症状が顕在化します。さらにステージ4では、転移に伴う臓器特有の症状(肝転移による肝機能障害、肺転移による呼吸器症状、脳転移による神経症状など)が加わります。

 

大腸がんのステージ分類と診断基準

大腸がんの治療方針や予後の判断において、ステージ分類は極めて重要です。日本では大腸癌取扱い規約に基づいたTNM分類が用いられており、がんの壁深達度(T)、リンパ節転移(N)、遠隔転移(M)の組み合わせによって決定されます。

 

ステージ分類の概要

  1. ステージ0:がんが粘膜内にとどまり、リンパ節転移や遠隔転移がない状態です。
  2. ステージⅠ:がんが粘膜下層まで浸潤していますが、リンパ節転移や遠隔転移はありません。
  3. ステージⅡ:がんが腸壁の筋層や漿膜下層、漿膜まで広がっていますが、リンパ節転移や遠隔転移はありません。
  4. ステージⅢ:深達度にかかわらず、リンパ節転移を認める状態です。さらにリンパ節転移の程度により、3a、3b、3cに細分類されます。
  5. ステージⅣ:他の臓器(肝臓、肺、腹膜など)への遠隔転移がある状態です。

診断のプロセス
大腸がんの診断には複数のステップがあります。

  • 便潜血検査:大腸がんスクリーニングの一次検査として広く実施されています。
  • 大腸内視鏡検査:便潜血陽性や症状のある患者に対して行われる主要な診断検査です。
  • 病理組織検査:内視鏡で採取した組織を顕微鏡で観察し、がんの有無や組織型を確定します。
  • CT検査:大腸がんのステージ診断や他臓器への転移の有無を確認するために行われます。
  • MRI検査:特に直腸がんの場合、腫瘍の深達度や周囲臓器との関係を詳細に評価するために実施されます。
  • 腫瘍マーカー検査:CEAやCA19-9などの測定は、治療効果のモニタリングや再発の早期発見に有用です。

診断においては、遺伝的背景(家族性大腸腺腫症や Lynch 症候群など)の評価も重要です。また近年では、便中DNA・RNAマーカーを用いた検査法も研究されており、従来の便潜血検査を補完する新たなスクリーニング手段として期待されています。

 

大腸がんの標準治療:内視鏡と外科手術

大腸がんの治療法は、がんのステージ、部位、患者の全身状態などを考慮して決定されます。標準治療としては、内視鏡治療と外科手術が基本となります。

 

内視鏡治療
内視鏡治療は主に早期大腸がん(ステージ0やステージⅠの一部)に適応されます。

  • 内視鏡的粘膜切除術(EMR):粘膜内または粘膜下層の浅い部分にとどまる小さながんに対して行われます。
  • 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD):より大きな病変や、一括切除が必要な病変に対して選択されます。

内視鏡治療後の病理検査結果によっては、リンパ節転移のリスクが高いと判断された場合に追加の外科手術が必要となることもあります。

 

外科手術
進行した大腸がん(ステージⅠの一部、ステージⅡ、ステージⅢ)に対しては、原則として外科手術が選択されます。

  1. 開腹手術:従来の方法で、腹部に比較的大きな切開を行いがんを摘出します。
  2. 腹腔鏡下手術:小さな穴を数カ所あけ、内視鏡カメラと専用器具を用いて行う低侵襲手術です。
  3. ロボット支援下手術:2021年頃から普及し始めた最新の手術法で、より精密な操作が可能です。

手術の種類は、がんの部位によって異なります。

  • 回盲部切除術:盲腸がんに対して行われます。
  • 結腸右半切除術:上行結腸がんに適応されます。
  • 結腸左半切除術:下行結腸がんに用いられます。
  • S状結腸切除術:S状結腸がんに対して行われます。
  • 直腸切除術(括約筋温存手術):直腸がんで肛門機能を温存できる場合に選択されます。
  • 直腸切断術:肛門に近い直腸がんで、括約筋温存が困難な場合に行われます。

特に肛門に近い直腸がんでは、可能な限り肛門機能を温存する手術(超低位前方切除術、括約筋間直腸切断術など)が検討されます。ICG蛍光法による腸管血流評価など、術後合併症軽減のための工夫も導入されています。

 

ステージⅣの場合でも、転移巣を含めた切除が可能と判断される場合は、積極的に手術が行われることがあります。複数回に分けて手術を行うケースもあります。

 

大腸がんの補助療法:放射線治療と薬物療法

大腸がん治療において、外科手術や内視鏡治療と並んで重要な役割を担うのが放射線治療と薬物療法です。特にステージⅢ・Ⅳの患者や、再発リスクの高い患者に対しては、これらの補助療法が治療成績の向上に大きく貢献しています。

 

放射線治療
大腸がんに対する放射線治療は、主に2つの目的で行われます。

  1. 補助放射線治療
    • 直腸がんに対して、骨盤内の再発を抑える目的で実施されます。
    • 特に切除可能な直腸がんでは、手術前に行う術前照射が一般的です。
    • 多くの場合、薬物療法と併用して行われます(化学放射線療法)。
    • 状況によっては、手術中や手術後に放射線治療が行われることもあります。
  2. 緩和的放射線治療
    • がんによる様々な症状を改善する目的で実施されます。
    • 骨盤内腫瘍による痛みや出血、便通障害の緩和に有効です。
    • 肝臓・肺・脳などへの転移巣に対する局所制御にも用いられます。
    • 脳転移に対しては、転移の個数や大きさに応じて、全脳照射または定位放射線照射が選択されます。
    • 骨転移による痛みや骨折リスクの軽減にも効果的です。

薬物療法
大腸がんの薬物療法には主に以下のものがあります。

  1. 術後補助化学療法
    • リンパ節転移を伴うステージⅢの患者に対して、再発予防目的で行われます。
    • 標準的な投与期間は6ヶ月間です。
    • 再発リスクに応じて、内服薬または点滴による抗がん剤が選択されます。
    • 特に再発率の高いステージ3cの患者には、点滴による抗がん剤治療が推奨されます。
  2. 進行・再発大腸がんに対する薬物療法
    • 切除不能なステージⅣの患者に対しては、生存期間の延長と症状緩和を目的として実施されます。
    • 従来の抗がん剤に加え、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新たな薬剤も使用されています。
    • 個々の患者のがん細胞の遺伝子変異状況(RAS遺伝子変異など)を検査し、最適な薬剤を選択する「個別化医療」が進められています。

薬物療法に伴う副作用管理も重要です。吐き気、下痢、口内炎、末梢神経障害(しびれ)など様々な副作用に対して、予防策や対症療法が講じられています。医師、薬剤師、看護師による「がんサポーティブケアチーム」が連携し、副作用の予防と軽減に取り組むことが推奨されています。

 

大腸がん治療における低侵襲アプローチと高齢者配慮

大腸がん患者の高齢化が進む日本において、治療の低侵襲化と高齢者特有の課題への対応が重要なテーマとなっています。特に日本は世界でも類を見ない超高齢社会であり、大腸がん患者の平均年齢も上昇傾向にあります。

 

低侵襲治療アプローチの進化
近年の大腸がん治療では、患者の術後QOL向上と早期回復を目指した低侵襲手術が主流になりつつあります。

  • 腹腔鏡下手術:従来の開腹手術と比較して、傷が小さく、出血量が少なく、術後の回復も早いため、特に高齢者や併存疾患を持つ患者にとって大きなメリットがあります。
  • ロボット支援下手術:2021年以降日常的に行われるようになった最新の手術法で、三次元高解像度画像と自由度の高い鉗子操作により、より精密な手術が可能になっています。特に狭い骨盤内での直腸がん手術において有用性が高いとされています。
  • 経肛門的内視鏡下マイクロサージェリー(TEM):直腸の限局した早期がんに対して、肛門からアプローチする超低侵襲な手法です。従来の経肛門手術と比較して、より深部の病変に対応可能です。
  • ICG蛍光法:手術中に腸管の血流を可視化することで、縫合不全などの合併症リスクを低減する技術が導入されています。

高齢者大腸がん患者への配慮点
高齢の大腸がん患者に対しては、がんの治療だけでなく、以下のような多面的なアプローチが求められます。

  1. 全身機能評価
    • 暦年齢だけでなく、臓器機能や併存疾患、フレイル状態、認知機能など総合的な評価に基づく治療方針決定が重要です。
    • 高齢者総合機能評価(CGA)を導入することで、個々の患者に最適な治療強度の判断が可能になります。
  2. 手術における配慮
    • 手術時間の短縮や麻酔負担の軽減など、周術期のリスク低減策が重要です。
    • 低侵襲手術の選択や、必要最小限の切除範囲の検討が行われます。
  3. 補助療法の適応判断
    • 高齢者では、標準的な術後補助化学療法が過剰治療となる可能性もあり、期待される予後延長効果と副作用リスクのバランスを慎重に評価します。
    • 投与量や治療スケジュールの調整、サポート体制の強化が必要となることもあります。
  4. 排便機能への配慮
    • 高齢者では術後の排便機能回復が遅延することもあり、特に直腸がん手術後の排便管理には細心の注意が必要です。
    • 骨盤底筋訓練指導や適切な排便コントロール薬の使用など、排便機能回復の支援が重要となります。
  5. サルコペニア対策
    • 高齢がん患者ではサルコペニア(筋肉量減少と筋力低下)の有病率が高く、術後合併症リスク増加や生存率低下との関連が示されています。
    • 術前からのリハビリテーション介入(プレハビリテーション)や栄養サポートが推奨されます。

高齢者大腸がん治療においては、治療の根治性だけでなく、治療後のQOL維持や社会復帰も重視した意思決定支援が求められます。治療前からの多職種によるチームアプローチと、継続的なサポート体制の構築が不可欠です。

 

大腸がん治療の進化と高齢化社会の進展を踏まえると、今後はさらに個別化された低侵襲な治療アプローチの開発と、高齢者に特化した治療プログラムの確立が期待されます。

 

高齢者の大腸がん治療に関する日本消化器内視鏡学会ガイドライン