アブリスボ(ABRYSVO)は、RSウイルス(RSV)感染症の予防を目的とした組換えワクチンで、特に妊婦への接種により新生児・乳児の重症RSウイルス感染症を予防する効果が認められています。
国際共同第Ⅲ相試験(MATISSE試験)では、妊婦にアブリスボを接種することで、生後90日以内の乳児における重症下気道疾患(LRTI)のリスクが81.8%減少、生後180日以内では69.4%減少と、非常に高い予防効果が示されました[1][2][3][4]。
また、RSウイルスによる下気道疾患全体の発症率も、生後90日で57.1%減少、生後180日で51.3%減少しています[1][3][5][4]。
妊婦への接種時期は妊娠24週~36週(推奨は28~36週)で、0.5mLを1回筋肉注射します[6][3][5][7]。母体で産生された抗体が胎盤を通じて胎児に移行し、生後6か月までの乳児をRSウイルスから守ります[6][3][8][5]。
アブリスボの主な副作用は、他のワクチンと同様に軽度~中等度が大部分を占めます。
・注射部位の痛み(約41%)
・発赤(7%)、腫れ(6%)
・頭痛(31%)、筋肉痛(27%)
・倦怠感(46%)、発熱(3%)、悪心(20%)、関節痛(12%)、下痢(11%)
これらの副反応は多くが一過性で、数日以内に自然消失することが一般的です[1][6][3][5][7]。
重篤な副反応(ショック、アナフィラキシー)は極めて稀ですが、接種後は一定時間観察が推奨されます[3][7]。
妊婦への接種による早産や新生児奇形のリスク増加は、臨床試験・コホート研究で認められていません。新生児集中治療室(NICU)入院率や新生児黄疸、低血糖、敗血症などの発生率もプラセボ群と同等でした[2][3][5][9][7]。
アブリスボを百日咳含有ワクチン(沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチンなど)と同時接種した場合、百日咳抗原に対する免疫応答が低下する可能性が報告されていますが、現時点で臨床的な影響は明らかではありません[1][6]。
他のワクチンとの同時接種を希望する場合は、医師と相談の上で慎重な判断が必要です。
なお、明らかな発熱や重篤な急性疾患、過去に本剤成分でアナフィラキシーを起こした既往のある場合は接種禁忌となります[6][3][7]。
臨床現場では、アブリスボ接種後の副反応はほとんどが軽度で、患者説明や経過観察を丁寧に行うことで安全に運用されています。
妊婦への接種は、RSウイルス感染症の重症化リスクが高い新生児・乳児を守る重要な手段として期待されています[9][4]。
実際に接種した妊婦・乳児の経過観察では、早産や新生児合併症の増加は確認されていません[2][3][5][9][7]。
医療従事者は、接種前の問診・診察で健康状態を十分に確認し、接種後の経過観察を徹底することが推奨されます。また、患者や家族に対し、予防効果や副反応、接種後の注意点について分かりやすく説明することが重要です[10][7]。
アブリスボは2024年に日本で承認され、欧米でも普及が進んでいますが、今後は乳児のRSウイルス感染症による入院・重症化の減少効果や、ワクチン普及による集団免疫の形成が期待されています[3][7]。
一方で、ワクチンの長期的な有効性や、出生24か月以降の乳児への影響については今後の追加調査が必要です[5]。
また、任意接種であるため費用負担や接種率向上も課題となっており、医療従事者からの適切な情報提供と啓発活動が重要です。
アブリスボの普及により、RSウイルス感染症の重症化リスクを減らし、母子の健康を守る新たな選択肢となることが期待されています。
アブリスボの添付文書や臨床試験データの詳細は、PMDAの医薬品情報ページや、主要論文(N Engl J Med 2023; 388: 1451-1464)も参考にしてください。
アブリスボの添付文書全文や適応、用法用量、副作用リストなど詳細情報
KEGG アブリスボ添付文書
MATISSE試験の主要論文(英語、RSウイルス感染症予防効果・安全性データ)
N Engl J Med 2023; 388: 1451-1464
接種対象・費用・副作用・注意点のまとめ
はまっここどもクリニック アブリスボ解説