JAK阻害薬を「リウマチだけの薬」と思ったまま処方すると、適応外の患者に選択肢を提示できず損をします。

ヤヌスキナーゼ(Janus kinase:JAK)とは、細胞内でサイトカイン受容体に結合し、炎症シグナルを核へ届ける酵素群の総称です。JAKにはJAK1・JAK2・JAK3・TYK2の4種類が存在し、それぞれ異なるサイトカイン受容体と対応しています。
炎症性サイトカイン(IL-6・IFN-γ・IL-2など)が受容体に結合すると、受容体の細胞膜内側に位置するJAKが自己リン酸化します。活性化したJAKはSTATタンパクをリン酸化し、STATが核内へ移行して炎症・骨破壊に関わる遺伝子を転写させます。これがJAK–STAT経路です。
JAK阻害薬は、この「細胞膜内側のスイッチ」に当たるJAKをブロックすることで、複数のサイトカインシグナルを一気に遮断します。生物学的製剤が1種のサイトカインを細胞外でブロックするのとは根本的に異なる作用点です。つまり、1剤で多くのサイトカイン経路を遮断できる点が最大の特徴です。
経口内服薬であること、分子量500 Da以下の低分子化合物であること、効果発現までが早い(2週以内でACR改善が確認できる報告もある)ことも、生物学的製剤にはない強みとして挙げられます。
| ターゲットJAK | 主に遮断できるサイトカイン | 関連疾患 |
|---|---|---|
| JAK1 | IL-6, IFN-γ, IL-2 | 関節リウマチ、乾癬性関節炎 |
| JAK2 | GM-CSF, EPO | 骨髄線維症、真性多血症 |
| JAK3 | IL-2, IL-15 | 免疫調節(関節リウマチ) |
| TYK2 | IL-12, IL-23 | 乾癬、SLE |
これが基本です。どのJAKを阻害するかを把握することが、薬剤選択の出発点になります。
参考リンク(日本リウマチ学会・JAK阻害薬の作用機序と基本情報)。
関節リウマチの治療 – JAK阻害薬(日本リウマチ学会関連 rheuma-net.or.jp)
国内で承認されているJAK阻害薬は、経口薬8剤・外用薬1剤(2025年時点)です。それぞれ適応疾患・JAK選択性・用法・腎肝機能による制限が大きく異なります。一剤ずつ整理しておきましょう。
| 一般名 | 商品名 | 主なターゲットJAK | 主な適応疾患 | 用法(成人RA) |
|---|---|---|---|---|
| トファシチニブ | ゼルヤンツ® | JAK1/3 | 関節リウマチ・潰瘍性大腸炎 | 5mg×1日2回 |
| バリシチニブ | オルミエント® | JAK1/2 | 関節リウマチ・アトピー・円形脱毛症・COVID-19肺炎 | 4mg×1日1回 |
| ペフィシチニブ | スマイラフ® | JAK1/2/3/TYK2 | 関節リウマチ | 150mg×1日1回 |
| ウパダシチニブ | リンヴォック® | JAK1選択的 | 関節リウマチ・乾癬性関節炎・強直性脊椎炎・アトピー性皮膚炎・潰瘍性大腸炎・クローン病 | 15mg×1日1回 |
| フィルゴチニブ | ジセレカ® | JAK1高選択的 | 関節リウマチ・潰瘍性大腸炎 | 200mg×1日1回 |
| アブロシチニブ | サイバインコ® | JAK1選択的 | アトピー性皮膚炎 | 100〜200mg×1日1回 |
| リトレシチニブ | リットフーロ® | JAK3/TECキナーゼ | 円形脱毛症 | 50mg×1日1回 |
| ルキソリチニブ | ジャカビ® | JAK1/2 | 骨髄線維症・真性多血症・移植片対宿主病 | 血球数に応じ調整 |
| デルゴシチニブ(外用) | コレクチム軟膏® | JAK1/2/3/TYK2 | アトピー性皮膚炎(外用) | 1日2回塗布 |
意外ですね。スマイラフ(ペフィシチニブ)は日本と韓国のみで承認された薬剤であり、欧米では未承認です。
ウパダシチニブ(リンヴォック)はJAK1選択的でありながら、現在6疾患以上の適応を持つ最も広域な内服JAK阻害薬となっています。ひとつの剤で多疾患をカバーできる点は、処方設計の柔軟性につながります。
また、バリシチニブ(オルミエント)はCOVID-19肺炎(レムデシビル併用)という感染症への適応を持つ唯一のJAK阻害薬です。感染症治療に免疫抑制剤が使われるという点は初見では驚きますが、過剰な炎症反応(サイトカインストームの制御)を目的とした使い方です。これは使える知識です。
参考リンク(愛媛大学医学部附属病院・当院採用JAK阻害薬一覧ver2.0)。
当院採用のJAK阻害薬一覧ver2.0(愛媛大学医学部附属病院薬剤部)
JAK阻害薬の副作用管理は、処方する診療科を問わず医療従事者全員が把握すべき内容です。見落としやすい副作用が複数あります。
🦠 感染症・帯状疱疹リスク
帯状疱疹は、JAK阻害薬に特徴的な副作用として各ガイドラインで繰り返し強調されています。日本人のバリシチニブ(オルミエント)投与患者における帯状疱疹発症率は100人年あたり6.50件(95%信頼区間4.70〜8.75)と報告されています。これは生物学的製剤(IL-6阻害薬で約0.5〜1件/100人年)と比べて約6倍超という数字です。
帯状疱疹の発症リスクは60歳以上の高齢者で特に高く、糖尿病・慢性腎臓病の合併もリスク因子です。重篤ですね。
対策としては、JAK阻害薬開始前に不活化帯状疱疹ワクチン「シングリックス®(2回接種・費用は1回あたり約22,000円)」の接種完了が日本リウマチ学会・ACR2023ガイドラインで推奨されています。なお、水痘・帯状疱疹の生ワクチンはJAK阻害薬投与中は禁忌です。この点は特に薬剤師・看護師も押さえておく必要があります。
❤️ 心血管イベント・静脈血栓塞栓症(VTE)リスク
ORAL Surveillance試験(NEJM 2022)では、50歳以上かつ心血管リスク因子を持つ患者においてトファシチニブはTNF阻害薬と比較してMACE(主要心血管イベント)HR 1.33、VTE HR 1.98と有意に高いリスクが確認されました。65歳以上・喫煙・肥満・既往DVT/CADが重なる患者では、JAK阻害薬よりTNF阻害薬・アバタセプトを優先する判断が勧められています。
静脈血栓塞栓症の発症率は全体では1,000人年あたり0.3〜0.6件と決して高くはありませんが、複数リスク因子が重なると2倍以上に跳ね上がります。リスク因子のチェックが条件です。
🎗️ 悪性腫瘍リスク
同じORAL Surveillance試験において、65歳以上の高齢者でTNF阻害薬使用群と比べて悪性腫瘍発症率が高い可能性が指摘されています。悪性腫瘍の既往がある患者・家族歴がある患者では、JAK阻害薬の使用を慎重に検討する必要があります。
その他、好中球減少・リンパ球減少・肝機能障害・コレステロール上昇・間質性肺炎も定期モニタリングが必要な副作用です。いずれも採血で早期発見できる異常です。
| 副作用 | 発生率の目安 | 主なモニタリング方法 |
|---|---|---|
| 帯状疱疹 | 3〜6.5件/100人年(日本人) | 毎診察で皮疹チェック・VZV IgG確認 |
| 静脈血栓塞栓症 | 0.3〜0.6件/1,000人年 | D-ダイマー・リスク因子確認 |
| 好中球減少 | 1〜2件/100人年 | CBC(投与2W→4W→3Mごと) |
| 悪性腫瘍 | 65歳以上で有意差あり | 定期的な全身スクリーニング |
| 間質性肺炎 | まれ(頻度低い) | 胸部X線・症状問診 |
参考リンク(日本リウマチ学会・JAK阻害薬使用の手引き)。
関節リウマチ(RA)に対するヤヌスキナーゼ阻害薬使用の手引き(日本リウマチ学会)
JAK阻害薬は現在5〜8剤が選択肢となるため、「どれを選べばよいのか」という疑問を持つ医療従事者は少なくありません。使い分けの基準は主に①患者背景・合併症、②腎肝機能、③適応疾患の3軸で整理できます。
① 腎機能による制限
バリシチニブ(オルミエント)は腎排泄型の薬剤です。eGFR 60未満で減量が必要となり、eGFR 30未満(透析中を含む)では使用禁忌です。これに対してペフィシチニブ(スマイラフ)は腎機能低下例でも用量調整が不要な唯一の内服JAK阻害薬で、腎機能が懸念される患者では選択優位性があります。これは使えそうです。
② 肝機能による制限
スマイラフ(ペフィシチニブ)・ゼルヤンツ(トファシチニブ)・リンヴォック(ウパダシチニブ)は重度の肝機能障害で禁忌となります。いずれも中等度の肝機能低下では減量が必要です。フィルゴチニブ(ジセレカ)は肝機能による添付文書上の禁忌規定がなく、重度肝機能障害例でも投与可能なことが多い(末期腎不全eGFR<15は禁忌)点で、選択肢になります。
③ 薬物相互作用(CYP3A4)
トファシチニブ・ウパダシチニブ・ルキソリチニブはCYP3A4で代謝されます。ケトコナゾール・クラリスロマイシンなどのCYP3A4阻害薬を使用中の患者では用量調整が必要です。フィルゴチニブはカルボキシルエステラーゼ(CES)で代謝されるため、CYP系の相互作用をほぼ気にしなくてよく、多剤併用患者に使いやすい特徴があります。ペフィシチニブも同様に、JAK阻害薬の中で最も相互作用が少ない部類に入ります。
④ 患者背景別の推奨例(2024〜25 EULAR/ACR勧告ベース)
- 🔴 65歳以上・帯状疱疹リスク高(糖尿病・CKD合併):シングリックス®接種完了後にJAK阻害薬使用。それ以前はIL-6阻害薬またはアバタセプトを優先。
- 🔴 深部静脈血栓症既往・65歳以上+喫煙+高LDL:TNF阻害薬・アバタセプトを優先し、リスク再評価後にJAK阻害薬を検討。
- 🟢 BMI≥30(肥満)・皮下注への抵抗感が強い患者:SELECT-COMPARE解析でウパダシチニブがアダリムマブより寛解率57% vs 45%と優越性を示しており、内服JAK阻害薬が積極的選択肢になります。
- 🟡 RA関連間質性肺疾患(RA-ILD)合併:アバタセプトが安定化データをもつが、JAK阻害薬の増悪報告はなし(CONNECT Registry 2024)。
患者の年齢・合併症・多剤併用状況を整理してから選択するのが原則です。
参考リンク(豊田土橋リウマチクリニック・JAK阻害薬〈完全ガイド〉)。
JAK阻害薬〈完全ガイド〉作用機序・効果・副作用と最新勧告(rheumatology.co.jp)
JAK阻害薬を安全に使い始めるためには、処方前の系統的なスクリーニングが欠かせません。ここでは「投与前に必ず確認すべき項目」を整理します。知らないと患者に重大なリスクをもたらす内容です。
✅ 感染症スクリーニング(必須)
JAK阻害薬投与前には以下の感染症スクリーニングが推奨されています。結核に関しては、胸部X線(必要に応じてCT)・ツベルクリン反応またはインターフェロン-γ遊離試験(IGRA:QFTまたはT-SPOT)・問診による結核既往・接触歴の確認が必要です。活動性結核はすべてのJAK阻害薬で禁忌であり、潜在性結核についても抗結核薬の先行投与が求められます。
また、B型肝炎ウイルス(HBs抗原・HBs抗体・HBc抗体)およびC型肝炎ウイルス(HCV抗体)の確認も必須です。HBVキャリアや過去感染者ではJAK阻害薬投与中にウイルス再活性化が生じる可能性があり、肝炎専門医との連携が必要です。
✅ ワクチン接種状況の確認(重要)
生ワクチン(水痘・麻疹・風疹・おたふくかぜ・BCG)はJAK阻害薬投与中は禁忌です。投与前に帯状疱疹ワクチン(シングリックス®)・肺炎球菌ワクチン・インフルエンザワクチンの接種を済ませておくことが推奨されています。
シングリックス®は2回接種(2か月間隔が標準)の不活化ワクチンで、JAK阻害薬投与中でも接種可能ですが、できれば投与開始前に2回目まで完了させることが理想的です。コロナワクチン(mRNA)は投与中でも接種可能です。
✅ 妊娠・避妊の確認(絶対禁忌)
妊婦または妊娠可能性のある女性へのJAK阻害薬投与はすべての剤で禁忌です。動物実験で催奇形性が確認されており、妊娠希望がある場合は少なくとも投与終了から一定期間(薬剤によって異なる)の避妊が必要です。生殖年齢の男性患者においても家族計画の確認が必要です。
✅ 採血・機能検査(投与前ベースライン)
下記をベースラインとして記録し、投与後の変動と比較できるようにしておきます。
- CBC(白血球・好中球・リンパ球・ヘモグロビン・血小板)
- 肝機能(AST・ALT・総ビリルビン)
- 腎機能(血清クレアチニン・eGFR)
- 脂質(LDL・HDL・中性脂肪)
- CRP・ESR(炎症マーカー)
- 血糖・HbA1c(糖尿病合併の確認)
好中球数500/mm³未満・リンパ球数500/mm³未満・ヘモグロビン8g/dL未満はほぼすべての剤で投与開始・継続禁止の基準となっています。数値だけは覚えておけばOKです。
✅ 悪性腫瘍の既往確認
現在の悪性腫瘍治療中はすべてのJAK阻害薬で原則禁忌です。過去の悪性腫瘍既往がある場合、65歳以上かつ心血管リスク因子を持つ患者には特に慎重に適用を検討する必要があります。腫瘍専門医との連携のうえで処方判断を行いましょう。
参考リンク(パスメド・JAK阻害薬の一覧表と副作用まとめ)。
JAK阻害薬の一覧表(経口7製品)と作用機序のまとめ(passmed.co.jp)
JAK阻害薬の選択性(JAK1選択的、JAK1/2選択的など)は各メーカーが強調するポイントですが、「選択性が高いほど安全で効果的なのか」という疑問は臨床現場でよく聞かれます。この問いに対して、現在のエビデンスが示す答えは「一概にはいえない」です。
選択性が高いことのメリット
JAK2を強く阻害すると造血系への影響(貧血・好中球減少)が出やすくなります。JAK2はエリスロポエチン(EPO)受容体のシグナル伝達にも関与するため、造血に影響します。JAK1選択的な薬剤(ウパダシチニブ・フィルゴチニブ・アブロシチニブ)はJAK2への影響が相対的に小さく、造血系副作用のリスクが低い可能性があります。
また、ジセレカ(フィルゴチニブ)はJAK1を最も高選択的に阻害する内服JAK阻害薬のひとつで、全JAK阻害薬の中で帯状疱疹発症率が最も低いという報告(海外データ)もあります。JAK1選択性が高いほど帯状疱疹リスクを下げられる可能性があるということです。
選択性が「効果の差」に直結するとは言い切れない理由
一方で、選択性が高いほど効果が優れるというデータは現時点では明確ではありません。日本リウマチ学会も「JAK阻害薬5種類の効果や副作用に大きな違いはないと考えられている」と明記しています(令和5年1月更新)。
低分子化合物は一般に濃度依存性があり、用量が上がると「JAK選択的」な薬剤でも他のJAKを阻害してしまいます。高用量では期待しない作用のリスクが上昇します。標的分子への選択性が高いほど低用量で効果が期待できる一方、「選択性が絶対的な安全保証にはならない」という理解が重要です。
現場で役立つ整理方法
医療従事者として押さえておくべき視点は、「選択性は副作用プロファイルの傾向を示すヒントであり、最終的な薬剤選択は患者の腎肝機能・合併症・適応疾患・併用薬を総合して行う」ということです。選択性だけで選ぶのはダメです。
2025年以降も新たな適応追加・使い分けのエビデンスが蓄積されるため、定期的なガイドラインの確認が不可欠です。適宜アップデートが条件です。
参考リンク(HOKUTO・IBDマニュアル JAK阻害薬の使い分け)。
【IBDマニュアル】JAK阻害薬の使い分け(HOKUTOアプリ)