トリコフィトン メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)は、皮膚糸状菌症の第二の主要原因菌として知られており、特に小水疱型の足白癬を引き起こすことで知られています 。この真菌感染症は比較的若年者に多く発症する傾向があり、手足の爪の発症事例が多数報告されています 。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E6%B0%B4%E8%99%AB/contents/170612-012-LW
臨床症状としては、初期段階で赤く境界のはっきりした発疹が現れ、強いかゆみを伴うのが特徴です 。感染が進行すると、患部周辺に小さな水疱や膿疱が形成され、皮膚のめくれや鱗屑が観察されます。特に足白癬では、指間型、小水疱型、角質増殖型の3つの臨床型に分類され、トリコフィトン メンタグロフィテスは主に小水疱型を引き起こします 。
参考)https://reiko-skin.jp/mycoses
また、深部感染例では重篤な炎症反応を呈することがあり、健康な成人でも深在性皮膚真菌症を発症する報告があります 。このような場合、痛みを伴う持続的な病変となり、瘢痕形成や二次的な細菌感染のリスクが高まります 。
参考)https://www.info-cdcwatch.jp/views/showbin.php?id=338amp;type=73amp;.jpg
トリコフィトン メンタグロフィテスの診断には、直接鏡検法と培養検査が基本となります。直接鏡検では、病変部から採取した鱗屑や水疱蓋をスライドガラス上に載せ、10〜30%KOH液を用いて角層を溶解させ、真菌要素を観察します 。現在では、より迅速な診断のためにジメチルスルホキシド(DMSO)添加KOH液が広く使用されています 。
参考)https://www.kango-roo.com/learning/8727/
分子生物学的同定法の進歩により、トリコフィトン メンタグロフィテス複合体の正確な種の識別が可能になりました。この複合体には5つの種(T. mentagrophytes、T. interdigitale、T. erinacei、T. quinckeanum、T. benhamie)と9つの異なる遺伝型が含まれており、抗真菌薬に対する感受性が異なるため、分子レベルでの同定が重要です 。
参考)https://www.medsci.org/v17p0045.pdf
MALDI-TOF質量分析法などの新しい技術も導入され、特にテルビナフィン耐性を示すトリコフィトン インドチネエ(T. indotineae)の迅速同定に有効です 。培養検査では、サブローブドウ糖寒天培地(SDA)を用いて2週間以上の培養が必要で、コロニーの形態学的特徴により菌種を同定します 。
参考)https://www.mdpi.com/2309-608X/8/10/1103/pdf?version=1666179564
トリコフィトン メンタグロフィテス感染症の治療には、主に抗真菌薬の外用療法が第一選択となります。軽度から中等度の感染に対しては、テルビナフィン、ラノコナゾール、ミコナゾールなどの外用抗真菌薬が効果的です 。テルビナフィンは浸透力が高く、殺菌力が強いため初期のぜにたむしや狭い範囲の感染に適しています。
参考)https://hifuka-eigo.com/blog/1181/
広範囲の感染や難治例に対しては、全身療法として内服薬が必要となります。代表的な経口抗真菌薬には、イトラコナゾール(イトリゾール)、テルビナフィン(ラミシール)、ホスラブコナゾール(ネイリン)があります 。特に頭部白癬では外用薬の浸透が困難なため、内服治療が必須となります。
参考)https://oki.or.jp/dermatology/ringworm/
白癬性毛瘡(ひげ白癬)の場合、トリコフィトン メンタグロフィテスが主要な原因菌として知られており、グリセオフルビン、テルビナフィン、イトラコナゾールの内服治療が標準的です 。炎症が強い場合には、症状緩和と瘢痕化予防のため、短期間のステロイド併用も考慮されます。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/17-%E7%9A%AE%E8%86%9A%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%9C%9F%E8%8F%8C%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87/%E3%81%B2%E3%81%92%E7%99%BD%E7%99%AC-%E7%99%BD%E7%99%AC%E6%80%A7%E6%AF%9B%E7%98%A1
近年、テルビナフィン耐性トリコフィトン メンタグロフィテス株の出現が世界的に問題となっています。日本国内の調査では、2022年時点で白癬患者の約2.3%がテルビナフィン耐性株に感染していることが判明しました 。このうち約1.4%の患者は新たに耐性株に感染したケースで、耐性菌の拡散が懸念されています。
参考)https://www.teikyo-u.ac.jp/application/files/8316/7956/4168/news_20230322re.pdf
特にトリコフィトン インドチネエ(旧トリコフィトン メンタグロフィテス タイプVIII)は、テルビナフィンに対する高い耐性を示し、広範囲で炎症性の皮膚病変を引き起こします 。この菌株はインド亜大陸から欧州に拡散しており、スクアレン エポキシダーゼ遺伝子の変異により耐性を獲得しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11318982/
耐性菌に対する治療戦略として、テルビナフィン耐性株にはアゾール系抗真菌薬(イトラコナゾール、フルコナゾールなど)を選択し、イトラコナゾール耐性株に対してはテルビナフィンまたは抗菌活性の強いアゾール系薬剤への変更が推奨されています 。薬剤感受性試験の結果に基づく個別化治療が、治療成功の鍵となります。
参考)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22K08442/
トリコフィトン メンタグロフィテス感染の予防には、感染経路の理解と適切な衛生管理が不可欠です。この菌は主に直接接触や汚染された物品を介して感染し、特に公共の更衣室、プール、ジムなどの湿潤環境で感染リスクが高くなります 。
参考)https://kabikensa.com/blog/ringworm-fungus-guide/
感染予防の基本的な対策として、以下の点が重要です:
格闘技競技者においては、トリコフィトン トンスランス菌による新型水虫の集団感染が問題となっており、練習前後のボディチェックと症状のある選手の休養が重要です 。また、道場や練習場の定期的な清掃と電気掃除機による菌の除去も効果的です。
参考)https://www.judo.or.jp/sport-promotion/disease/
医療従事者としては、患者の足白癬や爪白癬から他部位への自家感染を防ぐため、全身の皮膚検査を実施し、適切な治療指導を行うことが重要です 。早期診断と適切な治療により、感染拡大の防止と治療期間の短縮が可能となります。
参考)https://www.maruho.co.jp/medical/articles/tinea/diagnose/index.html