多発性筋炎と皮膚筋炎の診療ガイドライン

多発性筋炎と皮膚筋炎の最新ガイドラインに基づく診断基準と治療アプローチ、新しい検査法や合併症管理について詳しく解説。治療選択の根拠はどこにあるのでしょうか?

多発性筋炎の診療ガイドライン

多発性筋炎・皮膚筋炎診療の基本方針
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診断基準の適用

厚生労働省2015年基準による系統的診断アプローチ

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治療選択指針

ステロイドを中心とした免疫抑制療法の体系的実施

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合併症管理

間質性肺炎やサイトメガロウイルス感染の予防・治療

多発性筋炎ガイドライン診断基準の最新改訂

多発性筋炎皮膚筋炎診療ガイドライン2025が最新版として公開され、従来の2020年暫定版から大幅な改訂が実施されました。新ガイドラインでは、診断基準として厚生労働省2015年基準を基本とし、以下の項目を系統的に評価します:

皮膚筋炎の確定診断には皮膚症状と上記項目中4項目以上、多発性筋炎では筋力低下を含む項目中4項目以上の満足が必要です。新基準では、特に小児から成人までの統一的な診断アプローチが強化されており、46個のクリニカルクエスチョンにより包括的な診断体系を構築しています。
近年注目されているのは、Bohan & Peter診断基準(1975年)との併用評価で、definite(確実)・probable(可能性高い)・possible(除外不能)の段階的診断システムです。この分類により、早期診断と適切な治療開始が可能となり、10年生存率80%という良好な予後達成に寄与しています。
参考)皮膚筋炎・多発性筋炎

 

多発性筋炎ガイドラインによる治療アルゴリズム

2025年版ガイドラインでは、治療アルゴリズムが大幅に体系化され、エビデンスレベルD、推奨度1の基準で治療方針が明確化されました。第一選択治療として、プレドニゾロン0.5-1.0mg/kg/日の経口投与が基本となり、約80%の患者で有効性が確認されています。
重症例に対するステロイドパルス療法では、メチルプレドニゾロン500mg/日の点滴投与が推奨されますが、一時的筋力低下進行の可能性があり注意が必要です。治療効果判定は、CK値の下降(1-2週間で開始)と筋力回復(1か月程度で開始)により行われます。
参考)皮膚筋炎/多発性筋炎(指定難病50) href="https://www.nanbyou.or.jp/entry/4081" target="_blank">https://www.nanbyou.or.jp/entry/4081amp;#8211; 難病情…

 

免疫抑制薬併用療法として、以下が推奨されています:
参考)2601多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドライン2025

 

新ガイドラインでは、生物学的製剤としてインフリキシマブは推奨されないことが明記されており、一方でリツキシマブ(RIM試験)やIVIg(免疫グロブリン大量静注療法)がステロイド抵抗例の選択肢として位置づけられています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/4240dd5da630fb6bd97df5a2bfd910fed4c734f2

 

多発性筋炎ガイドラインが示す間質性肺炎合併症管理

多発性筋炎・皮膚筋炎の約50%で間質性肺炎が合併し、これが予後決定因子となることから、ガイドラインでは特別な管理体系が確立されています。日本呼吸器学会・日本リウマチ学会による治療アルゴリズムでは、間質性肺炎の進行パターンにより治療強度を調整します。
参考)皮膚筋炎・多発性筋炎

 

急速進行性間質性肺炎の場合。

慢性進行性間質性肺炎では、プレドニゾロン0.5-1.0mg/kgから開始し、タクロリムス併用による長期管理を行います。
参考)皮膚筋炎・多発性筋炎 - 診療のご案内

 

特に注意が必要なのは、Amyopathic Dermatomyositis(無筋症性皮膚筋炎)に合併する間質性肺炎で、筋症状が軽度でありながら2年生存率55.6%と予後不良であり、抗Jo-1抗体陰性・CK/LDH比低値が予後不良因子として報告されています。
呼吸筋や嚥下筋の筋力低下により誤嚥性肺炎のリスクも高く、これらを考慮した総合的な呼吸管理が重要です。
参考)皮膚筋炎・多発筋炎

 

多発性筋炎におけるサイトメガロウイルス感染監視体制

新しいガイドラインで特に重視されているのが、免疫抑制療法に伴うサイトメガロウイルス(CMV)感染の監視と管理です。皮膚筋炎患者の約29.2%でCMV感染が発症し、死亡率上昇と関連することが判明しています。
参考)CareNet Academia

 

CMV感染の臨床的特徴

診断には血清CMV-DNA定量検査とCMV pp65抗原検査が有用で、組織学的にはCMV封入体の確認が診断確定に重要です。治療にはガンシクロビル3週間継続投与が推奨されており、早期診断・早期治療により予後改善が期待されます。
CMV腸炎による消化管穿孔は極めて稀な合併症ですが、多発性筋炎治療中の消化管症状には常にCMV感染を疑い、抗ウイルス剤投与を考慮する必要があります。この監視体制により、感染症による治療中断や生命予後悪化の防止が可能となります。

多発性筋炎ガイドラインによる自己抗体検査の診断的意義

最新ガイドラインでは、筋炎特異的自己抗体の検査体系が大幅に拡充され、診断精度と治療選択の向上が図られています。現在測定可能な主要抗体として抗Jo-1抗体があり、陽性時の診断的価値は極めて高いとされています。
抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体群

  • 抗Jo-1抗体: 最も頻度が高く、間質性肺炎との関連が強い
  • 抗PL-7抗体: 急性間質性肺炎との関連
  • 抗EJ抗体: 皮膚症状との関連

筋炎関連抗体

  • 抗MDA5抗体: 急速進行性間質性肺炎の強いリスクファクター
  • 抗TIF1-γ抗体: 悪性腫瘍合併リスクとの関連
  • 抗Mi-2抗体: 典型的皮膚症状との関連

これらの自己抗体パターンは、**臨床表現型(clinical phenotype)**と密接に関連しており、例えば抗MDA5抗体陽性例では無筋症性皮膚筋炎でありながら急速進行性間質性肺炎を高頻度に合併し、積極的免疫抑制療法の適応となります。
自己抗体検査により、診断確定のみならず、合併症予測・治療選択・予後予測が可能となり、個別化医療の基盤となっています。特に抗体プロファイルに基づく治療アルゴリズムの構築により、最適な治療選択が実現されています。