アルドラーゼ(aldolase:ALD)は解糖系酵素の一員として、フルクトース-1,6-2-リン酸(FDP)をジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)とD-グリセルアルデヒド-3-リン酸に分解する反応を触媒します。この酵素は分子量約150kDaの4量体蛋白として存在し、骨格筋、心筋、肝、脳に多量に存在する細胞質内酵素です。
参考)https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060033.html
アルドラーゼには3種類のアイソザイムが存在します。
参考)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1402223261
これらの組織に障害が生じると、細胞内からアルドラーゼが血中に流出し、血清ALD活性が上昇するため、組織損傷の指標として利用されています。
参考)https://data.medience.co.jp/guide/guide-01030009.html
アルドラーゼの測定は主にUV法(紫外線吸光度法)で行われ、37℃における酵素活性として測定されます。基準値は施設により若干異なりますが、一般的に2.7~7.5 U/L(37℃)とされています。
参考)https://uwb01.bml.co.jp/kensa/search/detail/3802217
検査時の注意点:
参考)https://www.pluswellness.com/dictionary/checkup/004009.html
検体は血清0.3~0.5mLが必要で、冷蔵保存により3~4日間安定です。所要日数は1~2日で結果が得られ、診療報酬は11点(生化学的検査Ⅰ)として算定されます。
アルドラーゼは組織特異性に乏しい酵素のため、様々な疾患で上昇を示します。特に以下の疾患群で臨床的意義が高いとされています。
筋疾患における上昇:
心疾患における上昇:
肝疾患における上昇:
その他の疾患:
アルドラーゼは単独で診断に用いることは少なく、他の酵素検査との組み合わせで診断精度を向上させます。特にクレアチンキナーゼ(CK)との併用が重要です。
CKとの比較における特徴:
肝機能検査との関連:
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3453548/
興味深いことに、アルドラーゼはアイソザイム分析により疾患の鑑別が可能ですが、現在は技術的な問題から血清アイソザイム分析は実施されていません。そのため、臨床現場では主にA型の活性が測定されているのが現状です。
近年のアルドラーゼ研究では、従来の診断用途を超えた新しい臨床応用が注目されています。特に癌幹細胞(CSC)研究の分野では、ALDEFLUOR活性測定によりアルデヒド脱水素酵素(ALDH)活性の評価が行われており、様々な癌種での予後予測マーカーとしての可能性が検討されています。
参考)https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14756366.2023.2166035
革新的な測定技術の発展:
液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)を用いた高感度測定法が開発され、血清や血漿中の微量なアルドラーゼ活性の検出が可能になっています。この技術により、従来検出困難だった血漿中のALDH活性も測定可能となり、診断精度の向上が期待されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11640014/
遺伝性疾患診断への応用:
遺伝性果糖不耐症(HFI)では、アルドラーゼB欠損により特徴的な低値を示します。組織生検におけるアルドラーゼBの免疫学的測定により、酵素蛋白の量的・質的異常を詳細に解析することが可能となっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1129175/
新生児スクリーニングへの展開:
X連鎖性副腎白質ジストロフィー(ALD)の新生児スクリーニングでは、血液スポット検体を用いた高感度測定法が確立されており、早期診断・早期治療介入により予後改善が図られています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3935823/
これらの技術革新により、アルドラーゼ血液検査は単なる組織損傷マーカーから、疾患の早期診断、予後予測、治療効果判定まで幅広い臨床応用が可能な検査法として進化を続けています。医療従事者にとって、これらの新しい知見を理解し活用することは、より精密で個別化された医療の提供につながる重要な要素となっています。