日本循環器学会と日本不整脈心電学会が合同で作成した「不整脈薬物治療ガイドライン2020年改訂版」では、心室性期外収縮の診断と治療に関する詳細な推奨事項が記載されています。このガイドラインは、エビデンスレベルに基づき推奨クラスをI、IIa、IIb、IIIに分類し、医師が実地診療で治療法を選択する際の指針となっています。ガイドラインでは、心室性期外収縮患者のリスク評価が治療方針決定の第一歩とされており、症状の有無、器質的心疾患の合併、期外収縮の頻度などを総合的に判断することが求められます。
参考)http://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/01/JCS2020_Ono.pdf
治療の基本方針として、無症状で心機能が正常な特発性心室性期外収縮に対しては、定期的な心電図と心機能の追跡が推奨され、予防的な抗不整脈薬投与は推奨されていません。一方、症状が強い場合や頻度が高い場合には、β遮断薬を中心とした薬物療法が検討されます。
参考)期外収縮を認めた場合の当院での検査・治療の進め方|平塚市の一…
日本循環器学会公式ガイドライン全文(PDF)では、心室性期外収縮の発生機序から治療戦略まで、包括的な情報が提供されています。
心室性期外収縮の診断は、12誘導心電図で先行するP波を伴わない幅広いQRS波(0.12秒以上)が記録されることで確定します。診断においては24時間ホルター心電図が必須であり、期外収縮の頻度、出現パターン(単発か連発か、単源性か多源性か)、日常生活での症状との関連性を評価します。
参考)心室期外収縮(VPC・PVC) – 循環器の疾患
分類に関しては、基礎心疾患の有無により「特発性心室性期外収縮」と「器質的心疾患に伴う心室性期外収縮」に大別されます。特発性は構造的心疾患を認めず予後良好ですが、器質的心疾患を伴う場合は心機能低下や突然死のリスクが高まるため、厳重な管理が必要です。
参考)日本循環器学会の循環器病ガイドラインがアップデートされました…
心エコー検査は、狭心症、心筋症、弁膜症、先天性心疾患などの器質的心疾患の有無を確認し、心機能を評価するために不可欠な検査です。特に心室性期外収縮では、基礎疾患が隠れている可能性があるため、初回診察時には必ず実施すべきとされています。
ガイドラインでは心室性期外収縮患者のリスク評価が治療方針の決定に重要であるとされています。評価項目には、❶期外収縮の頻度(総拍動数の何%を占めるか)、❷連発の有無(非持続性心室頻拍への移行リスク)、❸2段脈や3段脈などの出現パターン、❹基礎心疾患の有無と重症度が含まれます。
期外収縮の頻度については、健常人でも100拍/日以下は正常範囲とされますが、それを大きく超える場合や総心拍数の10~20%以上を占める場合は、心機能低下(期外収縮誘発性心筋症)のリスクが高まるため注意が必要です。実際、VPCが認められた集団では心不全発症率が19.45%と、認められなかった集団の9.4%に比べて有意に高いことが報告されています。
参考)https://new.jhrs.or.jp/pdf/education/akiyamalecture15.pdf
予後予測においては、器質的心疾患の有無が最も重要な因子であり、陳旧性心筋梗塞や心不全を合併する症例では突然死のリスクが高くなります。また、運動負荷試験で期外収縮が増悪する場合や、多形性の期外収縮が出現する場合も、より慎重な経過観察が必要とされています。
参考)心室性期外収縮 - 06. 心臓と血管の病気 - MSDマニ…
薬物療法の第一選択薬はβ遮断薬であり、特にカルベジロール(アーチスト)とビソプロロール(メインテート)が広く使用されています。β遮断薬は心室性期外収縮を減少させ、症状を軽減する効果が実臨床で確認されており、患者の背景疾患や代謝経路を考慮して薬剤を選択します。投与は低用量から開始し、症状や心電図所見を観察しながら徐々に増量するのが原則です。
I群抗不整脈薬としては、ピルジカイニド(サンリズム)やフレカイニド(タンボコール)が使用されますが、上室性期外収縮ではβ遮断薬の効果が不十分なことも多いため、I群薬から開始することもあります。ただし、CAST試験において陳旧性心筋梗塞患者へのIC群薬投与で突然死が増加したことから、器質的心疾患を伴う症例では使用に慎重を期す必要があります。
参考)期外収縮とは|原因や検査、治療法について解説
期外収縮を認めた場合の検査・治療の進め方(飯田内科クリニック)では、実際の臨床現場での薬剤選択のポイントが詳しく解説されています。
近年では、心保護作用を持つARNI(エンレスト)やSGLT2阻害薬といった薬剤も、長期的な期外収縮減少効果が期待できるとして注目されています。これらは糖尿病や高血圧などの合併症管理も兼ねて、多角的な観点から投与が検討されます。
カテーテルアブレーションは、薬物療法が無効または副作用で継続困難な症例、薬剤を長期服用したくない患者、期外収縮の頻度が非常に高く心機能低下が懸念される症例に適応となります。特に頻度が多く症状の強い心室性期外収縮については、90%以上の高い成功率が見込まれるため、長期にわたる薬剤内服よりも安全性が高いと考えられています。
参考)期外収縮
無症状の特発性心室性期外収縮に対してカテーテルアブレーションを第一選択治療とするエビデンスは乏しく、まずは定期的な心電図と心機能の追跡が推奨されます。しかし、期外収縮による心機能低下が懸念される場合は、定期的な心エコー検査でのフォローが重要です。
アブレーション治療では、電極カテーテルを心臓内に挿入し、不整脈の起源となる異常な部分に高周波電流を流して焼灼します。最も多い流出路起源の心室性期外収縮では、右室流出路が起源となることが多いですが、右室入口部、左室流出路、大動脈弁上部、心外膜側から発生することもあります。3Dマッピングシステムを用いることで、カテーテルの位置を3次元的に把握し、より精密な治療が可能となっています。
参考)心室性期外収縮とは?
心室性期外収縮が多発すると心筋症を引き起こし、心機能低下による息切れやむくみといった心不全症状が出現することがあります。これは「期外収縮誘発性心筋症」と呼ばれ、期外収縮の頻度が総心拍数の10~20%以上を占める場合にリスクが高まるとされています。
追跡調査では、調査開始時にVPCが認められた集団の心不全発症率は19.45%であり、VPCが認められなかった集団の9.4%と比較して有意に高いことが示されています。この知見は、無症状であっても高頻度の心室性期外収縮に対しては定期的な心機能評価が必要であることを示唆しています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jse/33/4/33_309/_pdf/-char/ja
カテーテルアブレーションにより期外収縮を根治できれば、心機能低下やそれに伴う症状を改善できることが報告されています。したがって、心エコー検査で左室駆出率の低下傾向が認められる場合や、BNPなどの心不全マーカーが上昇している場合には、積極的なアブレーション治療の検討が推奨されます。