虚血性心疾患は心血管疾患の中でも最も頻度が高く、重篤な病態を呈する疾患群です。冠動脈の動脈硬化による狭窄や血栓形成による急性閉塞が主な病因となります。
急性冠症候群(ACS)の分類は以下の通りです。
慢性冠動脈疾患では、労作性狭心症や無症候性心筋虚血が含まれ、近年では冠動脈微小循環障害(CMD)や冠攣縮性狭心症(VSA)の病態解明も進んでいます。特に女性では微小血管狭心症の頻度が高く、従来の冠動脈造影では診断困難な症例が存在することが明らかになっています。
心筋症は心筋の構造的・機能的異常を特徴とする疾患群で、原因不明の特発性心筋症と、特定の原因による二次性心筋症に分類されます。
特発性心筋症の主要病型:
心不全は心筋症の終末像として捉えられることが多いですが、近年では「駆出率の保たれた心不全(HFpEF)」と「駆出率の低下した心不全(HFrEF)」の概念が確立され、それぞれ異なる病態生理と治療戦略が必要とされています。
特に高齢者では、HFpEFの頻度が増加傾向にあり、拡張機能障害が主体となる病態が注目されています。
心臓弁膜症は弁の開閉機能異常により血流動態が障害される疾患群です。各弁における狭窄症と閉鎖不全症の組み合わせにより、多様な病態を呈します。
後天性弁膜症の主要疾患:
先天性心疾患は出生時から存在する心血管系の構造異常で、単純先天性心疾患と複雑先天性心疾患に大別されます。成人先天性心疾患(ACHD)の概念も確立され、小児期に治療を受けた患者の長期管理が重要な課題となっています。
主要な先天性心疾患:
不整脈は心臓の電気伝導系の異常により生じる心拍リズムの障害です。発生機序により自動能異常、伝導障害、リエントリーに分類され、それぞれ異なる治療アプローチが必要です。
上室性不整脈:
心室性不整脈:
伝導障害:
近年では、カテーテルアブレーション技術の進歩により、薬物治療抵抗性の不整脈に対する根治的治療が可能となっています。また、植込み型心電図(ICM)による長期心電図モニタリングが、原因不明の失神や潜在性心房細動の診断に活用されています。
血管病変は動脈系と静脈系の両方に分類され、全身の循環動態に影響を与える重要な疾患群です。特に動脈硬化性疾患は、心血管疾患の基盤となる病態として注目されています。
大血管疾患:
末梢血管疾患:
循環器疾患の包括的評価では、心エコー検査、心電図、血管造影検査などの画像診断に加えて、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)やNT-proBNPなどのバイオマーカーが重要な役割を果たしています。
特に心不全患者では、サルコペニアやフレイルの併存率が高く(56%の患者がフレイル併存)、これらの病態を考慮した統合的管理が求められています。心臓リハビリテーションにおける理学療法評価では、運動耐容能、筋力、歩行能力の総合的評価が重要とされています。
現代の心血管疾患治療では、単一疾患への対処ではなく、併存疾患や全身状態を考慮した包括的アプローチが必要不可欠です。また、遺伝的素因や生活習慣病との関連性を理解し、予防医学的観点からの早期介入が重要な課題となっています。