血管造影と造影CTの違い:検査方法・侵襲性・適応

血管造影と造影CTはどちらも血管を可視化する検査ですが、カテーテル挿入の有無や侵襲性、診断精度に大きな違いがあります。医療従事者として両者の特徴を正しく理解していますか?

血管造影と造影CTの違い

血管造影と造影CTの主な違い
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検査方法の違い

血管造影はカテーテルを直接血管内に挿入して造影剤を注入しますが、造影CTは静脈から造影剤を注射して撮影します

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侵襲性の違い

血管造影は侵襲的な検査で入院が必要な場合が多い一方、造影CTは低侵襲で外来でも実施可能です

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診断精度と適応

血管造影は空間分解能0.2mm以下と高精度ですが、造影CTは迅速な診断が可能で緊急時に優れています

血管造影検査のカテーテル挿入手順と特徴

 

血管造影検査では、大腿部や腕の血管から直径1~2mm程度のカテーテルを挿入し、目的の血管まで進めて造影剤を注入します。この検査は血管自体の病変(狭窄、閉塞、動脈瘤、血管奇形、出血など)や悪性腫瘍の鑑別診断に有用です。検査は専用のX線撮影装置を使用した検査室で行われ、カテーテルを目的部位の近くまで進めることで詳細な血管像を得ることが可能となります。
参考)血管造影検査 - 独立行政法人国立病院機構 東京医療センター

カテーテル血管造影は選択的血管造影として一般的に行われ、特定の血管に造影剤を注入して連続的に撮影することで動脈や静脈の血流状態を評価できます。検査部位により異なりますが、おおよそ30分から2時間程度の時間を要し、検査後は約6時間のベッド上安静が必要となります。
参考)よくあるご質問 血管造影検査を受けることになりました。どのよ…

脳血管造影では、右鼠径部からカテーテルを挿入し、大動脈弓を経て腕頭動脈、総頚動脈、椎骨動脈などへカテーテルを進め、造影剤を流すことで動脈相から静脈相まで連続撮影を行います。この手法により、脳動脈瘤や脳動静脈奇形、くも膜下出血などの詳細な診断が可能です。
参考)血管造影検査

造影CT検査の血管描出メカニズム

造影CT検査では、造影剤を静脈(通常は腕の静脈)から注射し、血液の流れに乗せて体内に循環させた状態で撮影を行います。単純CTで区別がつかない病変でも、造影剤を使用することで明確に描出され、より正確な診断が可能となります。
参考)よくあるご質問 造影CT検査を受けることになりました。通常の…

造影剤を注入して血管内に造影剤が多くあるタイミングで撮影を行うと血管走行がよくわかり、3D画像を作成することで骨や血管の位置を立体的に観察・診断できます。造影剤注入開始から一定時間をおいて3~4回撮影を行うことで、腫瘍に造影剤が流れ込み、染まり、流れ出ることを確認します。
参考)https://www.hosp-yame.jp/files/team_kanzo_3.pdf

造影剤は自動注入器を用いて静脈に注入され、使用量は体重や検査目的により異なりますが50~100mlが一般的です。造影剤は血管や臓器にコントラストをつけ、特定の組織を強調してより詳しく調べる目的で使用される薬剤で、尿として排泄されます。​
従来の血管造影検査では動脈に造影剤を注射しますが、CT血管造影検査(CTA)では静脈に注射し、速やかに撮影を開始して評価したい血管の中を造影剤が通過するタイミングで撮影します。これにより非侵襲的に血管の詳細な可視化が実現します。
参考)血管造影検査 - 26. その他の話題 - MSDマニュアル…

血管造影の侵襲性とリスク管理

血管造影検査は通常行われる検査の中では侵襲度の高い検査であり、カテーテルを血管内に挿入する際に様々な危険性が伴います。主なリスクとして血管損傷(血管壁損傷、血管解離、動脈瘤形成、出血)が挙げられます。
参考)脳血管造影

穿刺部位の合併症は、カテーテルサイズと穿刺技術に大きく依存し、4Fr(1.33mm)以下のカテーテル使用では合併症発生率が1%未満ですが、6Fr(2.0mm)以上では3~5%に上昇します。具体的な合併症としては、皮下血腫が2~4%、仮性動脈瘤が0.5~1%、動静脈瘻が0.1~0.3%の頻度で発生します。
参考)血管造影検査(アンギオグラフィ / Angiography …

時々見られる合併症として、穿刺部よりの出血・血腫、疼痛、感染・発熱、腎障害、血圧低下、徐脈、発疹(造影剤や抗生剤のアレルギー)があります。カテーテル操作中の血管系合併症では、血管解離が0.3~0.4%、血栓塞栓症が0.1~0.2%、血管攣縮が1~2%の確率で発生します。
参考)https://www.jcc.gr.jp/ippan/ic/data/tuh-010.pdf

カテーテルを抜いた後は、検査担当医が直ちにカテーテルが入っていた部位を強く圧迫し、数分から十数分圧迫して止血を確認します。検査後は再出血防止のためにその部位をテープで強く固定し、約6時間のベッド上安静が必要です。​

造影CTの被曝線量と造影剤使用量

造影CTの被曝線量は撮影部位や撮影方法により大きく異なりますが、一般的に5~15mSvとされています。CT検査での被ばく線量は撮影部位(頭部・胸部・腹部・全身など)により、1回あたり5~30mSv程度となっています。
参考)https://ny-ishikaihp.jp/wp-content/uploads/2020/04/ff3a3429fb0e049739b1b1e35e8cc9e7.pdf

100ミリシーベルト(mSv)以上の被ばくでは、被ばく線量の増加とともに発がんのリスクは上昇しますが、100mSv未満の被ばくでは明らかな発がんリスクの上昇は認められていません。撮影距離が長い場合(胸部から骨盤までの撮影など)や、3D血管造影のために複数時相の撮影を行うことで被曝線量は増加します。
参考)https://www.saitama-med.ac.jp/albums/abm.php?d=521amp;f=abm00003397.pdfamp;n=jsms38_106_108.pdf

造影CTにおける造影剤使用量は50~150mLが標準的で、血管造影の100~200mLと比較して少ない傾向にあります。造影剤は尿として排泄されるため、排泄を促進させるために水分(お茶、水、ジュースなど)を多めに摂取することが推奨されます。​
造影剤の副作用は極めて少ない薬ですが、まれに(10万人に数人程度)冷や汗、血圧低下、胸が苦しくなる、呼吸困難、腎不全、意識障害、けいれん、不整脈などの重い副作用が起こることがあります。造影剤に関連した制限として、妊娠中または妊娠の可能性がある方、過去にヨード系造影剤に対するアレルギーがあった方、喘息やアレルギー体質の方、腎臓の働きが悪い方、ビグアナイド系経口糖尿病薬を服用されている方は検査が出来ない場合があります。
参考)CT(造影を含む):どんな検査?検査を受けるべき人は?検査内…

診断精度と画像解像度の比較

血管造影検査における空間分解能は0.2mm以下と極めて高く、最も詳細な血管形態の評価が可能です。一方、CT血管造影(CTA)の空間分解能は0.3~0.5mm、MR血管造影(MRA)は0.6~1.0mmとなっています。​
CTAは被ばく線量が5~15mSvと比較的高いものの、緊急時の迅速な診断に優れており、検査時間は15~30分程度と短時間で実施可能です。これに対してMRAは被ばくがなく造影剤使用量も10~20mLと少なめですが、1回の検査に30~45分を要します。​
カテーテル血管造影は造影剤使用量が100~200mLと最も多く、被ばく線量も10~20mSvと高くなりますが、検査時間は30~90分程度で最も高い空間分解能を実現します。冠動脈CT血管造影(CCTA)は過去20年間で技術が大幅に改善され、より正確な動脈硬化プラークの定量化と特性評価が可能になっています。
参考)https://academic.oup.com/eurheartj/advance-article-pdf/doi/10.1093/eurheartj/ehae190/57223453/ehae190.pdf

下肢CT血管造影(CTA)では、マトリクスサイズと視野(FOV)の適切な設定が血管描出に重要であり、FOVが大きいとピクセルサイズも大きくなり画像の解像度が低下するため、患者ごとに適切なFOVの設定が必要です。CTAは従来の血管造影と比較して低侵襲でありながら、診断精度の向上に寄与しています。
参考)https://rinken.shimane-u-tiken.jp/files/original/20250718170653083eefe1f66.pdf

医療従事者のための検査選択基準

血管造影検査とCTAの選択においては、患者の状態、緊急度、必要な情報の種類を総合的に判断することが重要です。CTAは非侵襲的な性質により、冠動脈の詳細な可視化が可能で、プラーク負荷、血管形態、狭窄の存在を評価し、血行再建戦略の正確な意思決定を支援します。
参考)https://www.mdpi.com/2308-3425/12/1/28

専門医として最低5年以上の経験と年間100症例以上の実施実績が望ましく、合併症発生率0.5%以下を維持できる技術水準が求められます。循環器内科では年間150例以上、脳神経外科では年間100例以上、血管外科では年間80例以上の経験症例数が推奨されます。​
CTAは冠動脈疾患だけでなく、病変の機能的意義を評価する技術(FFR-CT:CT由来の血流予備量比)を用いることで、冠動脈構造と血行動態に関する包括的な洞察を提供します。これにより、介入前の計画立案と冠動脈介入の最適化に役立ちます。​
血管造影検査は診断のみでなく、血管の狭窄部位を拡げる血管拡張術、動脈瘤の血流をなくす塞栓術、腫瘤を栄養する動脈を人為的に閉塞させる動脈閉塞術などの血管内治療も盛んに行われています。従来の冠動脈造影は冠動脈疾患の診断において依然としてゴールドスタンダードとされていますが、CTAの進歩により非侵襲的な選択肢として重要性が増しています。
参考)https://assets.cureus.com/uploads/review_article/pdf/222848/20240125-18910-1ys5eyw.pdf

穿刺部位の選択においては、当院では可能な限り最も侵襲性が低いとされる手首からのカテーテル検査および治療を行っていますが、血管の太さや治療の複雑性などによっては別の部位からの検査・治療を選択します。いずれの血管造影検査においても、得られた画像から正確な診断情報を引き出すためには、高度な専門知識を持つ医師による読影が求められます。
参考)当院での心臓カテーテル検査(冠動脈造影検査)の流れ - 聖路…

 

 


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