パルナパリンナトリウムの効果と副作用を医療従事者向けに解説

パルナパリンナトリウムは血液透析で使用される低分子量ヘパリンですが、その効果と副作用について詳しく理解していますか?

パルナパリンナトリウムの効果と副作用

パルナパリンナトリウムの基本情報
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薬効分類

血液凝固阻止剤(低分子量ヘパリン)

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主な効果

血液透析時の抗凝固作用

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重要な副作用

血小板減少、出血傾向、アナフィラキシー

パルナパリンナトリウムの作用機序と薬理効果

パルナパリンナトリウムは、健康なブタの腸粘膜から得たヘパリンナトリウムを化学的に分解して得られる低分子量ヘパリンナトリウムです。質量平均分子量は4,500~6,500で、硫酸エステル化の度合いは二糖類あたり2.0~2.4となっています。

 

この剤の抗凝固作用は、ヘパリンナトリウムと同様にアンチトロンビンⅢ(ATⅢ)を介する間接作用によるものです。パルナパリンナトリウムはATⅢの活性型血液凝固第X因子(Xa)、トロンビンとの結合反応を促進しますが、ヘパリンナトリウムに比してよりXaへの選択性が高いことが示唆されています。

 

イヌ血液透析モデルにおける研究では、パルナパリンナトリウムを開始時に単回静脈内投与すると、同一抗第Xa因子活性のヘパリンナトリウムよりも長時間、血液凝固阻止作用を示すことが確認されています。このとき、血漿中抗第Xa因子活性の半減期はヘパリンナトリウムの1.5倍であり、持続的な抗凝固効果が期待できます。

 

薬物動態については、35Sで標識したパルナパリンナトリウムを雄ラットに1mg/kgを静脈内投与した実験で、投与後5分にほとんどの組織で最高濃度となり、特に腎臓で高い放射能が認められています。

 

パルナパリンナトリウムの臨床効果と適応

パルナパリンナトリウムは主に血液透析時の抗凝固剤として使用されます。透析用として100単位/mL、150単位/mL、200単位/mL、500単位/mLの各濃度の製剤が利用可能です。

 

用法・用量は患者の出血性病変の有無により異なります。出血性病変又は出血傾向を有しない患者の場合と、出血性病変又は出血傾向を有する患者の場合で投与量が調整されます。

 

臨床試験における有効率は93%と報告されており、副作用は報告されていませんでした。この高い有効率は、パルナパリンナトリウムの優れた抗凝固効果を示しています。

 

薬物動態パラメータを見ると、用量依存的に血中濃度が上昇し、20U/kg投与時のAUCは49.00±3.10 anti-Xa U・min/mL、80U/kg投与時では241.92±31.36 anti-Xa U・min/mLとなっています。半減期も用量依存的に延長し、20U/kgで84.30±6.00分、80U/kgで146.42±7.88分となっています。

 

パルナパリンナトリウムの重大な副作用

パルナパリンナトリウムの使用において最も注意すべき重大な副作用は、血小板減少とショック・アナフィラキシーです。

 

血小板減少(頻度不明)
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT:heparin-induced thrombocytopenia)等の著明な血小板減少があらわれることがあります。HITは免疫学的機序により発症し、血小板数の著明な減少とともに血栓症を合併する可能性があります。そのため、本剤投与後は血小板数を測定し、血小板数の著明な減少や血栓症を疑わせる異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行う必要があります。

 

ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)
血圧低下、意識低下、呼吸困難、チアノーゼ麻疹等の異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うことが重要です。これらの症状は生命に関わる可能性があるため、投与中は十分な観察が必要です。

 

医療従事者は、これらの重大な副作用の初期症状を見逃さないよう、患者の状態を継続的に監視する必要があります。特に透析開始時や投与量変更時には、より注意深い観察が求められます。

 

パルナパリンナトリウムのその他の副作用と注意点

パルナパリンナトリウムには重大な副作用以外にも、様々な副作用が報告されています。

 

血液系の副作用

  • 0.1~5%未満:点状出血、貧血
  • 頻度不明:鼻出血

過敏症

  • 頻度不明:そう痒感、発疹

    これらの症状が現れた場合には投与を中止する必要があります。

     

皮膚系の副作用

  • 頻度不明:脱毛、白斑、出血性皮膚壊死

    出血性皮膚壊死は類薬(ヘパリンナトリウム等)で報告されている重篤な皮膚反応です。

     

肝機能への影響

  • 0.1~5%未満:AST上昇、ALT上昇、Al-P上昇、LDH上昇

    定期的な肝機能検査により監視が必要です。

     

長期投与時の副作用

  • 頻度不明:骨粗鬆症、低アルドステロン

    これらは類薬(ヘパリンナトリウム等)で報告されており、長期使用時には骨密度や電解質バランスの監視が重要です。

     

その他の副作用

  • 0.1~5%未満:胸部圧迫感、両頬のつっぱり感、頭痛、動悸

これらの副作用は比較的軽微ですが、患者のQOLに影響を与える可能性があるため、症状の有無を定期的に確認することが大切です。

 

パルナパリンナトリウムの禁忌と慎重投与

パルナパリンナトリウムには絶対的禁忌と相対的禁忌があり、投与前の十分な評価が必要です。

 

絶対的禁忌

  1. パルナパリンナトリウムに対し過敏症状又は過敏症の既往歴のある患者
  2. 妊婦又は妊娠している可能性のある女性

慎重投与(投与しないことが望ましい患者)

  1. 高度出血症状を有する患者:出血症状を助長する恐れがあります
  2. 重篤な肝障害又はその既往歴のある患者:肝障害を助長する恐れがあります
  3. ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の既往歴のある患者:投与が必要な場合は、本剤投与後は血小板数を測定する必要があります

重要な基本的注意事項
脊椎・硬膜外麻酔との併用あるいは腰椎穿刺との併用等により、穿刺部位血腫が生じ、神経の圧迫による麻痺があらわれるおそれがあります。併用する場合には神経障害の徴候及び症状について十分注意し、異常が認められた場合には直ちに適切な処置を行う必要があります。

 

また、HITがあらわれることがあるので、本剤投与後は血小板数を測定することが重要です。血小板数の推移を継続的に監視し、異常な減少が認められた場合には速やかに対応する必要があります。

 

パルナパリンナトリウムと他薬剤との相互作用

パルナパリンナトリウムは多くの薬剤と相互作用を示すため、併用薬の確認と適切な管理が重要です。

 

出血傾向を増強する薬剤

  • 抗凝固剤:本剤の抗凝固作用と血液凝固因子の生合成阻害作用により相加的に出血傾向が増強されます
  • 血栓溶解剤(ウロキナーゼ、t-PA製剤等):本剤の抗凝固作用とフィブリン溶解作用により相加的に出血傾向が増強されます
  • サリチル酸誘導体(アスピリン等):本剤の抗凝固作用と血小板凝集抑制作用により相加的に出血傾向が増強されます
  • 血小板凝集抑制作用を有する薬剤(ジピリダモール、チクロピジン塩酸塩等):同様の機序で出血傾向が増強されます
  • 非ステロイド性消炎剤:本剤の抗凝固作用と血小板機能阻害作用により、出血の危険性が増大します
  • 糖質副腎皮質ホルモン剤:副腎皮質ホルモン剤の消化器系の副作用により、出血の危険性が増大する可能性があります
  • デキストラン:本剤の抗凝固作用と血小板凝集抑制作用により相加的に出血傾向が増強されます

本剤の作用に影響を与える薬剤

  • テトラサイクリン系抗生物質、強心配糖体(ジギタリス製剤):本剤の作用が減弱することがあります(機序は不明)
  • 筋弛緩回復剤(スガマデクスナトリウム):本剤の抗凝固作用が増強されるおそれがあるので、患者の状態を観察するとともに血液凝固に関する検査値に注意が必要です
  • アンデキサネット アルファ(遺伝子組換え):本剤の抗凝固作用が減弱し、ヘパリン抵抗性を示すことがあります

これらの相互作用を考慮し、併用薬がある場合は投与量の調整や追加の監視が必要になる場合があります。特に出血リスクが高まる併用については、定期的な凝固機能検査と臨床症状の観察が重要です。

 

医療従事者向けの詳細な薬剤情報については、以下のリンクが参考になります。
KEGG医薬品データベース - パルナパリンNa詳細情報
パルナパリンナトリウムの適切な使用により、血液透析患者の安全で効果的な治療が可能になります。しかし、その一方で重篤な副作用のリスクも存在するため、医療従事者は十分な知識と注意深い観察により、患者の安全を確保する必要があります。