パロモマイシン硫酸塩(商品名:アメパロモ)は、アミノグリコシド系抗生物質に分類される腸管アメーバ症治療剤です。本薬剤の最大の特徴は、経口投与時に消化管からほとんど吸収されない点にあります。健康成人にパロモマイシン硫酸塩4g(力価)を経口投与した際の12時間までの尿中排泄率は0.53%と極めて低く、血清中濃度も最高で1.48μg/mLと低値を示します。
この薬物動態学的特性により、パロモマイシン硫酸塩は腸管腔内で高濃度を維持し、赤痢アメーバの原虫および嚢子(シスト)に対して効果的に作用します。作用機序としては、原虫細胞内のリボソームの30Sサブユニットと結合し、遺伝コードの解読を不完全にさせることでタンパク質合成を阻害し、殺原虫効果を発揮します。
国内外のガイドラインにおいて、パロモマイシン硫酸塩は腸管アメーバ症の標準治療薬の一つとして位置づけられており、特にニトロイミダゾール系薬剤の後に続けて使用する薬剤、またはシストキャリアに単独で使用する薬剤として長年使用されています。
パロモマイシン硫酸塩の副作用は、重大な副作用とその他の副作用に分類されます。重大な副作用として、腎障害と第8脳神経障害が挙げられます。
重大な副作用:
その他の副作用(頻度不明):
特に注意すべき点として、本剤は消化管からほとんど吸収されないものの、一般にアミノグリコシド系抗生物質では回転性めまい、難聴等の第8脳神経障害があらわれることがあるため、慎重な投与が必要です。特に腎機能障害患者、高齢者、腸病変を有する患者では血中濃度が高まる可能性が考えられ、より注意深い観察が求められます。
パロモマイシン硫酸塩の標準的な用法・用量は、通常成人にはパロモマイシン硫酸塩1500mg(力価)を1日3回に分けて10日間、食後に経口投与します。この用量設定は、これまで熱帯病治療薬研究班によって国内症例に使用されてきた実績と、国内外の臨床試験データに基づいて決定されています。
投与上の重要な注意点:
📋 禁忌事項
📋 併用注意薬剤
本剤は腸内原虫及びシスト(嚢子)に対してのみ活性を有するため、腸管外アメーバ症の治療には使用できません。肝膿瘍などの腸管外アメーバ症に対しては、メトロニダゾールやチニダゾールなどのニトロイミダゾール系薬剤が選択されます。
腸管アメーバ症の治療において、パロモマイシン硫酸塩は他の抗アメーバ薬と異なる特徴を有しています。治療薬は大きく組織アメーバ殺虫剤と殺管腔アメーバ剤に分類されます。
組織アメーバ殺虫剤(ニトロイミダゾール系):
殺管腔アメーバ剤:
この特性の違いにより、パロモマイシン硫酸塩は特にシスト除去において重要な役割を果たします。無症候性のシストキャリアは再発の機会を持ち続け、他者に対する感染源にもなり続けるため、シストの完全な除去は公衆衛生上極めて重要です。
パロモマイシン硫酸塩の薬物動態は、その治療効果と安全性プロファイルを理解する上で重要です。健康成人10例にパロモマイシン硫酸塩4g(力価)を経口投与した薬物動態試験では、投与後2時間に平均最高血清中濃度1.48μg/mLに達した後、12時間後には定量限界付近まで減少しました。
この低い血中濃度は、本薬剤が消化管からほとんど吸収されないことを示しており、全身への影響を最小限に抑えながら、腸管腔内で赤痢アメーバに対して高濃度で作用できることを意味します。この特性により、組織移行性の高いニトロイミダゾール系薬剤では除去困難なシストに対しても効果的な治療が可能となります。
国内においては、パロモマイシン製剤は1960年代から1990年代にかけて細菌性赤痢等を適応症として承認・販売されていましたが、その後承認が整理されたため、長期間使用できない状況がありました。しかし、厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」における検討を経て、2010年12月に開発要請を受け、2013年4月に販売が開始されました。
現在、パロモマイシン製剤は欧州を含む17カ国において承認販売されており、国際的にも腸管アメーバ症の標準治療薬として確立された地位を有しています。
日本感染症学会の治療ガイドラインにおける腸管アメーバ症の治療方針
https://www.kansensho.or.jp/guidelines/
厚生労働省による寄生虫疾患に関する情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/index.html
医療従事者にとって、パロモマイシン硫酸塩は腸管アメーバ症治療において不可欠な薬剤であり、その特徴的な薬物動態と副作用プロファイルを十分に理解した上で、適切な患者選択と慎重な観察のもとで使用することが重要です。特に、アミノグリコシド系抗生物質としての聴器毒性や腎毒性のリスクを念頭に置きながら、患者の背景因子を十分に評価して治療を行う必要があります。