塩化ツボクラリンは、ツヅラフジ科の樹皮から得られる天然の矢毒クラーレの主成分として知られています。この薬物は、神経筋接合部の終板に存在するニコチン性アセチルコリン受容体(Nm受容体)に対して競合拮抗薬として作用します。
参考)https://www-yaku.meijo-u.ac.jp/Research/Laboratory/chem_pharm/mhiramt/EText/Pharmacol/Pharm-II02-7.html
競合拮抗のメカニズム。
参考)http://www.pharm.kobegakuin.ac.jp/~bunseki/83kokusi/A83127.html
ツボクラリンの分子構造は四級アンモニウム化合物であり、この特徴により消化管からの吸収が極めて悪く、経口投与では無効となります。このため、静脈内投与でのみ効果を発揮します。
スキサメトニウム(サクシニルコリン)は、アセチルコリン2分子が結合した構造を持つ特殊な筋弛緩薬です。この薬物は1949年に開発され、現在でも迅速導入において重要な役割を果たしています。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%AD%8B%E9%81%AE%E6%96%AD%E8%96%AC
脱分極性遮断の二相性機序。
第Ⅰ相(脱分極性遮断):
参考)https://anesth.or.jp/files/pdf/publication4-6_20180427s.pdf
第Ⅱ相(競合拮抗様遮断):
参考)http://pharmacol.pha.nihon-u.ac.jp/sozai/picture/periferal.pdf
スキサメトニウムは血漿コリンエステラーゼによりコリンとコハク酸に分解され、極めて短時間で代謝されます。
ツボクラリンの薬物動態は、その臨床応用において重要な特徴を示します。作用持続時間は約30分と比較的長く、この特性が外科手術における長時間の筋弛緩維持に適している理由です。
代謝と排泄の特徴。
拮抗薬との相互作用における重要なポイントとして、ツボクラリンはコリンエステラーゼ阻害薬(ネオスチグミン、フィゾスチグミン)との併用により作用が減弱されます。これは競合拮抗薬の特徴であり、アセチルコリン濃度を増加させることで競合関係を変化させるためです。
興味深い事実として、ツボクラリンは分子の長さが約1.8nmと非常に特徴的な構造を持ち、この硬い分子構造が受容体との結合特性を決定しています。
スキサメトニウムの最大の特徴は、全ての筋弛緩薬の中で最短の効果時間(1-5分)と迅速な作用発現時間を併せ持つことです。この特性により、現在でも特定の臨床状況において不可欠な薬物となっています。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%82%B5%E3%83%A1%E3%83%88%E3%83%8B%E3%82%A6%E3%83%A0
臨床的に必要とされる状況。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2007/P200700034/53018500_21900AMY00035_G100_1.pdf
血漿コリンエステラーゼによる代謝の特異性。
スキサメトニウムは血漿中の偽コリンエステラーゼ(血漿コリンエステラーゼ)により分解されますが、稀に遺伝的にこの酵素の活性が低い患者では作用時間が異常に延長することがあります。この現象は「偽コリンエステラーゼ欠損症」として知られ、数時間にわたって筋弛緩が持続する可能性があります。
プロカインとの相互作用も注目すべき点で、プロカインも同じ酵素で分解されるため、併用時にはスキサメトニウムの分解が遅延し、筋弛緩作用が増強されます。
両薬物の副作用プロファイルは、それぞれの作用機序と密接に関連しており、臨床使用時の選択基準となる重要な要素です。
ツボクラリンの主要副作用:
ツボクラリンのヒスタミン遊離作用は、肥満細胞からのヒスタミン放出を促進し、これが血管拡張と血圧低下を引き起こします。この作用は用量依存的で、急速静注時により顕著に現れます。
スキサメトニウムの複雑な副作用:
悪性高熱症は致死率の高い重篤な合併症で、遺伝的素因を持つ患者(特にライアノジン受容体やDHPR受容体の変異)において発症リスクが高まります。この合併症の存在により、代替薬が使用可能な状況では避けられることもあります。
興味深い副作用として、スキサメトニウム投与後に観察される線維束性攣縮は、患者によっては非常に強い筋肉痛を残すことがあり、特に若い男性や筋肉量の多い患者で顕著です。