パリビズマブの効果と副作用:RSV感染症予防の重要性

パリビズマブ(シナジス)は早産児や慢性肺疾患児のRSV感染症重症化を予防する重要な薬剤です。その効果的な使用法と注意すべき副作用について、医療従事者が知っておくべき情報をまとめました。適切な投与により重篤な合併症を防げるのでしょうか?

パリビズマブの効果と副作用

パリビズマブの基本情報
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薬剤の特徴

RSウイルスFタンパク質に特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体

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投与対象

早産児、慢性肺疾患児、先天性心疾患児などのハイリスク患者

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重要な注意点

アナフィラキシーショックや血小板減少などの重大な副作用に注意

パリビズマブの作用機序と効果

パリビズマブは、RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)が宿主細胞に感染する際に重要な役割を果たすFタンパク質に特異的に結合することにより中和活性を示し、RSVの複製(増殖)を抑制する抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体製剤です。

 

この剤の効果は、複数の大規模臨床試験で実証されています。IMpact-RSV試験では、パリビズマブ投与群でRSウイルス感染による入院患者数が4.8%(48/1,002例)であったのに対し、プラセボ投与群では10.6%(53/500例)と、約半分に減少させる効果が確認されました。

 

特に注目すべきは、早産児における効果です。早産児では、パリビズマブ投与群で1.8%(9/506例)の入院率であったのに対し、プラセボ群では8.1%(19/234例)と、より顕著な予防効果が示されています。

 

パリビズマブの薬物動態については、体重1kgあたり15mgを月1回筋肉内投与することで、投与30日後の平均血清中濃度が目標とされる30μg/mL以上を維持できることが確認されています。この血中濃度の維持により、RSウイルス流行期を通じて継続的な予防効果が期待できます。

 

パリビズマブの重大な副作用と対処法

パリビズマブの使用において最も注意すべき重大な副作用は、ショック・アナフィラキシーです。これらの症状は頻度不明とされていますが、チアノーゼ、冷汗、血圧低下、呼吸困難、喘鳴、頻脈等が現れた場合には直ちに投与を中止し、エピネフリン(1:1000)の投与による保存的治療等の適切な処置を行う必要があります。

 

血小板減少も重大な副作用として挙げられており、定期的な血液検査による監視が重要です。特に血小板減少症により出血傾向がある患者や、その他の凝固障害により出血傾向等のある患者では、止血を確認できるまで投与部位を押さえるなど慎重な投与が求められます。

 

筋肉内注射による筋拘縮症の発現リスクも報告されています。過去に抗生物質等の筋肉内注射により筋拘縮症が発現した事例があるため、投与に際しては適用上の注意を守り、特に組織、神経に対する影響には十分注意しながら慎重に投与することが必要です。

 

体外循環による手術を行った場合、パリビズマブの血中濃度が有意に低下することが報告されています。手術後もRSV感染予防が必要な乳幼児に対しては、術後の状態が安定した時点で直ちに本剤を投与することが望ましいとされています。

 

パリビズマブの一般的な副作用と頻度

パリビズマブの一般的な副作用について、頻度別に整理すると以下のようになります。
0.1%以上の副作用

  • 精神神経系:神経過敏
  • 消化器:下痢、嘔吐
  • 呼吸器:喘鳴、呼吸困難、咳、上気道感染、鼻炎、鼻漏
  • 血液:白血球減少
  • 皮膚:発疹
  • 肝臓:肝機能検査値異常
  • その他:発熱、注射部位反応、疼痛、ウイルス感染

0.1%未満の副作用

  • 精神神経系:傾眠
  • 循環器:不整脈、頻脈、徐脈
  • 呼吸器:肺炎、細気管支炎
  • 皮膚:真菌性皮膚炎、湿疹
  • その他:悪寒、哺乳障害、中耳炎

頻度不明の副作用

  • 精神神経系:痙攣

IMpact-RSV試験では、薬剤との因果関係が否定できない有害事象発症はパリビズマブ群で10.9%であり、重篤な有害事象はパリビズマブ群で13例に14件発現し、最も頻度の高かったものは発熱でした。しかし、薬剤に関連する可能性のある有害事象発症は身体系別にみてパリビズマブ群、プラセボ群で同等であり、安全性が示されています。

 

日本での検討においても、Kusudaらによるファーストシーズンの調査では、臨床的に有意な副作用の報告はなく、早産児およびBPDの児におけるパリビズマブの安全性が確認されています。

 

パリビズマブ投与時の特殊な注意事項

パリビズマブの投与において、医療従事者が特に注意すべき点がいくつかあります。

 

まず、RSウイルス検査への影響です。パリビズマブはRSウイルス検査のうち、ウイルス抗原検出およびウイルス培養を測定原理とする検査に干渉し、偽陰性になるおそれがあります。これは診断に重要な影響を与える可能性があるため、検査実施前に投与歴を確認することが重要です。

 

注射量が1mLを超える場合には分割して投与する必要があります。これは筋肉内注射による局所反応を軽減するための重要な配慮です。

 

NICU・GCUから退院する児にパリビズマブを投与する場合には、投与後の薬剤の血中濃度の上昇に必要な時間を考慮して、退院3日前までに投与することが推奨されています。また、初回投与後は、薬剤の有効血中濃度の維持期間が2回目以降の投与に比べて短いため、NICU退院後の投与は、初回投与からの間隔を短くすることが推奨されます。

 

ダウン症候群の患児では、血清中ニルセビマブ濃度が低い被験者が認められることが報告されており、より慎重な経過観察が必要とされています。

 

パリビズマブの適応拡大と新たな知見

近年、パリビズマブの適応は従来の早産児や慢性肺疾患児に加えて、より幅広い患者群に拡大されています。

 

先天性心疾患児においては、血行動態に異常のあるCHD児におけるパリビズマブの有効性ならびに安全性が確認されており、佐地らによる先天性心疾患児へのパリビズマブ投与の報告では、108例中5例に9件の有害事象が発生していましたが、不機嫌ならびに呼吸困難以外の有害事象については薬剤との直接的な因果関係は主治医の判断で否定されており、良好な忍容性が期待できるとの結論が示されています。

 

免疫不全児やダウン症候群においても、RSV感染症が重症化するリスクが高いため、パリビズマブによる重症化予防が考慮されています。特に、リンパ球減少あるいはT細胞減少を呈する患者では、月齢により基準値が異なりますが、リンパ球数は概ね2,000/mm³以下、T細胞数は概ね基準値以下の場合に投与が検討されます。

 

先天性神経・筋疾患や先天性代謝異常症を有する患児についても、RSV感染症の重症化リスクを有すると考えられるため、生後24か月齢以下で、パリビズマブによる重症化予防が考慮されています。

 

また、解剖学的または生理的・機能的異常として、顕著な巨舌、舌根沈下、気道軟化症などによる気道狭窄および合併する無呼吸、肺高血圧、肺低形成・異形成、肺気腫様変化を有する患児も投与対象となっています。

 

新生児室(NICU・GCU)でのRSV感染対策においても、パリビズマブの役割は重要です。RSVは、NICU・GCUで伝播し早産児等の入院中のハイリスク児に重篤な感染症を引き起こすことがあるため、入院中のハイリスク児へのRSV感染予防対策の一環として位置づけられています。

 

これらの適応拡大により、より多くの高リスク患児がRSV感染症の重症化から保護されることが期待されており、医療従事者はこれらの新しい適応基準を理解し、適切な患者選択を行うことが求められています。

 

日本小児科学会によるパリビズマブ使用ガイドライン