新型コロナウイルスのPCR検査において、偽陰性の発生確率は感染時期によって大きく変動します。東京大学保健・健康推進本部の報告によると、コロナ感染者がPCR検査で陽性と出る確率は約70%程度とされており、残り30%の感染者が偽陰性となる可能性があります。
参考)検査/東京大学 保健センター
ジョンズ・ホプキンズ大学の研究では、より詳細な偽陰性率の変化が報告されています。感染1日目では偽陰性率が100%と最も高く、感染4日目でも67%という高い値を示します。発症日(感染5日目)における偽陰性率は38%まで低下しますが、依然として3人に1人以上が見逃される可能性があります。
参考)「PCR検査陽性」=「新型コロナ感染者」?
感染8日目(発症から3日目)において偽陰性率は20%と最低値を記録し、この時期が最も検査精度が高くなります。その後、感染9日目から再び偽陰性率が上昇し、感染21日目には66%まで増加することが確認されています。この変動パターンは、体内のウイルス量の変化と密接に関連しています。
新型コロナウイルスの抗原検査は、PCR検査と比較してさらに高い偽陰性率を示すことが知られています。発症直後の迅速抗原検査では、偽陰性率が最大で92%に達するという報告があります。これは、発症初期においてウイルス量が十分でない場合に検出が困難となるためです。
参考)新型コロナの抗原検査は発症から2日目以降に実施すべき
抗原検査の感度は91.4%と報告されていますが、これは適切な検体採取と検査実施条件下での値です。実際の臨床現場では、検体採取の方法や検査実施のタイミングによって偽陰性率が変動する可能性があります。特に無症状者や発症から2日以内の患者では、偽陰性の可能性が高くなることが示されています。
参考)新型コロナウイルス抗原検査の精度と陽性・陰性の対応について解…
興味深い点として、デルタ株やオミクロン株などの変異株においても、抗原検査の精度に大きな変化は見られないことがWHOから報告されています。これは、検査キットが標的とする抗原部位が変異の影響を受けにくい領域であることを示しています。
新型コロナウイルス検査の精度を理解するためには、感度と特異度の概念が重要です。感度とは、実際に感染している人を正しく陽性と判定する確率を指し、PCR検査では70-80%とされています。これは、100人の感染者のうち70-80人が正しく陽性と判定されることを意味します。
参考)陽性のときは絶対に感染している?陰性なら絶対安心?
特異度は、実際に感染していない人を正しく陰性と判定する確率で、PCR検査では99.9%と非常に高い値を示します。この高い特異度により、偽陽性(感染していないのに陽性と判定される)の発生率は極めて低く抑えられています。しかし、感度が100%でないため、偽陰性の問題は避けられません。
参考)万能とは言えないCOVID―19検査
検査精度は検体採取の方法にも大きく左右されます。鼻咽頭からの検体採取が最も高い検出率を示し、鼻腔検体、唾液検体の順に検出感度が低下する傾向があります。適切な検体採取技術と検査実施時期の選択が、偽陰性率を最小限に抑える鍵となります。
参考)https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_byougentaikensa_201002.pdf
単回の検査で見逃される感染者を検出するため、複数回検査の実施が推奨される場合があります。理論的計算によると、1回目の検査で陰性であった場合でも30%の確率で偽陰性の可能性があり、2回陰性であっても9%の確率で感染者である可能性が残ります。3回連続で陰性となった場合でも、2.7%のコロナ患者が偽陰性と判定される可能性があることが示されています。
参考)http://mtk-cl.com/pdf/CoronavirusVer16.pdf
複数回検査の効果は、検査間隔と検体採取方法によっても変わります。最初の検査から24-48時間の間隔を置いて再検査を実施することで、ウイルス量の変動を捉えやすくなります。ただし、唾液検査を用いた場合、さらに偽陰性の確率が高まることも報告されており、検査方法の選択も重要な要素となります。
医療現場では、症状の持続や疫学的リスクを総合的に評価し、必要に応じて追加検査を実施する判断が求められます。検査結果のみに依存せず、臨床症状や曝露歴を含めた包括的な評価が、偽陰性による見逃しを防ぐ重要なアプローチとなっています。
偽陰性が発生する主要なメカニズムとして、体内のウイルス動態と免疫反応の相互作用があります。感染初期では、ウイルスが細胞内で増殖を開始したばかりで、検体採取部位にウイルスが十分に存在しない状態が生じます。この時期は、ウイルス量が検査の検出限界以下であるため、実際に感染していても陰性結果となる可能性が高くなります。
ウイルスの増殖パターンは感染部位によっても異なります。上気道での増殖が活発な時期と下気道での増殖が主体となる時期では、鼻咽頭検体でのウイルス検出率が変化します。また、個人の免疫状態や基礎疾患の有無によってもウイルスクリアランスの速度が異なるため、同じ感染日数でも偽陰性率に個人差が生じることが知られています。
興味深い現象として、回復期における偽陰性の増加があります。感染後期では免疫システムがウイルスを抑制し始めるため、間欠的にウイルスが検出されない状況が発生します。この時期の検査では、検体採取のタイミングによって結果が大きく左右されるため、臨床症状との整合性を慎重に評価する必要があります。
偽陰性の存在を踏まえると、検査結果の解釈には高度な臨床判断が求められます。症状が典型的である場合、検査が陰性であっても感染の可能性を完全に否定することはできません。特に、発熱、咳、味覚・嗅覚障害などの特徴的症状が存在する場合には、追加検査や経過観察が必要となることがあります。
疫学的リスクの評価も重要な判断要素です。濃厚接触者や集団感染の発生場所にいた場合、検査が陰性であっても感染リスクは高い状態が継続します。このような状況では、検査の偽陰性率を考慮した行動制限や追加検査の検討が推奨されます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/000843685.pdf
医療従事者は、患者の症状の経過と検査結果を総合的に評価し、必要に応じて他の診断方法との組み合わせを検討します。胸部CT検査や血液検査所見なども参考にしながら、感染の可能性を多角的に評価することが、偽陰性による診断の見逃しを防ぐ重要なアプローチとなっています。