パノビノスタット乳酸塩(商品名:ファリーダック)は、ケイ皮ヒドロキサム酸の化合物クラスに分類される新規構造を有するヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤です。この薬剤は、クラスI、II、IVのHDACアイソフォームに対して強力な阻害活性を示します。
HDACの阻害により、ヒストンおよび非ヒストンタンパク質のアセチル化レベルが上昇し、以下のような抗腫瘍効果を発揮します。
特に多発性骨髄腫においては、プロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブとの併用により相乗効果が期待されます。骨髄腫細胞がプロテアソーム阻害に対してアグリソーム経路を活性化する際にもHDACが関与するため、パノビノスタットによる阻害が有効に働きます。
パノビノスタット乳酸塩は、「再発または難治性の多発性骨髄腫」に対する効能・効果が承認されています。適応となる患者は、少なくとも1つの標準的な治療が無効、または治療後に再発した患者に限定されます。
国際共同第III相試験「PANORAMA-1」では、1~3レジメンの前治療歴を有する多発性骨髄腫患者768例を対象に実施されました。主要な臨床効果は以下の通りです。
無増悪生存期間(PFS)の延長
腫瘍縮小効果の向上
この結果により、既存治療に対する耐性を克服し、QOLを維持しながら生存期間の延長を目指す上で、新たな作用機序を持つパノビノスタットの意義は大きいと評価されています。
パノビノスタット乳酸塩の副作用は、日本人18例を含む381例中345例(90.6%)に認められており、高頻度で発現することが特徴です。主要な副作用とその発現頻度は以下の通りです。
血液学的副作用
消化器系副作用
その他の副作用
これらの副作用の多くは、パノビノスタットまたはボルテゾミブの単剤投与でも報告されている事象であり、適切な処置により管理可能とされています。ただし、血小板減少症に関連する出血、好中球減少症に関連する感染症、発現頻度の高い下痢、悪心、嘔吐、およびQT延長は特に注意が必要です。
パノビノスタット乳酸塩には、生命に関わる重篤な副作用が報告されており、適切な管理と監視が必要です。
骨髄抑制
骨髄抑制は最も重要な副作用の一つで、以下の管理が必要です。
QT延長
心電図異常として現れるQT延長は、HDAC阻害剤特有のリスクです。
その他の重要な潜在的リスク
臨床試験データから、以下の潜在的リスクも特定されています。
これらのリスクを踏まえ、本剤は「緊急時に十分対応できる医療施設で、造血器悪性腫瘍の治療に十分な知識・経験を持つ医師」のみが投与できる制限があります。
パノビノスタット乳酸塩の投与には、独特な用法・用量スケジュールと綿密な患者管理が必要です。
用法・用量
治療開始時の管理
治療開始前には以下の準備が必要です。
副作用管理の実践
実際の臨床現場では、以下のような管理が推奨されます。
アドヒアランス向上策
複雑な投与スケジュールのため、患者教育が重要です。
治験データでは、D2308試験においてパノビノスタット群で発現した事象による治験治療中止率は各事象とも5%未満であり、適切な管理により継続可能な治療であることが示されています。
厚生労働省の承認に関する詳細情報
PMDA承認審査報告書
多発性骨髄腫の治療戦略に関する情報
オンコロ - 多発性骨髄腫治療情報