パンクレリパーゼ(リパクレオン®)は、膵外分泌機能不全における膵消化酵素の補充を目的とした治療薬です。本剤は健康なブタの膵臓から抽出・精製された高力価のアミラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼを含有しており、日局パンクレアチンと比較して単位重量あたりリパーゼで約8倍、プロテアーゼで約7倍、アミラーゼで約6倍の力価を有しています。
膵外分泌機能不全は、慢性膵炎、膵切除、膵嚢胞線維症などにより膵臓の外分泌機能が低下し、膵酵素が欠乏することで起こる消化吸収障害です。この病態では脂肪、タンパク質、炭水化物の消化吸収が困難となり、脂肪便、下痢、栄養障害、体重減少などの症状が現れます。
国内第III相試験では、非代償期の慢性膵炎または膵切除を原疾患とする膵外分泌機能不全患者を対象とした二重盲検比較試験において、パンクレリパーゼ1,800mg/日投与群で脂肪吸収率が27.4±19.6%改善し、プラセボ群の8.5±27.5%と比較して有意な改善が認められました。
パンクレリパーゼの副作用は比較的軽微で、その多くが1~5%未満の頻度で発現します。国内長期投与試験では、副作用発現頻度は47.5%(38/80例)でした。
主な副作用とその発現頻度:
パンクレリパーゼの投与にあたっては、いくつかの重要な注意事項があります。
禁忌事項:
重要な基本的注意:
海外において、高用量のパンクレアチン製剤を服用している膵嚢胞線維症患者で、回盲部狭窄及び大腸狭窄(線維化性結腸疾患)が報告されています。特に膵嚢胞線維症による膵外分泌機能不全患者に対し、1日体重1kg当たりパンクレリパーゼとして150mgを超えた用量を投与する場合は注意が必要です。
用法・用量の調整:
通常、パンクレリパーゼとして1回600mgを1日3回、食直後に経口投与します。用法及び用量の調整に際しては、患者の年齢、体重、食事量、食事内容、食事回数等を考慮することが重要です。
パンクレリパーゼの臨床効果は、複数の国内臨床試験で確認されています。膵嚢胞線維症を原疾患とする膵外分泌機能不全患者5例(6~16歳)を対象とした国内第II/III相試験では、各患者の至適用量(60~139mg/kg)である900~3,600mg/日を48週間投与した結果、いずれの症例も脂肪吸収率の改善が認められました。
長期使用における安全性についても良好な結果が得られています。市販後の使用実態下において、パンクレリパーゼ900mg/日または1800mg/日を服用した膵外分泌機能不全患者を対象とした特定使用成績調査では、糖尿病の有無別および投与量別に安全性と有効性が評価されました。
特筆すべき効果:
本剤は腸溶性コーティングされており、胃内での失活を防ぎ、十二指腸に排出されるのに最適な粒径に設計されています。これにより、効率的に膵外分泌機能不全患者の消化・吸収を促進し、栄養状態を改善することが期待されています。
医療従事者として、パンクレリパーゼの適切な使用と患者指導において重要なポイントがあります。
患者指導のポイント:
食直後の服用が必須であることを強調し、食事と同時または食事開始から30分以内の服用を指導します。これは消化酵素が食物と効率的に混合されるために重要です。
消化器症状(便秘、下痢、腹痛)や全身症状(発熱、倦怠感)が現れた場合の対応について説明し、症状が持続する場合は速やかに受診するよう指導します。
患者の食事内容、食事量、症状の改善度に応じて用量調整が必要であることを説明し、定期的な評価の重要性を伝えます。
モニタリング項目:
興味深いことに、パンクレリパーゼは日本では比較的新しい治療選択肢ですが、欧米では既に80カ国以上で「Creon®」または「Kreon®」の製品名で販売されており、膵外分泌機能不全の標準的治療として確立されています。
また、本剤の特徴として、従来の日局パンクレアチンと比較して高力価であることが挙げられます。これにより、服用する錠数やカプセル数を減らすことができ、患者のアドヒアランス向上にも寄与することが期待されます。
医療従事者として、パンクレリパーゼの適切な使用により、膵外分泌機能不全患者のQOL向上と栄養状態の改善を図ることができる重要な治療選択肢として位置づけることが大切です。