パチロマーソルビテクスカルシウムの効果と副作用を解説

高カリウム血症治療薬パチロマーソルビテクスカルシウム(ビルタサ)の作用機序、効果、副作用について詳しく解説。従来薬との違いや注意点も含めて、臨床現場で知っておくべき情報をまとめました。

パチロマーソルビテクスカルシウムの効果と副作用

パチロマーソルビテクスカルシウムの基本情報
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薬剤概要

高カリウム血症治療薬として2024年9月承認、2025年3月発売の新薬

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作用機序

消化管内でカリウムを吸着し、糞中排泄を促進する非吸収性ポリマー

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主な注意点

便秘、低カリウム血症、薬物相互作用に注意が必要

パチロマーソルビテクスカルシウムの基本情報と承認経緯

パチロマーソルビテクスカルシウム(商品名:ビルタサ懸濁用散分包)は、2024年9月24日に高カリウム血症を効能・効果として承認された新しい治療です。ゼリア新薬工業が製造販売承認を取得し、2025年3月24日から販売が開始されました。

 

この薬剤は、米国、カナダ、ヨーロッパ諸国など世界41カ国で既に承認されており、海外では「Veltassa」の名称で販売されています。日本では、CSL Viforとの独占的開発および販売契約に基づき臨床試験が実施され、2023年9月に製造販売承認申請が行われました。

 

パチロマーソルビテクスカルシウムは、カルシウム塩とD-ソルビトールを含む非吸収性の陽イオン吸着ポリマーとして設計されています。通常、成人には8.4gを開始用量とし、水で懸濁して1日1回経口投与します。血清カリウム値や患者の状態に応じて適宜増減しますが、最高用量は1日1回25.2gとされています。

 

薬価については、8.4g1包あたり949.50円で収載されており、高カリウム血症治療薬としては比較的高価格帯に位置しています。

 

パチロマーソルビテクスカルシウムの作用機序と効果

パチロマーソルビテクスカルシウムの作用機序は、消化管内腔でのカリウム吸着による糞中カリウム排泄の増加です。本剤は消化管内腔のカリウムと結合することにより、糞中カリウム排泄量を増加させ、消化管内腔の遊離カリウムの濃度を低下させることで血清カリウム値を低下させます。

 

臨床試験データによると、高カリウム血症患者に本剤をパチロマーとして1回8.4gを1日2回2日間反復経口投与したところ、血清カリウム値は投与開始後7時間から有意な低下を示しました。この迅速な効果発現は、臨床現場において重要な特徴といえます。

 

健康成人を対象とした用量設定試験では、パチロマーカルシウムを1日量2.52g、12.6g、25.2g、50.4gを1日3回に分けて8日間反復経口投与した結果、用量依存的に糞中カリウム排泄量が増加し、尿中カリウム排泄量が低下することが確認されています。

 

興味深いことに、健康成人では血清カリウム値に変化は認められませんでした。これは、本剤が正常なカリウム値を持つ患者に対して過度な低下を引き起こさないことを示唆しており、安全性の観点から重要な知見です。

 

また、本剤は主に結腸管腔でカリウムを吸着する特性があり、消化管の生理的な環境を利用した効率的なカリウム除去が期待できます。

 

パチロマーソルビテクスカルシウムの副作用プロファイル

パチロマーソルビテクスカルシウムの副作用については、国内臨床試験において詳細なデータが収集されています。最も頻度の高い副作用は便秘で、全体の14.5%に認められています。

 

重大な副作用として以下が挙げられています。
低カリウム血症(4.6%)

  • 因果関係を問わず血清カリウム値が3.5mmol/L未満となった症例の頻度
  • 国内臨床試験では1例(0.7%)のみで重篤な副作用は認められていない
  • 臨床上問題となる心電図異常は報告されていない

腸管穿孔、腸閉塞(頻度不明)

  • 重度便秘、持続する腹痛、嘔吐等の症状に注意が必要
  • これらの症状が認められた場合は投与中止と適切な処置が必要

国内第III相試験(ZG-801-02試験)では、治療導入期における副作用として便秘8.2%(7/85例)、食欲減退3.5%(3/85例)、腹部膨満2.4%(2/85例)が報告されています。二重盲検期の本剤群では便秘5.9%(2/34例)、下痢2.9%(1/34例)でした。

 

その他の副作用として、下痢、腹部膨満、鼓腸(各1%未満)、低マグネシウム血症(1%未満)が報告されています。特に低マグネシウム血症については、本剤がカリウムに加えてマグネシウムも吸着する可能性があるため、定期的な血清マグネシウム値のモニタリングが推奨されます。

 

パチロマーソルビテクスカルシウムと従来薬の比較

現在、高カリウム血症治療薬として承認されている薬剤は以下の通りです。

  • ポリスチレンスルホン酸Ca「三和」(旧アーガメイト)
  • カリメート(ポリスチレンスルホン酸Ca)
  • ケイキサレート(ポリスチレンスルホン酸Na)
  • ロケルマ(ジルコニウムシクロケイ酸Na)2020年承認

ロケルマとの主要な違い

項目 ビルタサ ロケルマ
ナトリウム含有 なし あり
禁忌 腸閉塞患者 なし
相互作用機序 Caとキレート形成 胃内pH上昇
投与間隔 3時間以上空ける 2時間前後に投与

ビルタサの最大の特徴は、ナトリウムを含まないことです。これにより、食塩制限が必要な心不全患者や腎疾患患者により適した選択肢となる可能性があります。

 

一方で、ビルタサは膨潤性があるため、腸閉塞患者には禁忌とされています。これは、薬剤が消化管内で膨らむ性質があり、既存の腸閉塞を悪化させるリスクがあるためです。

 

相互作用の観点では、ビルタサはカルシウムイオンとのキレート形成により併用薬の吸収を妨げる可能性があります。特にニューキノロン系抗生物質甲状腺ホルモン製剤との併用時には、3時間以上の間隔を空けて投与する必要があります。

 

パチロマーソルビテクスカルシウムの臨床応用における独自の考察

パチロマーソルビテクスカルシウムの臨床応用において、従来の高カリウム血症治療薬にはない独特な特徴がいくつか存在します。

 

リン代謝への影響
本剤に含まれるカルシウムイオンが食事中のリンと結合することで、消化管からのリン吸収を抑制し、血清リン値の低下を引き起こす可能性があります。これは、慢性腎疾患患者において高リン血症の管理が重要である一方で、過度のリン低下は骨代謝に悪影響を与える可能性があるため、定期的なリン値のモニタリングが必要です。

 

血管疾患患者への適用可能性
ナトリウムフリーという特徴は、心不全患者や高血圧患者において特に有用です。従来のポリスチレンスルホン酸ナトリウム製剤では、ナトリウム負荷により体液貯留や血圧上昇のリスクがありましたが、ビルタサではこれらの懸念が軽減されます。

 

投与タイミングの最適化
1日1回投与という利便性は患者のアドヒアランス向上に寄与しますが、食事との関係性について考慮が必要です。カルシウムイオンによる相互作用を考慮すると、食事から離れたタイミングでの投与が理想的ですが、消化器症状の軽減のためには食後投与も検討される場合があります。

 

長期使用時の安全性
海外での使用実績は豊富ですが、日本人における長期使用データは限定的です。特に、カルシウム代謝への長期的影響や、消化管粘膜への慢性的な刺激による影響については、今後の市販後調査での検討が重要となります。

 

これらの特徴を踏まえ、パチロマーソルビテクスカルシウムは高カリウム血症治療の新たな選択肢として、患者個々の病態や併存疾患に応じた個別化医療の実現に貢献することが期待されます。

 

ビルタサ(パチロマーソルビテクスカルシウム)の詳細な作用機序と特徴について
ゼリア新薬工業による承認取得に関する公式発表資料