ジルコニウムシクロケイとは高カリウム血症新規治療薬ロケルマ効果作用機序

ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウムは2020年に承認された新しい高カリウム血症治療薬で、従来薬と異なる即効性と選択的なカリウム吸着能力を持ちます。その作用機序や臨床効果について詳しく解説します。どのような特長があるのでしょうか?

ジルコニウムシクロケイとは新規高カリウム血症治療薬

ジルコニウムシクロケイの基本情報
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薬剤名・成分

ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物(商品名:ロケルマ)

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適応症

高カリウム血症の治療・管理

特長

約半世紀ぶりの新規経口高カリウム血症治療薬(2020年承認)

ジルコニウムシクロケイの化学構造と基本的性質

ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物は、体内に吸収されない均一な微細孔構造を有する非ポリマー無機陽イオン交換化合物です。この薬剤は不溶性で自由流動性の無味無臭白色結晶粉末として製剤化されています。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2020/P20200407002/670227000_30200AMX00430_D100_1.pdf

 

その構造的特徴として以下が挙げられます。
・八面体酸素配位ジルコニウム原子と四面体酸素配位ケイ素原子から構成
・酸素原子が両配位により共有され、Si-O-ZrやSi-O-Siのブリッジ構造を形成
・規則正しい微孔質立方格子構造を有する
・微孔開口部は非対称の7員環構造
この微細構造により、平均微孔開口径約3Åという極めて精密な分子選択性を実現しており、これが後述する選択的なカリウム吸着能力の基盤となっています。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2020/P20200407002/670227000_30200AMX00430_H100_1.pdf

 

ジルコニウムシクロケイの作用機序と選択性

ジルコニウムシクロケイの作用機序は、従来の高カリウム血症治療薬であるポリスチレンスルホン酸製剤とは根本的に異なります。本薬剤は消化管内でナトリウムイオンおよび水素イオンとの交換を通してカリウムイオンを選択的に捕捉し、血清カリウム濃度を低下させます。
イオン選択性の特徴
・一価の陽イオン(カリウムやアンモニウム)を選択的に取り込む
・カルシウムやマグネシウム等の多価陽イオンに対する選択性は低い
・リチウムイオンも結晶半径が約0.69Åであるため微孔を通過可能
格子内のナトリウムおよび水素対イオンの交換は、外部溶媒との濃度勾配によって生じる純粋なイオン相互作用であり、勾配が大きいほど大量の交換が生じます。この機序により、カリウムの糞中排泄量を増加させて体内からカリウムを効率的に除去します。
興味深いことに、ジルコニウムシクロケイはアンモニウムイオンも吸着するため、血清重炭酸イオン濃度の上昇も報告されており、これは腎機能保護の観点からも臨床的に有益な効果とされています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8075377/

 

ジルコニウムシクロケイの臨床効果と即効性

ジルコニウムシクロケイの最大の特長は、経口薬でありながら効果発現が極めて速いことです。従来のポリスチレンスルホン酸製剤では効果発現までに時間を要し、個体差も大きいという問題がありましたが、本薬剤は内服後1時間で血清カリウム値の低下が認められています。
参考)https://www.tcross.co.jp/special/insight-from-pharmacist/2421

 

主要臨床試験の結果
HARMONIZE-Global試験では、267名の患者を対象とした多施設共同プラセボ対照試験において、有効性と安全性が確認されています。この試験は地理的・人種的に多様な外来患者を対象としており、グローバルな有効性が実証されました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7083449/

 

長期使用における効果
・11ヶ月間の長期使用において持続的な効果を維持
・平均血清カリウム値4.8mmol/Lの患者における良好なコントロール
・64.2%の患者が11ヶ月間の治療を完遂
透析患者においても、DIALIZE試験で三回/週の血液透析を受ける末期腎不全患者における透析前高カリウム血症の発症頻度減少効果が確認されており、透析日以外の日に1日1回5g投与により正カリウム血症の維持が可能でした。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6727265/

 

ジルコニウムシクロケイの画像診断への影響と注意点

医療従事者として特に注意すべき点として、ジルコニウムシクロケイのX線造影性があります。この薬剤はCTをはじめとするX線ベースの画像診断において放射線不透過性を示すため、診断画像に影響を与える可能性があります。
参考)https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/0886022X.2023.2284839?needAccess=true

 

画像診断への影響
・CT検査において腸管内に高吸収域として描出される可能性
・X線単純撮影での放射線不透過性物質として認識される
・臨床医および放射線科医への情報共有が重要
欧州医薬品庁(EMA)でも、この放射線不透過性について言及していますが、詳細なガイダンスは限定的です。そのため、画像検査を行う際は、ジルコニウムシクロケイの服用歴について十分な聴取を行い、読影時には薬剤による影響を考慮する必要があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11001350/

 

ジルコニウムシクロケイの栄養状態と心機能への影響

慢性的な高カリウム血症管理では、従来カリウム摂取制限が必要でしたが、これは特に高齢者において栄養状態の悪化を招く懸念がありました。ジルコニウムシクロケイの導入により、このような食事制限の緩和が期待されています。
参考)https://www.mdpi.com/2077-0383/12/1/83/pdf?version=1671705032

 

栄養状態への好影響
・カリウム摂取制限の緩和による栄養改善効果
・高齢患者における栄養状態の維持・改善
・3ヶ月以上の継続使用による栄養パラメータの改善
心不全患者への応用
左心室駆出率50%未満の収縮性心不全患者において、ジルコニウムシクロケイは重要な役割を果たします。高カリウム血症により中断せざるを得ないレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬の継続使用や増量が可能となり、心機能改善に寄与することが報告されています。
参考)https://www.mdpi.com/2077-0383/10/23/5523/pdf

 

具体的な心機能への効果
・RAAS阻害薬の最適化による心機能パラメータの改善
・心不全治療薬の継続使用率向上
・3ヶ月間の治療による心エコー検査所見の改善
中国人健常成人を対象とした第I相試験では、5gおよび10gの1日1回投与において、24時間尿中カリウム排泄の有意な減少と良好な安全性プロファイルが確認されており、アジア人集団においても有効性が期待されます。
参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdfdirect/10.1002/cpdd.1055

 

このように、ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウムは、従来の高カリウム血症治療薬とは異なる作用機序と優れた特性を有し、臨床現場において新たな治療選択肢として重要な位置を占めています。