デシタビン日本承認の現状と骨髄異形成症候群治療への適用

デシタビンが日本で承認されなかった理由と海外での治療実績、新たなエピゲノム作用機序の解明により再評価される可能性について詳しく解説。今後の血液がん治療にどのような影響をもたらすのでしょうか?

デシタビン日本承認経緯と現状

デシタビンの日本承認現状
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開発要請から断念まで

2006年米国承認を受け日本でも開発要請が行われたが、欧州試験の結果を踏まえ2012年に断念

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国内臨床試験の成果

日本人患者を対象とした第I/II相試験で26.5%の寛解率を達成し、良好な忍容性を確認

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現在の治療選択肢

経口製剤ASTX727が海外で承認され、日本への導入可能性が検討されている状況

デシタビン未承認薬検討会議での経緯

デシタビンは2006年5月に米国で骨髄異形成症候群(MDS)の治療薬として承認されたことを受け、日本では同年10月の第10回未承認薬使用問題検討会議で「早期に開発着手が必要な薬剤」と結論付けられました。その後、2021年8月に医療上の必要性が高いと判断され、ヤンセンファーマに開発要請が行われました。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002ghwn-att/2r9852000002gihg.pdf

 

しかし、欧州で実施されたEORTC-06011試験において主要評価項目である生存期間の延長が統計学的有意差を示さなかった(p=0.38)ため、ヤンセンファーマは2012年に日本での開発を断念しました。この決定により、デシタビンは現在でも日本では未承認のままとなっています。
参考)https://nk.jiho.jp/article/p-1226569377589

 

デシタビン日本人患者における臨床成績

日本では国内第I/II相試験(JPN-MDS-101試験)において、5日間レジメン(20mg/m²/日)でのデシタビンの有効性と安全性が評価されました。この試験では34例の骨髄異形成症候群患者を対象とし、完全寛解(CR)を7例(20.6%)で達成し、全体の寛解率(CR+PR)は26.5%を示しました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7659334/

 

日本人における忍容性は良好で、完全細胞遺伝学的寛解は評価可能な20例中30%で観察されました。臨床反応までの期間の中央値は4サイクル(4-8サイクル)、寛解維持期間は474日以上(294-598日以上)で、2年間の急性骨髄性白血病非発症生存率は52%を記録しました。

デシタビン作用機序の新発見とエピゲノム薬の再評価

2023年9月、東京大学医科学研究所の研究により、これまでDNA脱メチル化薬として知られていたデシタビンの作用機序に関する重要な発見が報告されました。全ゲノムスクリーニング法を用いた解析により、デシタビンの主要な作用機序は従来考えられていたDNA脱メチル化ではなく、有糸分裂制御因子の関与であることが示されました。
参考)https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00257.html

 

この研究では、デシタビンが臨床的低濃度でDNMT1-DNA架橋を直接的に形成し、正常な有糸分裂を顕著に阻害することで細胞死を誘導する機序が明らかになりました。さらに、ATR-CLSPN-CHK1経路の阻害がデシタビンと協調的に作用を増強することも発見され、今後の臨床治療成績向上への期待が高まっています。
参考)https://medibio.tiisys.com/116557/

 

デシタビン海外承認状況と治療効果

デシタビンは米国では2006年に承認され、3日間レジメン(15mg/m²を8時間毎に1日3回、3日間連日投与)での第III相試験(D-0007試験)において、支持療法と比較して寛解率17%対0%、急性骨髄性白血病への進展・死亡までの期間12.1ヶ月対7.8ヶ月という優越性を示しました。
2010年11月には5日間レジメン(20mg/m²/日の5日間連日投与)も追加承認されており、第II相試験(DACO-020試験)において17%の寛解率を達成しています。現在、デシタビンは慢性骨髄単球性白血病(CMML)を含む骨髄異形成症候群の治療に広く使用され、症状の緩和と急性白血病への進展抑制に有効性を示しています。
参考)https://www.cancerit.jp/yakuzai-jouhou/yakuzai-jouhou-kiji/post-3895.html

 

デシタビン経口製剤ASTX727の開発動向と日本への影響

現在、デシタビンの新たな治療選択肢として、経口DNAメチル化阻害配合薬ASTX727(デシタビン+セダズリジン)の開発が進んでいます。ASTX727は大塚製薬グループが開発する世界初の経口DNAメチル化阻害配合薬で、デシタビンの分解を抑制するセダズリジンが配合されています。
参考)https://www.otsuka.co.jp/company/newsreleases/2023/20230919_1.html

 

ASCERTAIN試験では、ASTX727と静注デシタビンの薬物動態学的同等性が証明され、2020年に米国とカナダで承認されました。2023年にはヨーロッパでも急性骨髄性白血病の適応で承認され、患者の通院負担軽減と在宅治療の可能性を提供しています。この経口製剤の成功は、将来的な日本での承認への道筋を示唆する重要な展開として注目されています。
参考)https://www.taiho.co.jp/en/release/files/pdf/20200708.pdf