薬液が残っていても、カートリッジ挿入後3カ月を超えたら廃棄が必要です。
スピオルト®レスピマット®は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の気道閉塞性障害に基づく諸症状の緩解を目的とした配合吸入剤です。チオトロピウム臭化物水和物(LAMA)とオロダテロール塩酸塩(LABA)の2成分が1つのデバイスに配合されており、1回2吸入・1日1回投与という使いやすい用法が特徴です。
吸入指導では、まず動画で全体の流れを把握してもらうことが重要です。ベーリンガーインゲルハイム社の医療従事者向けサイト「べーリンガープラス」では、初回のカートリッジ装填からテスト噴霧までを解説した「吸入前の準備動画」と、正しい吸い方を示した「吸入方法動画」が公開されています。どちらも数分程度で確認できるため、窓口指導前に患者へ見せることも可能です。
吸入の基本ステップは以下のとおりです。
つまり「ゆっくり吸う」が基本です。
レスピマットはソフトミスト吸入器(SMI)であり、pMDIやDPIとは吸い方が根本的に異なります。DPIに慣れた患者が「勢いよく一気に吸う」という習慣でレスピマットを使用すると、むせやすく、肺内到達量も低下します。ゆっくり5秒程度かけて深く吸い込むよう、動画を見せながら口頭でも繰り返し伝えることが効果的です。
動画は、吸入練習器具(トレーナー)と組み合わせて使うとさらに効果的です。視覚・聴覚・触覚と複数の感覚を使って習得すれば、患者の記憶定着率は格段に上がります。
参考:ベーリンガーインゲルハイム社提供、医療従事者向けスピオルトのレスピマット使用方法動画ページ(患者指導にそのまま使える)
レスピマット使用方法|べーリンガープラス(スピオルト)
初回のカートリッジ装填は、患者がもっとも戸惑いやすいポイントです。操作を誤ったまま使用を続けてしまうケースが多く、薬効が得られない原因になります。動画を見て「わかった」と思っていても、実際に手を動かすとうまくいかないことも珍しくありません。
初回セットの正しい手順は次のとおりです。
空打ちは4回が条件です。
「カートリッジを入れる前に回転させてしまった」というミスは現場でも報告されています。この場合は一度噴霧ボタンを押して元の状態に戻してからカートリッジを挿入する必要があります。この手順を動画で見せておくと、患者が自宅で戸惑ったときにも対処できます。
また、1週間以上使用しなかった場合は、吸入前に下に向けて空打ちを1回行い、ミストが出ることを確認するよう指導が必要です。空打ちを忘れると薬液が十分に噴霧されない可能性があります。
初回セット手順に不安がある場合は、環境再整備研究機構(ERCA)が公開している「正しい吸入方法を身につけよう」ページの動画も参考になります。前準備・手順・解説と3段階に分かれており、復習にも使いやすい構成です。
参考:独立行政法人環境再整備研究機構が提供するレスピマット吸入指導動画(前準備・手順・解説の3編構成)
正しい吸入方法を身につけよう(レスピマット/スピオルト)|ERCA
医療従事者にとって衝撃的なデータがあります。3カ月以上スピリーバレスピマットを使用しているCOPD患者74人を対象にした横断研究(Zhang W, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2020)によると、全手技ステップを正しく行えた患者はわずか2人(2.7%)で、64.9%が吸入手技の主要ステップに誤りがあったと報告されています。特に初回使用時の準備段階(キャップを閉じて回転させ、空打ちを行い、吸入器が使用可能な状態にするまでの操作)での誤使用率は77.0%に達しました。
これは使い慣れているはずの患者の話です。
同研究では、誤使用のリスク因子として「低い教育水準」「独居」「COPD罹病期間が短い患者」が挙げられています。罹病期間が短いほど正しく使えていないというのは意外なようですが、「慣れていないからこそ不安で一気に吸ってしまう」「空打ち操作を省略してしまう」という行動パターンが反映されていると考えられます。
また、Molimardらの研究では、COPD患者2935名を対象に調査したところ、デバイスに関わらず50%以上の患者にデバイス操作エラーが認められ、それらのエラーがCOPD増悪と関連していることも報告されています。吸入手技の誤りは、増悪頻度に直結する問題です。
だからこそ指導が重要です。
医療従事者として、患者の「慣れてきた頃」にこそ手技を再確認する機会を設けることが非常に重要です。動画を使った指導は、口頭だけでは伝えにくいタイミングや噴霧速度の感覚を補う上で有効な手段です。「見てもらった=できている」ではなく、実際に手を動かして確認するまでが指導です。
参考:レスピマット誤使用74人中64.9%に主要ステップ誤りがあったという論文の解説ブログ
スピリーバ®レスピマットの誤った使用は多い|呼吸器内科医ブログ
スピオルトの吸入指導において、もう一つ見落とせないリスクがあります。それはスピリーバとの取り違えです。スピオルト®レスピマット®とスピリーバ®レスピマット®は、デバイスの形状がほぼ同一であり、薬剤名も類似しているため、調剤・交付時の誤りが起きやすい薬剤として知られています。
PMDAも同様の注意喚起をしています。
2021年にPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)が公表した資料では、「スピリーバ2.5μgレスピマット60吸入」を処方されているにもかかわらず、調剤時に誤って「スピオルトレスピマット60吸入」を交付してしまった事例が複数報告されています。両者はデバイスが共通のため見た目も似ており、棚が隣接している薬局では特に注意が必要です。
患者への指導においても「薬の色や名前をラベルで確認する習慣づけ」が重要です。スピオルト(LAMA+LABA配合剤)とスピリーバ(LAMA単剤)では適応や成分が異なり、誤用が続けばβ2作動薬の過剰摂取あるいは不足につながる可能性があります。これは患者の健康リスクに直結します。
動画指導の場で、「ラベルに書かれた薬剤名を毎回確認する」という行動を1ステップとして組み込むことが大切です。こうした小さな確認習慣が、調剤エラーの早期発見にもつながります。
患者が自分の薬を確認できるよう、薬剤名を手帳に記載し、動画の最後にも「薬の名前確認」を促す一言を添えるだけで、確認習慣が定着しやすくなります。
参考:PMDAが公表している医薬品取り違えに関するヒヤリハット事例集(スピリーバとスピオルトの取り違え事例を含む)
製造販売業者等による対策済みの取り違えリスク事例集(PMDA)
スピオルトレスピマットの管理で、見落とされがちな重要ルールがあります。それが「カートリッジ挿入後3カ月以内に使い切る」という使用期限です。60吸入製剤は1日2吸入・1日1回使用で約30日分なので基本的に問題ありませんが、28吸入製剤や吸入回数が不規則な患者では、薬液が残っていても3カ月を超えたら廃棄が必要です。
薬液が残っていても使用禁止、が原則です。
この理由は安定性試験のデータに基づいています。カートリッジ挿入後25℃・40%RH条件下での安定性は3カ月まで確認されていますが、それ以降のデータは取得されていません。万が一品質が変化していても患者には見た目で判断できないため、「3カ月ルール」を毎回の指導で必ず伝えることが医療従事者の責務となります。
また、デバイス(吸入用器具レスピマット本体)の再利用も不可です。使用済みのレスピマット本体に新しいカートリッジを挿入しても、目盛りカウンターはリセットされません。すでにカウンターが進んでいるため使用ができなくなってしまいます。「カートリッジだけ交換すれば使える」と思い込んでいる患者が一定数おり、次回処方時のトラブルにもつながります。
ここで一つ独自視点を紹介します。吸入指導における動画の活用は「初回のみ」で終わっていないでしょうか。研究データが示すように、3カ月以上使い続けている患者でも64.9%が誤使用をしている現実から考えると、「慣れた患者への定期的な動画再確認」こそ効果的な指導アプローチです。
たとえば処方更新のタイミングで月1回、患者自身がスマートフォンで動画を確認する習慣をつけてもらうよう促すことができます。「べーリンガープラスのスピオルトFAQページ」は患者向けにも分かりやすく整理されており、QRコードで案内するだけで指導効率が大幅に上がります。患者への動画URLの共有は、指導の「継続性」を担保する最もシンプルかつ実践的な方法の一つです。
参考:ベーリンガーインゲルハイム提供・医療従事者・患者向けスピオルトFAQ(3カ月ルールや再利用不可の公式説明を含む)
スピオルトのFAQ(よくある質問)|ベーリンガーインゲルハイム