肝臓がんは「沈黙の臓器」と呼ばれるように、初期段階ではほとんど自覚症状がありません。この特性が早期発見を困難にしています。肝臓がんの平均発症年齢は40代から50代とされており、主にB型肝炎やC型肝炎といったウイルス性の肝炎から進行することが多いのが特徴です。
肝臓がんの主な原因としては、以下が挙げられます。
これらの基礎疾患により長期にわたって肝臓に炎症と再生が繰り返されることで、肝硬変へと進展し、最終的に肝臓がんを発症するリスクが高まります。そのため、これらのリスク要因を持つ患者には定期的なスクリーニング検査が推奨されます。
早期発見のためには、リスク要因を持つ患者への定期的な超音波検査と血液検査(AFP値など腫瘍マーカーの測定)が効果的です。多くの自治体では肝炎ウイルスの無料検査を実施しており、これらを活用することも早期発見につながります。
早期に発見できれば、より低侵襲な治療選択が可能となり、治療後の予後も大幅に改善します。ステージ1の肝臓がんでは5年生存率が57.3%である一方、ステージ4では4.0%まで低下するため、早期発見の重要性は極めて高いと言えます。
肝臓がんは初期段階では無症状であることが多いですが、がんが進行するにつれて様々な症状が現れるようになります。これらの症状は肝機能の低下や腫瘍の成長に伴って生じます。
肝臓がんの主な症状は以下のとおりです。
特にステージ3以上の進行した肝臓がんでは、腫瘍が肝臓の大部分を占めることで、より顕著な症状が現れます。腹部の不快感や圧迫感は、肝臓が腫れて周囲の組織を圧迫することで生じます。
症状の進行度合いと肝機能との関連性も重要です。多くの肝臓がん患者は基礎疾患として肝硬変を抱えているため、肝不全の症状と肝臓がんの症状が混在することがあります。Child-Pugh分類を用いて肝機能を評価することで、患者の状態と適切な治療選択の指標とすることができます。
医療従事者は、リスク要因を持つ患者に対して、これらの症状に注意深く観察する必要があります。特に説明できない体重減少や右上腹部の持続的な痛み、黄疸などの症状がある場合は、積極的に画像診断などの検査を検討すべきです。
肝臓がんの診断は、複数の検査方法を組み合わせて行われます。早期診断と正確なステージング、肝機能評価が治療方針の決定に重要です。
血液検査
画像診断
生検
診断プロセスでは、Child-Pugh分類による肝機能評価も重要です。これは血清ビリルビン値、血清アルブミン値、プロトロンビン時間、腹水の有無、肝性脳症の有無という5つの項目を評価し、A、B、Cの3グレードに分類するものです。この分類は治療方針の決定に大きく影響します。
具体的な診断フローとしては、リスク因子を持つ患者に対するスクリーニングとして超音波検査と腫瘍マーカー測定を行い、異常所見があれば造影CTやMRIによる詳細な検査へと進みます。確定診断が難しい場合や組織型の特定が必要な場合は生検を検討します。
診断においては、肝硬変などの基礎疾患との区別も重要です。造影CTでの典型的な所見として「早期濃染」と「wash out」パターンが肝細胞がんの特徴とされています。これは腫瘍が動脈血流に富み、門脈血流に乏しいという特性を反映しています。
肝臓がんの治療選択は、がんの進行度(ステージ)と肝機能(Child-Pugh分類)、患者の全身状態(パフォーマンスステータス)に基づいて行われます。以下に主要な治療法とステージ別のアプローチを解説します。
外科的治療
局所療法
血管内治療
薬物療法
放射線療法
ステージ別治療アプローチ
治療選択においては、腫瘍の特性だけでなく、基礎疾患としての肝硬変の程度や患者の全身状態を総合的に評価することが重要です。特に肝機能が低下している患者では、治療による肝機能悪化のリスクと治療効果のバランスを慎重に判断する必要があります。
近年、従来の標準治療に加えて、肝臓がんに対する新たな治療アプローチが研究・開発されています。これらの新規治療法は、特に従来の治療が困難なケースや進行がんに対する選択肢として注目されています。
光免疫療法
光免疫療法は、特殊な光感受性物質を腫瘍細胞に取り込ませ、特定波長の光を照射することでがん細胞を選択的に破壊する治療法です。特に手術困難なステージ3の肝臓がんに対して、腫瘍縮小効果が期待されています。この治療法の利点は。
がん遺伝子治療
肝硬変を伴う肝臓がんでは手術が困難なケースが多いため、遺伝子治療は新たな可能性を示しています。特に体力が低下した高齢患者にも適用でき、腫瘍マーカーの劇的改善が報告されています。
免疫細胞療法
免疫細胞療法は、患者自身の免疫細胞を活性化・増殖させてがん細胞を攻撃する治療法です。副作用が少なく、以下の特徴があります。
予後と生存率
肝臓がんの5年生存率はステージによって大きく異なります。
予後に影響する主な要因
生活の質向上への取り組み
治療と並行して、患者の生活の質向上も重要な課題です。肝臓がん患者に対しては、診断時から緩和ケア/支持療法を取り入れることが推奨されています。また、将来的な妊娠や出産を希望する患者に対しては、治療開始前に妊孕性温存についての相談が重要です。
今後の展望
肝臓がんの治療は急速に発展しており、分子生物学的知見に基づいた個別化治療の開発が進んでいます。バイオマーカーを活用した治療効果予測や、複数の免疫治療の組み合わせなど、新たなアプローチが研究されています。
また、肝臓がんの一次予防として、B型肝炎ワクチン接種の普及やC型肝炎の早期治療、生活習慣の改善による非アルコール性脂肪肝炎の予防も重要です。二次予防としては、ハイリスク患者への定期的スクリーニングプログラムの確立が予後改善に寄与しています。
最新の研究では、人工知能(AI)を用いた画像診断支援システムの開発も進んでおり、早期発見率の向上が期待されています。また、液体生検(リキッドバイオプシー)による循環腫瘍DNA検査も、非侵襲的な診断・モニタリング法として注目されています。