蛋白分画のパーセンテージだけ見ていると、Mピークを見逃して骨髄腫を取り逃がすことがあります。
血清中には100種類以上の蛋白質が存在しています。そのうち主要なものがアルブミン(Alb)と各種グロブリン分画であり、これらは電気泳動法によって5つ(または6つ)の分画に分離されます。検査の原理はシンプルで、pH 8.6の緩衝液中では血清蛋白が全てマイナスに荷電し、通電すると陽極側へ移動します。移動速度が蛋白ごとに異なるため、約40分の泳動後に5つのグループが形成されます。
陽極側から順に「アルブミン分画 → α1グロブリン → α2グロブリン → βグロブリン → γグロブリン」と並びます。これが健常人の分画パターンです。
各分画の基準値(目安)は以下のとおりです。
| 分画 | 基準値(%) | 主な構成蛋白 |
|------|------------|-------------|
| アルブミン | 60.2〜71.4 | アルブミン |
| α1グロブリン | 1.9〜3.2 | α1-アンチトリプシン、α1酸性糖蛋白 |
| α2グロブリン | 5.8〜9.6 | ハプトグロビン、α2マクログロブリン |
| βグロブリン | 7.0〜10.5 | トランスフェリン、β-リポ蛋白、C3・C4 |
| γグロブリン | 10.6〜20.5 | IgG、IgA、IgM、IgD、IgE |
ここで重要な点があります。分画の境界線には客観的な基準が存在しません。電気泳動後の「山と谷」を目視で判断して境界を引くため、区切り方が少し違うだけで各分画のパーセンテージは数%ずれることがあります。つまり、わずかなパーセンテージの増減を単独で評価することには、臨床的な意味が乏しいのです。
結論は「波形パターンで見る」が基本です。
デンシトメーターで数値化されたパーセンテージはあくまで目安に過ぎず、電気泳動で得られた波形グラフを直接確認することが診断の精度を保つために不可欠です。健常人では、アルブミンから右(陰極側)に向かって各分画の頂点が「α1<α2<β<γ」というほぼ単調増加のパターンをとります。この大小関係が崩れていれば、そこに量的変動があると推定できます。
広島市医師会(蛋白分画の検査と臨床的意義):各分画の基準値・構成蛋白・病態パターンをまとめた解説資料
各分画の機能を理解しておくことで、パターンの異常を見たときに「なぜそうなるのか」を直感的に把握できるようになります。
アルブミンは総血清蛋白の約60%を占め、血漿膠質浸透圧の維持を主な役割とします。分子量は約66,000で、グロブリンの約3分の1と小さいのが特徴です。このため腎機能が低下すると真っ先に尿中へ漏出します。また微量元素・脂肪酸・ホルモン・薬物などを運搬するキャリアー蛋白としても機能し、ビリルビンや薬物との結合が二峰性アルブミンを引き起こすことがあります。これは意外ですね。
α1グロブリンの主成分であるα1-アンチトリプシンは急性相反応物質で、炎症発生から2〜3日で基準値の約2倍に達します。α2グロブリンのハプトグロビンも急性相反応物質ですが、溶血が起きるとヘモグロビンと素早く結合して消費されるため低下します。同じα2グロブリンのα2マクログロブリンは分子量が非常に大きく、ネフローゼ症候群でも腎から漏出しにくいため相対的に上昇します。
βグロブリンはトランスフェリン(鉄欠乏性貧血で上昇)やβ-リポ蛋白(LDLを反映、高脂血症で上昇)が主成分です。γグロブリンはIgG・IgA・IgMなどの免疫グロブリンの集まりで、慢性炎症・膠原病・悪性腫瘍・多発性骨髄腫などで変動します。
注目すべきは、同じ「βグロブリン分画の増加」でも、分画中央付近の蛋白が増えているのか、γグロブリン分画との境界付近の蛋白(一部のIgA・IgMなど)が増えているのかによって臨床的意味が全く異なるという点です。これもパーセンテージだけ見ても判断できず、波形を見なければ正確な解釈ができません。
メディエンス WEB総合検査案内(蛋白分画):各分画成分と診療報酬区分、保険算定上の注意点を含む検査情報
蛋白分画が最も力を発揮するのは、特徴的な泳動パターンを示す疾患の鑑別です。主要な4つの病態パターンを整理します。
① ネフローゼ症候群パターン
最も代表的な所見は「アルブミン分画の著しい低下+α2グロブリン分画の著しい上昇」です。ネフローゼ症候群では1日3.5g以上の蛋白尿が持続し、比較的分子量の小さいアルブミン・IgGなどが尿中へ大量に漏出します。一方、α2マクログロブリンは分子量が大きいため漏出しにくく、結果として相対的にα2分画が上昇します。高脂血症を反映してβグロブリン分画の上昇を伴うこともあります。
② 肝硬変パターン(β-γブリッジング)
肝硬変では「アルブミン分画の著しい低下+γグロブリン分画の著しい上昇」が基本パターンです。加えて、βグロブリン分画とγグロブリン分画の境界が不明瞭になる「β-γブリッジング(β-γ bridging)」が肝硬変に特徴的な所見として有名です。β-γブリッジングが生じる機序は、IgAやIgGの一部がβ分画とγ分画の境界付近に泳動されることで境界の谷が埋まるためです。
β-γブリッジングが基本です。
このパターンが認められたら、肝機能検査・血小板数・腫瘍マーカーなどを合わせて精査することが推奨されています。肝硬変が進行するほどγグロブリンの絶対値(g/dL)が増加する傾向があり、経過観察の指標にもなります。
③ 多発性骨髄腫パターン(Mピーク)
γグロブリン分画に「アルブミン分画類似の幅が狭く鋭いピーク」が出現します。これがMピーク(M蛋白)です。特定の形質細胞がクローン性に増殖し、単一種類の免疫グロブリンを大量産生することで生じます。重要な注意点があります。多発性骨髄腫の中でも、BJP(ベンス・ジョーンズ蛋白)型の場合は低分子量のため腎機能が正常であれば容易に尿中に排泄されてしまい、血中蛋白分画ではMピークを認めないケースが相当数存在します。血中分画が正常でも尿中蛋白分画を確認することが重要です。
④ 急性炎症パターン
「アルブミン分画の低下+α1グロブリン・α2グロブリン分画の上昇」が特徴です。炎症マーカーであるα1-アンチトリプシンやハプトグロビンなどの急性相反応蛋白(APR)が2〜3日以内に上昇します。この場合は使えそうです。
日経Gooday(血清蛋白分画):主要疾患ごとの分画パターンを患者向けにわかりやすく解説した記事
アルブミン分画は蛋白分画の中でも最も量が多く(健常者では約60〜71%)、最もわかりやすい指標ですが、いくつかの「見た目に反する落とし穴」が存在します。医療従事者が知らずに見過ごしていると、誤判断につながることがあります。
まず二峰性アルブミン血症です。通常アルブミン分画は単一の鋭いピークを形成しますが、稀に2つのピークに分裂したパターンを示すことがあります。原因は2つあります。1つ目は遺伝的バリアントで、移動度の速い「fast type(rapid type)」または遅い「slow type」のアルブミンが産生される場合です。このケースでは機能や免疫学的抗原性は正常アルブミンと同程度に保持されており、疾患との関連性も少ないとされています。
2つ目は薬物などの物質がアルブミンと結合して移動度に影響を与える場合です。βラクタム系抗生物質(特にペニシリン系)の大量投与・閉塞性黄疸によるビリルビン結合・ネフローゼ等による脂肪酸との結合などが誘因となります。つまり、二峰性アルブミンを見たとき、それが遺伝的バリアントなのか薬剤・病態由来なのかを区別することが必要です。
次に総蛋白の測定値ずれという問題があります。蛋白分画に記載される総蛋白濃度と、生化学検査で別途測定した総蛋白濃度が一致しないことがあります。測定原理が異なるためやむを得ない部分もありますが、定量性の観点では生化学検査の値が優れています。アルブミンの正確な「量的変化」を追いたい場合は生化学検査の値を参照するのが原則です。
さらに、溶血検体ではβグロブリン分画が偽高値になります。検体が溶血するとヘモグロビンがβグロブリン分画(特にβ2分画)に泳動されるため、β分画が見かけ上増加します。採血手技や遠心条件に注意することで、この偽高値は防ぐことができます。
富士フイルム(わかっていそうでわかっていない蛋白分画):分画の境界線の主観性・二峰性アルブミン・パーセンテージの限界を詳述した専門資料
蛋白分画の解釈において、一般的にあまり注目されない切り口があります。それは「γグロブリン分画の絶対値(g/dL)」を追うことです。通常の蛋白分画報告書に記載されるのはパーセンテージですが、このパーセンテージだけでは実際の蛋白量の変化を正確に評価できません。
例えば、低栄養でアルブミンが著しく低下している患者では、γグロブリンが実量的に変わっていなくても相対的なパーセンテージが上昇して見えます。逆にアルブミンが回復してくると、γグロブリンのパーセンテージが下がって「改善した」と誤解するリスクがあります。γグロブリン分画の絶対値(g/dL)は「パーセンテージ × 総蛋白濃度 ÷ 100」で計算できます。
絶対値が重要です。
この絶対値を追うことが特に有効な場面が慢性肝炎から肝硬変への進行評価です。γグロブリン分画の絶対値(g/dL)は、慢性肝炎の段階から肝硬変へ進行するにつれて段階的に増加します。パーセンテージだけを見ていると病態の変化を見落とすことがあります。
また、自己免疫性肝炎ではγグロブリン分画の絶対値が特に著しく上昇する傾向があり、ウイルス性肝炎との鑑別の一助になります。ポリクローナルガンモパシー(多クローン性の免疫グロブリン増加)では、γ分画は幅広くなだらかに盛り上がるパターンを示します。これに対してモノクローナルガンモパシーでは、幅が狭い鋭いMピークが出現します。両者を明確に区別するためには、パーセンテージの数値だけでなく波形の形状(幅・傾き・鋭さ)を目視確認することが必須です。
さらに、モノクローナルガンモパシーが疑われる場合は、蛋白分画だけで確定判断を下してはいけません。蛋白分画に用いる染色はアルブミンと比べて免疫グロブリンとの親和性が低いため、分画値から推定されるM蛋白量は免疫グロブリン定量値より一般に10〜30%低く見積もられることが知られています。確定診断には免疫電気泳動法または免疫固定法を追加して、どの免疫グロブリンがクローン性に増加しているかを同定することが重要です。
多発性骨髄腫や原発性マクログロブリン血症が疑われたら、免疫固定法で確認するのが原則です。
日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン(多発性骨髄腫):M蛋白量測定の方法と蛋白電気泳動の使い方、免疫固定法との使い分けを記載
蛋白分画検査は「少量の検体で・安価に・多様な病態情報が得られる」という優れた特性を持ちます。日常初期診療において積極的に活用できる基本検査の一つに位置づけられており、日本臨床検査医学会の『日常初期診療における臨床検査の使い方・基本的検査』にも収載されています。
一方で、注意すべき点もいくつかあります。
- 蛋白分画は確定診断には使えない。あくまでも補助的診断ツールとして位置づけ、臨床情報・他の検査データと組み合わせて総合判断することが基本です。
- 保険算定上の注意として、「蛋白分画(D007 4)」「総蛋白」「アルブミン(BCP改良法・BCG法)」を同時に測定した場合は、主たるもの2つの所定点数のみ算定できます。3項目全部は算定できない点を確認しておきましょう。
- 溶血不可の検体で測定することが必要です。溶血があるとβ分画が偽高値になります。
- 採血から報告まで2〜3日かかる場合があり(施設により異なる)、急性期の緊急評価には適しません。
次のステップとして、Mピークや免疫グロブリン異常が疑われる場合は免疫電気泳動法または免疫固定法を追加オーダーすることを、施設のプロトコルとして標準化しておくことが診断の見逃し防止につながります。
蛋白分画の臨床的な意義を最大限に引き出すためには「波形パターンを直接確認する習慣」「絶対値で病態の推移を追う視点」「必要に応じた追加検査へのスムーズな移行」という3つを意識することが重要です。
日本臨床検査専門医会(グロブリン解説):グロブリン高値・低値を引き起こす疾患と各免疫グロブリンクラスの臨床的意義を平易に解説した一般向け専門資料