ゴシュユ(呉茱萸)は、ミカン科ゴシュユの未熟果実を乾燥させた生薬で、漢方医学において重要な位置を占めています。その主要な薬理作用は、体を芯から温める温熱作用と気の逆流を鎮める降逆作用にあります。
ゴシュユの効果は以下のような症状に対して発揮されます。
漢方医学では、体が冷え、特に胃腸が冷え切ってしまうと、エネルギー(気)の流れが滞り、上へと逆流して激しい頭痛や吐き気を引き起こすと考えられています。ゴシュユはこの「冷え」と「気の逆流」を鎮めることで、症状を根本から改善します。
臨床研究では、53人を対象とした研究において、頭痛回数の低下や発作薬の使用回数を減らせたという報告があります。効果が出るまでの時間は通常2週間程度ですが、冷えの程度が強い場合にはより長期間の服用が必要な場合もあります。
ゴシュユを含む漢方薬は一般的に安全性が高いとされていますが、いくつかの副作用が報告されています。医療従事者として把握しておくべき主要な副作用は以下の通りです。
皮膚症状
肝機能への影響
消化器症状
特に注意すべき点として、新鮮なゴシュユの使用リスクがあります。採取直後の新しいゴシュユを用いると、嘔吐などの副作用を発現することがあるため、1年以上経過した古い生薬が良品とされています。これは他の生薬とは逆の特性で、ゴシュユ特有の注意点です。
また、ゴシュユにはヒゲナミンというアルカロイドが含まれており、2017年発効の世界アンチ・ドーピング規定「禁止表国際基準」に明記されています。アスリートが服用する場合は、ドーピング違反になる可能性があるため注意が必要です。
ゴシュユは単独で使用されることは少なく、主に**呉茱萸湯(ゴシュユトウ)**として処方されます。呉茱萸湯は以下の4種類の生薬で構成されています。
適応症
呉茱萸湯は「体力中等度以下で、手足が冷えて肩がこり、ときにみぞおちが膨満するもの」に対して処方されます。具体的には。
用法・用量
1日2〜3回、1回1包(2.5g)を食前または食間の空腹時に服用するのが基本です。頭痛発作時の頓服としても使用されます。お湯に溶かして、香りや温かさを感じながら飲むとより効果的とされています。
他の漢方処方では、温経湯や当帰四逆加呉茱萸生姜湯にも配合されており、婦人科疾患や冷え症の治療にも応用されています。
ゴシュユを含む処方には、使用してはいけない患者や併用に注意が必要な薬剤があります。
禁忌患者
併用注意薬
特に甘草との併用については、グリチルリチン酸の作用により偽アルドステロン症が起こる可能性があるため、十分な注意が必要です。
ゴシュユの品質管理には、他の生薬とは異なる特殊な注意点があります。
品質の特殊性
多くの生薬は新しいものほど有効成分の分解が少なく、薬用効果が高いとされますが、ゴシュユは例外的に1年以上経過した古い生薬が良品とされています。これは、新鮮なゴシュユには嘔吐などの副作用を引き起こす成分が含まれているためです。
保存方法
植物学的特徴
ゴシュユ(Evodia rutaecarpa)は中国原産の雌雄異株の落葉低木で、享保年間(1720年頃)に日本に導入されました。日本には雌株のみが渡来したため、種子は不稔性で発芽能力がありません。
興味深いことに、ゴシュユの冬芽は鱗片で覆われておらず、「裸芽」と呼ばれる形態をしています。小さく縮こまった葉に茶褐色の短い毛をまとって冬の寒さに耐える様子が観察できます。
薬用部位の利用
医療従事者として、ゴシュユを含む漢方薬を処方・調剤する際は、これらの品質管理上の特殊性を理解し、患者への適切な服薬指導を行うことが重要です。
日本薬学会の薬草データベースでは、ゴシュユの詳細な植物学的情報と薬効について解説されています。
https://www.pharm.or.jp/yakusou/
熊本大学薬学部の薬用植物園では、ゴシュユの栽培と品質管理に関する専門的な情報を提供しています。