フルクトースとグルコースの違い

フルクトースとグルコースは同じ単糖でも、化学構造や体内での代謝経路、吸収機構が大きく異なります。医療現場でこれらの違いを正確に理解していますか?

フルクトースとグルコースの違い

フルクトースとグルコースの主要な違い
🔬
化学構造の相違

グルコースはアルデヒド基を持つアルドース、フルクトースはケトン基を持つケトースで構造異性体の関係にあります

💊
吸収メカニズムの違い

グルコースはSGLT1とGLUT2で吸収され、フルクトースはGLUT5とGLUT2で吸収されます

代謝経路の特性

フルクトースは肝臓で優先的に代謝され、インスリン調節を受けずに解糖系に流入します

フルクトースとグルコースの化学構造の違い

 

フルクトースとグルコースは、どちらも分子式C₆H₁₂O₆で表される六炭糖(ヘキソース)ですが、化学構造が大きく異なります。グルコースはアルデヒド基(-CHO)を持つアルドースであるのに対し、フルクトースはケトン基(C=O)を持つケトースとして分類されます。この構造の違いにより、フルクトースとグルコースは構造異性体の関係にあります。
参考)https://pigboat-don-guri131.ssl-lolipop.jp/721%20Types%20of%20natural%20organic%20compounds,%20monosaccharides,%20disaccharides.html
​youtube​
具体的には、環状構造におけるOHとCH₂OHの位置が異なり、フルクトースは水溶液中で鎖状のケトン型構造を示す性質があります。この構造的特徴により、フルクトースはグルコースよりも開環構造での存在が大きく、メイラード反応(糖化反応)を起こしやすい性質を持ちます。
参考)【高校化学】「フルクトース」

糖化反応の起こりやすさは、フルクトースがグルコースの約10倍とされ、老化物質(AGEs)の生成に関与することから医療現場でも注目されています。
参考)果糖(フルクトース)は危険な糖? |くにちか内科クリニック

フルクトースとグルコースの吸収メカニズムの違い

小腸上皮細胞における吸収メカニズムは、フルクトースとグルコースで明確に異なります。グルコースとガラクトースは、ナトリウム/グルコース共輸送体SGLT1によって濃度勾配に逆らった能動輸送で吸収されます。一方、フルクトースはグルコース輸送体ファミリーの一員であるGLUT5によって促進拡散で吸収されます。
参考)第2章 2-2:糖質代謝

SGLT1はNa⁺依存的にグルコースを濃縮的に取り込むため、管腔内のグルコース濃度が低い状態でも効率よく吸収できます。しかし、フルクトースの糖輸送体GLUT5は、グルコースの糖輸送体SGLT1よりも取り込み速度が遅いことが知られています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/108/4/108_4_553/_pdf

さらに、管腔内の糖濃度が高い場合、PKCβIIが活性化されてGLUT2が刷子縁側へ輸送され、糖吸収能が上昇します。小腸上皮細胞に取り込まれた単糖類は、基底膜側のGLUT2を通じて受動輸送により門脈に運ばれます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds1986/19/1/19_1_38/_pdf/-char/ja

フルクトースの肝臓における代謝経路

フルクトースとグルコースの代謝経路には、本質的な違いがあります。グルコースは全身の臓器で代謝(利用)できるのに対し、フルクトースはほとんどが肝臓で代謝されます。小腸から吸収されたフルクトースの一部は、小腸でグルコースに速やかに変換されて門脈に入りますが、変換されなかったフルクトースは門脈から肝臓に達します。
参考)フルクトース - Wikipedia

肝細胞に入ったフルクトースは、フルクトキナーゼ(ケトヘキソキナーゼ、KHK)によってグルコースよりも速やかにリン酸化されてフルクトース-1-リン酸を生成します。その後、フルクトース-1,6-ビスリン酸を経て解糖系に入り、ピルビン酸を生成します。
参考)果糖(フルクトース)の代謝経路|toshi【痛みの原因を根本…

この代謝経路の重要な特徴は、フルクトースにはグルコースのような代謝調節機構がないことです。グルコースは肝細胞内でグルコース-6-リン酸にリン酸化され、必要に応じてグルコース-6-ホスファターゼによりリン酸が脱離されて血中に放出される調節機構がありますが、フルクトースにはこのような機構がなく、速やかに代謝が進行します。フルクトキナーゼは負のフィードバック機構を持たず、ATPを消費してリン酸化を行うため、大量のフルクトース摂取は代謝産物の蓄積を招きます。
参考)https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/Metabolism_20180425.pdf

フルクトースとグルコースのインスリン応答の違い

インスリンとの関係において、フルクトースとグルコースには顕著な違いがあります。グルコースは摂取後に血糖値を上昇させ、膵臓のβ細胞からインスリン分泌を刺激します。このインスリンの作用により、グルコースは全身の細胞に取り込まれてエネルギー源として利用されるか、グリコーゲンとして肝臓や筋肉に貯蔵されます。
参考)グルコース(ブドウ糖)はどのように細胞に吸収されるの?

一方、フルクトースは血糖値をほとんど上昇させず、インスリン分泌もわずかです。肝臓におけるフルクトースの代謝は、解糖系の高度に調節された2つのステップ(グルコキナーゼとホスホフルクトキナーゼ)をバイパスするため、インスリン依存性の調節を受けません。
参考)301 Moved Permanently

このインスリン非依存性の代謝経路により、フルクトースは肝臓での脂肪酸合成を促進しやすく、多量のフルクトース摂取はピルビン酸の処理が追いつかず、多量のアセチルCoAを生じて中性脂肪の生成を促進します。慢性的な中性脂肪の生成は高トリグリセリド血症をきたし、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のリスクを高めることが報告されています。
参考)くだものなどに含まれる果糖(フルクトース)と糖尿病の関係

フルクトース過剰摂取の臨床的影響

医療従事者が理解すべきフルクトースの過剰摂取による臨床的影響は多岐にわたります。大量のフルクトース摂取はピルビン酸の処理が追いつかず、多量の乳酸を生じて乳酸アシドーシスを発症する場合があります。また、フルクトースの代謝産物として尿酸が生成され、高尿酸血症や高血圧のリスク因子となることが知られています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/gnam/34/2/34_219/_pdf/-char/ja

近年の研究では、フルクトースの過剰摂取が免疫系の機能に障害を引き起こすことが明らかになっています。フルクトースが過剰になると、腸バリアを維持するタンパク質の生産が減少し、細菌やエンドトキシンなどの細菌生成物が血液中に流出しやすくなります。血液に入った細菌生成物は肝臓に到達して炎症性サイトカインの生産を刺激し、肝臓でグルコースからの脂肪の生産・沈着を引き起こします。
参考)果糖の摂り過ぎが糖尿病や肥満の原因に 新型コロナなど「感染症…

さらに、フルクトースの過剰摂取により腫瘍細胞が免疫細胞のエフェクター機能に対する抵抗性を獲得することも報告されています。米国の若者は1日のカロリーの最大21.5%をフルクトースから摂取しているという報告があり、高果糖コーンシロップ(HFCS)を多く含む甘い清涼飲料や菓子の摂り過ぎが問題視されています。
参考)糖尿病やメタボの原因糖質が判明 ジュースやお菓子が勧められな…

フルクトースとグルコースの違いを正確に理解することは、糖尿病や代謝性疾患の患者指導において重要です。果物に含まれるフルクトースは食物繊維とともに摂取されるため急激な吸収が抑えられますが、清涼飲料水や加工食品に含まれる高果糖コーンシロップの形態では、肝臓への負担が大きくなります。医療従事者は、患者に対してフルクトースの摂取源とその代謝特性を説明し、適切な栄養指導を行うことが求められます。
参考)https://www.mdpi.com/2072-6643/12/1/94

 

 


カップ印 果糖 1kg