アルドースとケトースの違い|単糖分類構造

アルドースとケトースは、単糖類の基本的な分類の一つです。両者の構造的な違いは、医療従事者が糖代謝や臨床検査を理解する上で重要な知識となります。これらの単糖はどのように区別され、臨床的にどのような意義を持つのでしょうか?

アルドースとケトースの違い

アルドースとケトースの基本的な違い
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アルドース

分子構造の末端にアルデヒド基(-CHO)を持つ単糖類。代表例はグルコース(ブドウ糖)、ガラクトース。

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ケトース

分子構造の内部にケトン基(>C=O)を持つ単糖類。代表例はフルクトース(果糖)。

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異性体の数

六炭糖の場合、アルドースは16種類、ケトースは8種類が理論上存在する。

アルドースの構造と分類

 

アルドースは、分子鎖の末端にアルデヒド基を持つ単糖類です。アルデヒド基とは、炭素原子に酸素原子が二重結合し、さらに水素原子が結合した官能基(-CHO)を指します。代表的なアルドヘキソース(六炭糖のアルドース)には、D-グルコース、D-ガラクトース、D-マンノースがあります。
参考)単糖類(分類・構造・性質・二糖や多糖との関係性など)

アルドースは炭素数によって分類され、三炭糖のアルドトリオース(D-グリセルアルデヒド)、四炭糖のアルドテトロース、五炭糖のアルドペントース、六炭糖のアルドヘキソースなどが存在します。六炭糖のアルドースでは、不斉炭素原子が4個あるため、理論上2⁴=16種類の立体異性体が存在します。
参考)化学系サーチャーのための「糖類」の基礎知識《糖の種類/化学構…

アルドースは水溶液中で鎖状構造と環状構造の間で平衡状態にあります。結晶状態では、5位の炭素に結合したヒドロキシ基がアルデヒド基に付加して、六員環構造(ピラノース)を形成します。この際に生じる構造はヘミアセタール構造と呼ばれ、同一炭素にヒドロキシ基とエーテル結合を持ちます。
参考)https://www.pha.nihon-u.ac.jp/research/kakenhi/case-study21/

ケトースの構造と特性

ケトースは、分子鎖の内部(通常は2位の炭素)にケトン基を持つ単糖類です。ケトン基とは、炭素原子に酸素原子が二重結合した構造(>C=O)で、アルデヒド基とは異なり分子の末端ではなく内部に位置します。
参考)ケトース - Wikipedia

最も代表的なケトヘキソース(六炭糖のケトース)はD-フルクトースです。フルクトースは果糖とも呼ばれ、果物や蜂蜜に多く含まれています。ケトースの分類には、ケトトリオース(ジヒドロキシアセトン)、ケトテトロース(エリトルロース)、ケトペントース(キシルロース、リブロース)、ケトヘキソース(プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース)などがあります。​
六炭糖のケトースでは、不斉炭素原子が3個あるため、理論上2³=8種類の立体異性体が存在し、アルドースよりも種類が少なくなります。フルクトースは水溶液中で鎖状構造、六員環構造(ピラノース)、五員環構造(フラノース)の間で平衡状態にあります。
参考)グルコースとは?単糖類の構造式や性質をまとめて解説!|高校生…

アルドースとケトースの異性体関係

アルドースとケトースは互いに異性化可能な関係にあります。生体内では、エンジオールを経由してアルドースとケトースが相互変換されます。この反応はLobry de Bruyn-van Ekenstein転位として知られており、塩基性環境下で起こります。
参考)ガレクチンとガラクトースの起源 —第2部—

具体的には、グルコース(アルドース)とフルクトース(ケトース)は互いに構造異性体の関係にあります。両者は同じ分子式C₆H₁₂O₆を持ちますが、官能基の位置が異なります。この異性化反応は解糖系などの代謝経路で重要な役割を果たしています。youtube​
参考)解糖系 - Wikipedia

環状構造の見分け方として、環状構造にCH₂OH基が1つならアルドース、2つならケトースという判別法があります。この簡便な方法は、複雑な糖の構造を素早く識別する際に有用です。アルドースとケトースの相互変換は、生体内の糖代謝において重要な調節点となっています。
参考)Reddit - The heart of the inte…

アルドースとケトースの臨床的意義と代謝経路

アルドースとケトースは、臨床医学において重要な代謝的意義を持ちます。特に糖尿病領域では、ポリオール経路と呼ばれる代謝経路が注目されています。ポリオール経路では、アルドース還元酵素によってグルコース(アルドース)がソルビトールに変換され、さらにソルビトール脱水素酵素によってソルビトールがフルクトース(ケトース)に変換されます。
参考)心虚血再灌流障害におけるアルドース還元酵素の役割の解明

高血糖状態では、ポリオール経路の代謝が亢進し、糖尿病性網膜症、腎症、神経障害などの合併症発症に関与します。細胞内のポリオール経路の代謝亢進による補酵素NADPHの過剰消費が組織障害を引き起こすと考えられています。アルドース還元酵素阻害薬は、これらの糖尿病合併症を予防する治療薬として研究されています。
参考)https://www.mdpi.com/2218-1989/11/10/655/pdf

臨床検査においても、アルドースとケトースの区別は重要です。アルドースは還元性を示し、フェーリング液やベネジクト液などの酸化剤によって容易に酸化されてアルドン酸になります。この還元性は血糖測定や尿糖検査の原理に応用されています。一方、ケトースであるフルクトースもα-ヒドロキシケトン構造のため還元性を示しますが、その反応性はアルドースとは異なります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/3/9/3_9_484/_pdf/-char/ja

希少糖の医療応用も進んでおり、特にD-アルロース(ケトースの一種)は食後血糖抑制効果が報告されています。2型糖尿病患者において、D-アルロースを含む糖尿病食は食後血糖値を改善し、インスリン分泌能力への保護効果も示されました。このように、アルドースとケトースの代謝的特性を理解することは、糖尿病治療や栄養療法の新たな選択肢を提供しています。
参考)希少糖の医療応用:糖尿病および肥満症におけるD-アルロースの…

アルドースとケトースの還元性と酵素反応

アルドースとケトースは、それぞれ特徴的な還元性を持ちます。アルドースはアルデヒド基を持つため、トレンス試薬などの酸化剤によって容易に酸化され、還元糖として分類されます。Willstatter-Schudel法では、アルカリ性ヨウ素液(次亜ヨウ素酸)によってアルドースが定量的にグルコン酸に酸化される反応が利用されており、この反応は基本的にケトースには適用されません。​
アルドースイソメラーゼは、アルドースとケトースを相互変換する酵素で、希少糖の生産に利用されています。また、ポリオール脱水素酵素はケトースと糖アルコールを結びつける酵素として機能します。これらの酵素反応は、微生物や関連酵素を用いた希少糖の生合成に応用されています。
参考)酵素や微生物を用いた希少糖の生産

Aldo-keto reductase(AKR)ファミリーは、アルドースやケトースを含む広範な基質を代謝する酵素群です。このファミリーには、アルドース還元酵素、アルデヒド還元酵素、ヒドロキシステロイド脱水素酵素などが含まれ、(α/β)₈バレル構造というタンパク質立体構造を共通の骨格としています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1218714/

抗癌剤耐性との関連では、アルドースケトース還元酵素(AKR1C)の発現上昇がシスプラチン耐性に関与することが報告されています。頭頸部扁平上皮癌細胞において、AKR1C阻害薬による抗癌剤耐性克服の可能性が前臨床試験で評価されており、アルドースとケトースの代謝が癌治療にも関わることが示されています。
参考)https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-23659936/23659936seika.pdf

アルドース還元酵素の生理学的および病理学的役割についての詳細な解説(英文)
希少糖D-アルロースの糖尿病および肥満症における医療応用に関する研究報告
ポリオール経路の生理機能解明に関する熊本大学の研究成果

 

 


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