副腎皮質の球状層から分泌されるアルドステロンは、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系によって精密に制御されています 。血液量や血圧が低下すると、腎臓の傍糸球体細胞からレニンが分泌され、このレニンがアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンIに変換します 。さらにアンジオテンシン変換酵素(ACE)がアンジオテンシンIIを生成し、これが副腎皮質を刺激してアルドステロンの分泌を促進するのです 。
参考)原発性アルドステロン症 - 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 …
アルドステロンの産生は、コレステロールから始まる複数の酵素反応を経て合成されます 。特に、アルドステロン合成酵素(CYP11B2)がアルドステロン産生細胞の特異的マーカーとして機能し、この酵素の発現によってアルドステロンが最終的に合成されます 。興味深いことに、成人の副腎皮質では散在性の細胞集塊(APCC:aldosterone-producing cell cluster)がアルドステロンを産生することが最近発見されています 。
参考)アルドステロン症および類縁疾患
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)も程度は低いものの、アルドステロン分泌に関与しています 。しかし、主要な調節機構はあくまでレニン-アンジオテンシン系であり、血液中のカリウム濃度の上昇も直接的にアルドステロン分泌を刺激します 。
参考)体液量異常の概要 - 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 - M…
アルドステロンは、腎臓の遠位尿細管に作用してナトリウムの再吸収を促進し、同時にカリウムの排泄を増加させる強力なミネラルコルチコイドです 。この作用により、体内のナトリウムが保持されると、浸透圧の原理により水分も同様に保持され、結果として循環血漿量が増加し血圧が上昇します 。
参考)体内でのナトリウムの役割の概要 - 12. ホルモンと代謝の…
体液量が減少した状態では、アルドステロンの作用によってナトリウムの濾過量が減少し、近位尿細管からのナトリウム再吸収が増強されることで、体内のナトリウム保持量が効果的に増加します 。同じメカニズムは唾液腺、汗腺、腸管粘膜でも機能し、全身的な電解質バランスの維持に貢献しています 。
大量の細胞外液が失われた際(約10%程度の減少)には、アルドステロンによるナトリウム再吸収促進と同時に、口渇感が誘発されることで水分補給が促進されます 。この二重の調節機構により、体液量の恒常性が効率的に維持されるのです 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/5/104_906/_pdf
原発性アルドステロン症は、副腎皮質からアルドステロンが過剰に分泌されることで引き起こされる疾患で、高血圧患者の5~10%を占める重要な病態です 。この疾患では、アルドステロン過剰による水分と電解質の不均衡が様々な症状を引き起こします 。
参考)副腎疾患(原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞…
最も特徴的な症状は高血圧で、通常の降圧薬が効きにくい若年発症の持続的な高血圧として現れることが多いです 。血圧上昇に伴って頭痛、動悸、耳鳴り、めまいなどの症状が出現する場合があります 。
参考)原発性アルドステロン症
低カリウム血症による症状も重要な特徴で、筋力低下、全身倦怠感、手足のしびれやけいれんが認められます 。さらに多尿・多飲、夜間頻尿、便秘といった症状も出現し、重症化すると心電図異常や不整脈を引き起こすリスクもあります 。
参考)二次性アルドステロン症 - 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 …
長期的には、アルドステロン過剰状態が継続することで、脳卒中、心房細動、冠動脈疾患、腎障害などの発症率が他の高血圧患者と比較して高くなることが報告されています 。軽症例では無症状で経過することもあるため、高血圧と血清カリウムの同時評価による早期発見が重要です 。
原発性アルドステロン症の治療は、アルドステロンの作用を抑制することが主眼となります 。両側性病変や手術適応外の症例では、薬物療法が治療の中心となり、アルドステロン拮抗薬が第一選択として使用されます 。
参考)副腎の新しい治療~原発性アルドステロン症に対する新しい低侵襲…
スピロノラクトンは代表的なアルドステロン拮抗薬で、通常50mg/日から開始し、効果に応じて約100mg/日まで1~3ヶ月かけて増量します 。スピロノラクトンはアンドロゲン受容体阻害作用があるため、男性では女性化乳房や性機能障害を引き起こす可能性があります 。
エプレレノン(商品名:セララ)は、より選択的なアルドステロン拮抗薬として使用され、アンドロゲン受容体への作用がないため、スピロノラクトンの副作用が問題となる男性患者の長期治療に適しています 。通常50mg/日から開始し、最大200mg/日まで増量可能です 。
参考)原発性アルドステロン症には2種類あり、治療法が異なります。
カルシウム拮抗薬(マニジピン、ニフェジピン徐放薬、アムロジピンなど)も併用療法として有用で、アルドステロン分泌抑制作用も報告されています 。ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の投与開始6ヶ月以降にレニン抑制が解除されることで、長期腎機能が良好に保たれることも明らかになっています 。
参考)アルドステロン症 診断の手引き - 小児慢性特定疾病情報セン…
副腎皮質では、アルドステロンとコルチゾールという2つの主要なステロイドホルモンが産生されますが、それぞれ異なる役割と産生部位を持っています 。アルドステロンは副腎皮質の最外層である球状層で産生される一方、コルチゾールは束状層で合成されます 。
参考)副腎とは
両ホルモンの合成経路は、コレステロールから出発して複数の共通酵素(CYP11A1、HSD3B2、CYP21A2)を経由しますが、最終段階で異なる特異的酵素が働きます 。アルドステロン合成にはCYP11B2(アルドステロン合成酵素)が、コルチゾール合成にはCYP11B1(ステロイド11β-水酸化酵素)が特異的に機能します 。
機能面では、アルドステロンが主に電解質バランスと血圧調節を担当するのに対し、コルチゾールは糖質代謝の調節、ストレス応答、抗炎症作用など、より広範囲な生理機能を担っています 。コルチゾールはグリコーゲンの生成と貯蔵を促進し、必要時にはタンパク質を使った糖新生により血糖値を維持する重要な役割を果たします 。
参考)副腎皮質ホルモンはどんなもの?
両側副腎摘出が必要な場合、コルチゾールは生存に絶対必要なホルモンであるため合成薬による補充療法が必須となりますが、アルドステロンの補充は必ずしも必要ではなく、片側副腎が残存すれば十分な量の産生が可能です 。この違いは、両ホルモンの生理学的重要度の差を示しています。