エプレレノンとスピロノラクトンの違い

エプレレノンとスピロノラクトンはどちらもミネラルコルチコイド受容体拮抗薬ですが、受容体選択性や副作用プロファイルに重要な違いがあります。医療従事者として両者の特徴を正しく理解できていますか?

エプレレノンとスピロノラクトンの違い

この記事のポイント
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受容体選択性の違い

エプレレノンはスピロノラクトンの約8倍高いミネラルコルチコイド受容体への選択性を有し、性ホルモン受容体への親和性が1/100以下

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副作用発現率の差

スピロノラクトンは女性化乳房が約9%発現するのに対し、エプレレノンは約0.5%とプラセボと同等レベル

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臨床適応と効果

両剤とも高血圧・心不全治療に有効だが、近年エプレレノンの優位性を示すデータが増加傾向

エプレレノンの受容体選択性と作用機序

 

エプレレノンは選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬として、アルドステロンがMRに結合するのを阻害することで効果を発揮します。レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)において、アルドステロンは腎尿細管上皮細胞や心臓、血管、脳などの非上皮組織に発現しているMRに結合し、ナトリウム再吸収及びその他の機序を介して血圧を上昇させます。
参考)医療用医薬品 : エプレレノン (エプレレノン錠25mg「杏…

受容体親和性の観点から見ると、エプレレノンはラット鉱質コルチコイド受容体への相対的親和性が0.51であるのに対し、糖質コルチコイド受容体への親和性は1/20以下、アンドロゲン受容体およびプロゲステロン受容体では1/100以下という高い選択性を示します。一方、スピロノラクトンは糖質コルチコイド受容体への相対的親和性が0.18、アンドロゲン受容体が0.91、プロゲステロン受容体が0.70と、エプレレノンに比べて各種性ホルモン受容体にも強く結合する特性があります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/132/4/132_4_227/_pdf

興味深いことに、in vitro実験ではスピロノラクトンがエプレレノンより約20倍強い鉱質コルチコイド受容体拮抗作用を示すものの、in vivoでは両者の効力がほぼ同程度となることが報告されています。これは体内動態や代謝物の影響によるものと考えられています。​

スピロノラクトンの性ホルモン関連副作用

スピロノラクトンの最も特徴的な副作用は、アルドステロン受容体以外の性ホルモン受容体への作用に起因するものです。スピロノラクトンはアンドロゲン(男性ホルモン)やプロゲステロン(女性ホルモン)受容体にも結合してしまうため、長期使用により男性では女性化乳房、女性では月経不順や多毛などの副作用を起こすことがあります。
参考)第6回 スピロノラクトンの女性化乳房はなぜ起こるの?

臨床データによると、スピロノラクトン使用時の女性化乳房発現率は約9%と報告されており、これは決して無視できない頻度です。ある保険薬局での事例では、スピロノラクトン服用中の男性患者が「おっぱいが痛い」と訴えて整形外科を受診し、原因が分からず湿布が処方されたケースがありました。薬局薬剤師が患者の症状からスピロノラクトンによる女性化乳房の可能性を疑い、適切な対応につながりました。
参考)セララ href="https://heart-clinic.jp/%E3%82%BB%E3%83%A9%E3%83%A9" target="_blank">https://heart-clinic.jp/%E3%82%BB%E3%83%A9%E3%83%A9amp;#8211; Welcome to 佐野内科ハート…

この副作用機序は「副次的な薬理作用による副作用」に分類されます。主薬理作用であるアルドステロン拮抗作用以外に、構造的に類似した性ホルモン受容体にも結合してしまうことが原因です。
参考)第58回 スピロノラクトンの女性化乳房はなぜ起こるの?

エプレレノンとスピロノラクトンの臨床効果比較

高血圧や心不全に対する両剤の効果について、従来は同等とされてきましたが、近年はエプレレノンの優位性を示すデータが増えています。心不全治療においては、両剤ともFantastic fourの一つとしてミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の使用が推奨されています。
参考)『セララ』と『アルダクトン』、同じミネラルコルチコイド受容体…

RALES試験では、スピロノラクトンが慢性重症心不全患者の死亡率を30%低下させることが示されました。一方、EPHESUS試験では、急性心筋梗塞後の重症心不全患者においてエプレレノン投与群で生存率の改善が証明されています。
参考)https://www.lifescience.co.jp/cr/zadankai/0608/4.html

最近のメタ解析では、心不全患者に対してエプレレノン群がスピロノラクトン群と比較して左室全体縦ストレイン(LV GLS)が有意に改善したことが報告されています(0.6±0.4 versus 3.4±0.9; P<0.05)。また、複合アウトカムである死亡率と入院率においてもエプレレノン群が統計学的に有意な改善を示しました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10227849/

降圧効果については、スピロノラクトンは降圧効果を発揮するためにかなりの投与量が必要でしたが、エプレレノンは常用量でカルシウム拮抗薬と同等以上の降圧効果があると報告されています。治療抵抗性高血圧への追加投与でも良好な降圧効果が認められます。
参考)ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、アンジオテンシン受容体ネプ…

エプレレノンの副作用プロファイルと安全性

エプレレノンの最も重要な副作用は、スピロノラクトンと同様に高カリウム血症です。高血圧症患者では1.7%、慢性心不全患者では7.3%の頻度で高カリウム血症が報告されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00070761.pdf

EMPHASIS-HF試験では、エプレレノン群で2%以上の被験者に認められた副作用は高カリウム血症6.6%のみでした。メタ解析によると、K+≥5.5 mmol/lの高カリウム血症のリスクはエプレレノン群で有意に高く(RR=1.70, 95%CI=1.35-2.13, P<0.00001)、K+≥6.0 mmol/lでも同様の傾向が見られました(RR=1.61, 95%CI=1.06-2.44, P=0.02)。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00053675.pdf

一方、性ホルモン関連の副作用についてはスピロノラクトンと明確な差があります。エプレレノンはアルドステロン受容体への選択性が高く、プロゲステロン受容体やアンドロゲン受容体には100分の1から1000分の1の親和性しかないため、性ホルモン関連の副作用報告は少ないとされています。男性における女性化乳房の発現頻度は約0.5%と非常に少なく、これはプラセボとほとんど有意差がありません。​
エプレレノンは選択的にアルドステロン受容体をブロックするため、スピロノラクトンと比べて性ホルモン受容体に対する影響が少なく、女性化乳房などの副作用が軽減されています。
参考)選択的アルドステロン受容体拮抗薬(エプレレノン) href="https://kobe-kishida-clinic.com/endocrine/endocrine-medicine/selective-aldosterone-receptor-antagonist/" target="_blank">https://kobe-kishida-clinic.com/endocrine/endocrine-medicine/selective-aldosterone-receptor-antagonist/amp;#821…

エプレレノンとスピロノラクトンの使い分けと経済性

両剤の使い分けについて、各種ガイドラインではスピロノラクトンが第一選択薬として推奨されることが多い状況です。その理由として、スピロノラクトンは大規模臨床試験で重症心不全に対する臨床効果に優れること、浮腫など他剤と比して広範囲の適応症を有すること、小児へも使用が可能であること、そして安価で経済性に優れることが挙げられます。
参考)https://sakuragaoka.jcho.go.jp/wp-content/uploads/2024/08/MR%EF%BC%882024.8-.pdf

エプレレノンは第二選択薬として位置づけられ、スピロノラクトンより適応範囲は狭いものの、大規模臨床試験でも高い臨床効果が実証されています。最も重要な使い分けのポイントは、スピロノラクトンで発現する性ホルモン関連副作用(男性の女性化乳房・月経痛・陰萎)が少ないことです。​
薬価の面では、スピロノラクトン25mg錠のジェネリック医薬品が5.9円/錠であるのに対し、エプレレノン25mg錠のジェネリック医薬品は10.90円/錠、先発品のセララ錠25mgは20.6円/錠と、スピロノラクトンの方が経済的です。この価格差は長期投与において無視できない要素となります。
参考)商品一覧 : アルドステロン拮抗薬

原発性アルドステロン症の治療においては、腺腫が片側に存在し手術可能な場合は手術が選択肢となりますが、両側性過形成の場合や手術を希望されない方は薬物療法が基本となります。アルドステロン受容体拮抗薬(スピロノラクトンやエプレレノンなど)がアルドステロンの作用を抑制して血圧を下げるだけでなく、カリウム低下を防ぐ効果もあります。
参考)原発性アルドステロン症の診断と治療の進め方 - 神戸きしだク…

臨床現場では、特に相互作用リスクが問題にならなければエプレレノンを使う機会が多くなってきています。エプレレノンや スピロノラクトンは高血圧や心不全などの治療で長期に渡って使い続ける薬であり、性ホルモンに関連した副作用が少ないエプレレノンは、スピロノラクトンよりも治療を挫折しにくく、継続しやすい薬と言えます。​
セララ®(エプレレノン)錠の薬理学的特徴および臨床試験成績 - 日本薬理学雑誌
エプレレノンの詳細な薬理学的特性と受容体親和性データについて解説されています。

 

『セララ』と『アルダクトン』、同じミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の違いは?
両剤の受容体選択性の違いと副作用プロファイルについて、薬剤師向けに分かりやすく説明されています。

 

 


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