腸重積症 症状と治療方法の早期発見と対応

腸重積症の特徴的な症状、診断方法、そして効果的な治療アプローチについて医療専門家向けに解説。小児科における緊急疾患としての対応はどうあるべきか?

腸重積症の症状と治療方法

腸重積症の基本情報
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定義

腸の一部が隣接する腸管内に入り込み、血流障害と通過障害を引き起こす状態

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好発年齢

3ヶ月〜2歳の乳幼児に多い

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緊急性

放置すると腸管壊死・穿孔に至る緊急疾患

腸重積症の発症メカニズムと好発年齢

腸重積症は、腸管の一部が隣接する腸管内に入り込む(陥入する)ことで発症する急性腹症です。典型的には、小腸(回腸)が大腸(結腸)内に入り込む回盲部型が最も多く見られます。この状態によって腸管の血行障害や通過障害が引き起こされ、適切な治療が行われないと、腸管壊死・穿孔・腹膜炎へと進行し、生命を脅かす状態となりえます。

 

腸重積症の好発年齢は生後3ヶ月から2歳頃までの乳幼児です。この年齢層に多い理由として、以下の要因が考えられています。

  • ウイルス感染症による腸管壁のリンパ組織(リンパ濾胞)の腫大
  • 乳児期特有の腸管運動の未発達
  • 回盲部の解剖学的特徴(回腸末端が盲腸内に突出している)

特に風邪などのウイルス感染後に発症することが多く、感染により腫大したパイエル板(腸管壁のリンパ組織)が腸管の蠕動運動によって引き込まれ、重積の先進部となることがあります。

 

一方、3歳以上の小児や成人に発症する腸重積症では、メッケル憩室、腸管ポリープ、腫瘍などの器質的疾患が原因となっている可能性が高くなるため、年齢による病因の違いを認識することが重要です。これらの症例では、器質的疾患の存在を念頭に置いた検査・治療計画を立てる必要があります。

 

腸重積症の特徴的な症状と診断方法

腸重積症の症状は、その進行過程において特徴的な変化を示します。初期症状から診断に至るまでの臨床経過を理解することは、早期発見・早期治療につながります。

 

典型的な症状経過

  1. 間欠的な腹痛:最も特徴的な症状が突然の激しい腹痛で、痛みは強くなったり弱くなったりを繰り返します。小さな子どもでは、突然の泣き叫びや不機嫌として現れます。
  2. 嘔吐:初期には反射性の嘔吐がみられ、腸閉塞が進行すると胆汁性嘔吐となります。
  3. 血便:発症から数時間〜半日後に、いわゆる「イチゴゼリー状の血便」(粘液と血液が混じった特徴的な便)が認められます。これは、重積した腸管の粘膜からの出血によるものです。
  4. 腹部膨満:時間経過とともに腸閉塞症状が進行し、腹部膨満が顕著になります。
  5. 意識状態の変化:重症例では、脱水や毒素吸収により意識レベルの低下がみられることがあります。

診断のポイント
腸重積症の診断は、典型的な病歴と身体所見から疑われ、以下の検査によって確定されます。

  • 腹部触診:右上腹部または上腹部に「ソーセージ様」または「腎様」の腫瘤として触知されることがあります。触診時の圧痛は必ずしも強くありません。
  • 腹部超音波検査:最も有用な診断ツールで、特徴的な「ドーナツサイン」(横断像)や「偽腎サイン」(縦断像)が観察されます。感度は約98〜100%と非常に高いとされています。
  • 腹部X線検査:特異的所見は少ないですが、小腸の拡張像や腸内ガスの減少などの間接所見が認められることがあります。
  • 注腸造影検査:診断と治療を兼ねて行われることが多く、特徴的な「カニの爪サイン」や「コイルスプリングサイン」が見られます。

早期診断のためには、乳幼児の突然の泣き叫びや間欠的な不機嫌さに対して、腸重積症を鑑別診断に入れておくことが重要です。特に、腹部所見が乏しい初期段階でも超音波検査を積極的に行うことで、診断率の向上につながります。

 

非観血的整復術による腸重積症の治療

腸重積症の第一選択治療は、非観血的整復術(保存的治療)です。この治療法は侵襲が少なく、成功率も高いため、適応となる症例では最初に試みられます。

 

非観血的整復術の概要
非観血的整復術は、肛門から造影剤(バリウム)や空気、生理食塩水などを注入し、その圧力を利用して重積した腸管を元の位置に戻す方法です。以下の2種類が一般的に行われています。

  1. 空気圧整復法(Air Enema)
    • 肛門から空気を注入する方法
    • 造影剤を使用しないため被曝量が少なく、穿孔しても腹膜炎のリスクが低い
    • 透視下で行い、圧力を60〜120 mmHgに調整
  2. 液体圧整復法(Hydrostatic Reduction)
    • バリウムや生理食塩水を使用
    • 超音波ガイド下で行うこともある(超音波ガイド下整復法)
    • 圧力は100 cmH2O程度に設定

適応と禁忌
非観血的整復術の適応条件。

  • 発症から24時間以内の症例
  • 全身状態が安定している
  • 腹膜刺激症状がない
  • 腸閉塞症状が軽度

以下の場合は、非観血的整復術の禁忌となり、手術的治療が選択されます。

  • 腹膜炎の徴候がある
  • ショック状態
  • 発症から長時間(24時間以上)経過している
  • 腸管穿孔の疑いがある
  • 非観血的整復術の既往があり再発を繰り返している

治療効果と成功率
非観血的整復術の成功率は全体で約76%とされています。特に発症から24時間以内の症例では79%、24時間以上経過した症例では53%と報告されています。整復成功の判定は、回盲部を超えて回腸末端まで造影剤や空気が到達することで確認されます。

 

成功率に影響する因子として以下が挙げられます。

  • 発症からの時間(早期ほど成功率が高い)
  • 患者の年齢(3歳以下で成功率が高い)
  • 重積の種類と程度
  • 血便の有無(重症度を反映)

合併症と注意点
非観血的整復術の主な合併症は腸管穿孔で、発生頻度は約0.1〜0.4%と報告されています。穿孔を防ぐための注意点として。

  • 適切な圧力設定と緩徐な圧力上昇
  • 整復操作の時間制限(通常30分以内)
  • 穿孔が疑われた場合の即時中止

整復後は最低24時間の入院観察が必要で、腹痛の再燃や嘔吐、血便などの再発徴候に注意します。また、食事再開は慎重に行い、腸管の蠕動運動が回復したことを確認してから段階的に進めていきます。

 

非観血的整復術の成功率向上には、発症早期の診断と迅速な治療開始が鍵となります。小児科医と放射線科医の連携により、適切なタイミングでの介入が可能になります。

 

観血的整復術が必要となるケースと手術内容

非観血的整復術が不成功の場合や、初めから手術適応となるケースでは、観血的整復術(手術治療)が必要となります。手術の適応と具体的な手技について理解しておくことは、治療方針の決定に重要です。

 

手術適応となるケース
以下のような状況では、初めから手術治療が選択されます。

  • 非観血的整復術が失敗した場合
  • 腹膜炎徴候やショック状態がある
  • 腸管穿孔の疑いがある
  • 発症から24時間以上経過している重症例
  • 非観血的整復術に対する禁忌がある
  • 腸重積症を繰り返す再発例(特に短期間に複数回)
  • 3歳以上で器質的疾患が疑われる場合

手術術式の選択
手術アプローチには、開腹手術と腹腔鏡手術があります。近年では低侵襲性の観点から、腹腔鏡手術が増えています。

 

  1. 開腹手術
    • 臍の右側に縦切開(4〜5cm)を加えて開腹
    • 重積腸管を直接触知して用手的に整復
    • 腸管壊死や穿孔があれば切除・吻合を実施
  2. 腹腔鏡手術
    • 3〜4ポートで実施
    • 鉗子を用いて牽引しながら整復
    • 必要に応じて小開腹を追加して腸管切除・吻合

手術の実際と注意点
手術では以下の手順で整復が行われます。

  1. 全身麻酔下で開腹または腹腔鏡アプローチ
  2. 重積部位の確認
  3. 重積腸管の末梢側から用手的に押し戻す(しごき出す)操作
  4. 腸管の色調・蠕動の確認
  5. 器質的病変の有無の検索
  6. 必要に応じて腸管切除・吻合

重要な注意点として、以下が挙げられます。

  • 腸管の牽引は慎重に行い、過度の牽引による穿孔を避ける
  • 整復後に腸管の血流・色調を必ず確認
  • 腸管壊死部位は適切に切除
  • 3歳以上の症例では、器質的病変(メッケル憩室、ポリープ、腫瘍など)の検索を丁寧に行う

術後合併症と管理
術後の主な合併症には以下があります。

  • 創部感染(約5〜10%)
  • イレウス(約10%)
  • 縫合不全(腸管切除を行った場合)
  • 再発(約5%)

術後管理のポイントは。

  • 適切な抗菌薬投与
  • 腸管蠕動の回復に合わせた段階的な食事再開
  • 腹部膨満・嘔吐などのイレウス徴候の監視
  • 再発徴候の早期発見

観血的整復術後の入院期間は、腸切除を伴わない場合で約1週間、腸切除を伴う場合で約1〜2週間程度が一般的です。術後の経過観察は外来で継続し、再発徴候の早期発見に努めることが重要です。

 

腸重積症の再発リスクと長期的フォローアップ

腸重積症は一度治療に成功しても再発する可能性があり、その再発率や再発時の対応についての知識は臨床上重要です。また、長期的なフォローアップの視点も考慮する必要があります。

 

再発率と再発リスク因子
腸重積症の再発率は治療法によって異なります。

  • 非観血的整復術後:約11〜15%
  • 観血的整復術後:約4〜5%
  • 全体平均:約10%

再発のリスク因子として以下が挙げられます。

  • 年齢(1歳未満で再発リスクが高い)
  • 初回発症時の重症度
  • 家族歴の存在
  • 特定の季節(ウイルス性胃腸炎が流行する時期)
  • 基礎疾患の存在(特に免疫異常を伴う疾患)

再発の多くは初回整復後48時間以内に生じるため、この期間の厳重な観察が重要です。しかし、まれに数週間から数ヶ月後に再発する例もあります。

 

再発時の対応
再発時の治療方針は基本的に初回と同様ですが、以下の点に注意が必要です。

  1. 1回目の再発。
    • 非観血的整復術を第一選択として考慮
    • 成功率は初回とほぼ同等
  2. 2回目以降の再発。
    • 短期間に複数回再発する場合は観血的整復術の検討
    • 器質的疾患の検索を徹底
  3. 再発を繰り返す例(反復性腸重積症)。
    • 免疫学的精査(リンパ濾胞増殖の背景疾患の検索)
    • 小腸造影や内視鏡検査による器質的病変の検索
    • 腸管固定術の適応検討

長期的なフォローアップの視点
通常の医学文献ではあまり言及されない長期フォローアップの視点として、以下の点が重要です。

  1. 長期的な消化器症状のモニタリング
    • 乳幼児期の腸重積症経験者が成長後に過敏性腸症候群様症状を呈することがある
    • 腸管運動機能の長期的変化の可能性
  2. 心理的サポート
    • 急性腹症の体験による医療処置への恐怖心
    • 保護者の不安軽減のための継続的な説明と支援
  3. 再発予防のための生活指導
    • バランスの良い食事と規則正しい排便習慣
    • 急性胃腸炎時の観察ポイント指導
  4. 成長発達への影響の評価
    • 特に手術治療を受けた場合の栄養吸収への長期的影響
    • 腸管癒着による潜在的問題の可能性

エビデンスに基づくフォローアップ計画
腸重積症治療後の具体的なフォローアップ計画として、以下のような段階的アプローチが推奨されます。

  • 短期(1ヶ月以内)
  • 1週間後の外来診察(腹部症状、排便状況の確認)
  • 必要に応じた超音波検査
  • 中期(6ヶ月以内)
  • 1〜3ヶ月ごとの外来診察
  • 成長曲線の評価
  • 再発徴候の早期発見と保護者教育
  • 長期(1年以上)
  • 半年〜1年ごとの経過観察
  • 反復例や手